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ロバート・ゴダード 蒼穹のかなたへ [日記(2008)]

蒼穹のかなたへ〈上〉 (文春文庫)

蒼穹のかなたへ〈上〉 (文春文庫)

  • 作者: ロバート ゴダード
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1997/08
  • メディア: 文庫


 収賄で勤め先を首になり、ギリシャのロードス島でヴィラの管理人をしている冴えない中年のイギリス人、ハリーが主人公です。観光で島に来た元勤務先のオーナーの娘ヘザーが、プロフィティス・イリヤスで行方不明となることから物語の幕が開きます。過去の経緯から当然ハリーが疑われます。ハリーにヴィラの管理人の仕事を斡旋した古い友人で英国国防次官のアラン・ダイサート、ハリーに収賄の冤罪を着せたヘザーの兄ロイが登場し、『(ハリーは)一連の出来事の鎖のなかのひとつのもろい輪』だと新聞記者ジョナサン・ミンターに語らせる辺りから物語は俄然面白くなります。偶然、ヘザーの荷物から写真現像の受け取りを見つけ彼女が撮った写真を入手します。ヘザー誘拐の汚名を晴らすために、24枚の写真に導かれて彼女の行動をたどりヘザーを探す旅が始まります。ヘザーは何故失踪したのか、何処のいるのか、生きているのか死んでいるのか、これが物語の前半の謎とストーリーを引っ張ります。

 写真が撮られた場所を巡り、ヘザーが会った人物に会い、謎はますます深まってゆきます。ヘザーの失踪の背景に、ヘザーの精神科の主治医、IRAのテロの犠牲となった彼女の姉、姉の雇い主でる国防次官、元雇用先の国防関連会社、国防次官のオックスフォード時代の友人、が登場し謎は拡大してゆきます。こうした複雑な人間関係が、オックスフォードのカレッジのゲストハウス、古い教会、修道士会が経営する寄宿学校、いかにもイギリスらしいリゾートペンション、港町のパブを舞台にリリカルに展開するのです。キャプション通り『イングランド』のゴシックロマンですね。失踪したヘザーの行方を追うことは、そのままヘザーが追い求めた謎を追うこととなり、人の運命の不可思議を照らし出すという重層構造で最後まで飽きさせません。

 ちなみに、訳者は女性の方で訳文は大変読みやすいです。原文のせいかどうか分かりませんが抑制の効いた名訳です。

久々に重厚なミステリーを堪能しました →☆☆☆☆★


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コメント 4

ゴダートの作品は刑事や探偵ではなく「普通のおっさん」が
活躍する作品ばかりなのですよね^^
この作品も失業した男性が主人公で巻き込まれ型の展開ですね~
まだ未読のようなので今度探して読んでみます☆
by (2008-02-17 00:17) 

べっちゃん

 出先です。
お勧めします。最近はハードボイルドばかり読んできたので新鮮でした。古本で『リオノーラの肖像』か『千尋の闇』を探そうと思います。英国ミステリーを見直し、サラ・ウォーターズ『半身』を読み始めました。
by べっちゃん (2008-02-17 14:32) 

Betty

こちらへお邪魔します!
この作品はシリーズ作でした。今日、本屋さんで新刊の『還らざる日々』が発売されていて知りました。この「蒼穹のかなたへ」の間に「日輪の果て」という作品が入って現在、3部作のようです♪
by Betty (2008-07-21 01:06) 

べっちゃん

冴えない中年ハリーがシリーズとなっているのですね。ゴダードは『千尋の闇』も未読、マイクル・コナリーも溜まってきたし、仕事は忙しいし、DVDも観ないといけないし・・・。
by べっちゃん (2008-07-23 22:17) 

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