SSブログ

吉村昭 虹の翼 [日記(2008)]


虹の翼 (1980年)

虹の翼 (1980年)

  • 作者: 吉村 昭
  • 出版社/メーカー: 文芸春秋
  • 発売日: 1980/09
  • メディア: -


 明治中期に独力で飛行機制作に挑み、未完に終わった二宮忠八の物語です。本書も吉村昭の多くの小説同様歴小説で、明治という時代背景を丁寧に描き込み、空を飛ぶという夢を追い続けたひとりの男の姿を鮮明に浮かび上がらせます。

 作者は、実家の破産で進学を諦め、写真師助手、測量士、軍隊の調剤士(薬剤師)、製薬会社の社員として生活しながら、一貫して飛行機発明への夢を持ち続けた忠八の人生を慈しみに満ちた筆致で描き出します。忠八を飛行機への情熱にとりつかれた先駆者であることに加え、実直な職業人として、また時代の先端で奮闘する企業家の姿として描きます。
 

 リリエンタール兄弟がグライダーで滑空に成功したのが明治23年。その翌年の明治24年に忠八はプロペラ駆動・単葉のゴム動力模型飛行機で飛行理論を実証しました。これはライト兄弟に遡ること12年であり、やっと近代化をなしえた東洋の島国で、飛行理論に基づくプロペラ飛行機が生まれたことは、模型とはいえ彼の先駆性かつ独創性がうかがえます。

 二宮忠八に限らず誰しも少年時代には様々な夢を抱きますが、成人し世間の波にもまれる間に、その夢はやがて色褪せ遠いものとなります。少年時代に描いた空を飛びたいという夢を、市井人として企業家として生きながら終生抱き続け実現しようと試みた二宮忠八の人生を、作者は暖かいまなざしで追います。吉村昭の興味は、先駆者としての二宮忠八というよりも、子供っぽい夢を生涯胸に秘め、夢に突き動かされる様に生きた二宮忠八の人生にあるように感じます。これは、同じ明治人で陸軍軍医総監のかたわら小説を書き続けた森鴎外を思い出します。作家・吉村昭の小説の題材としては、文豪鴎外より飛行機発明の栄誉を逃した二宮忠八がふさわしような気がします。
作者の暖かいまなざしが感じられ、吉村昭の歴史小説の中では異色です。

少年時代の夢を捨てきれない人にはお勧めです →☆☆☆
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0