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ジェフリー・ディーヴァー ボーン・コレクター [日記(2008)]

ボーン・コレクター〈上〉 (文春文庫)

ボーン・コレクター〈上〉 (文春文庫)

  • 作者: ジェフリー ディーヴァー
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2003/05
  • メディア: 文庫

 ボッシュ・シリーズの舞台はロス市警でしたが、本書はニューヨーク市警です。ヒーローは元ニューヨーク市警中央科学捜査部長リンカーン・ライム40歳。凝っているのは、この主人公が、第4頸椎損傷のため左手の薬指を除いて首から下は全く動かない、という設定です。車椅子の探偵はいましたが(アイアンサイド)、ここまで完璧な安楽椅子探偵は初めてです。薬指で操作する環境制御装置のパネル、呼吸気スイッチ、顎で操作するジョイスティック、音声認識でタイプするコンピュータに囲まれて捜査をするわけです。

 おまけにライムと安楽死推進団体に所属する医者との「自殺する権利」をめぐる会話まで登場します。四肢麻痺患者であるライムは、80歳まで40年間を生きながらえるより、長い人生に終止符を打つ権利を行使したいというわけです。巻末に「リンカーン・ライム著『証拠物件』第4版巻末洋が解説より抜粋」の『用語解説』まである念のいれようです。そして事件は猟奇殺人ですからたまりませんね。この「自殺願望」についても物語の伏線として、後々効いてきます。

 ハリー・ボッシュシリーズは、警察小説というよりハードボイルドでした。従って、ボッシュの個性、ボッシュの言動がストーリーを動かしてゆく視点で展開します。本書も主人公がいるわけですからその通りなのですが、リンカーン・ライムの個性とリンカーンを取り巻く集団のストーリーといった側面があります。四肢麻痺患者であるリンカーンは動くことができないため、彼の部屋が捜査の指令塔となります。リンカーンを捜査本部に運んだ方がてっとり速いと思うのですが、作家は彼の元相棒やら部下を彼の下にに集めて(なんと走査型電子顕微鏡やガスクロマトグラフまで持ち込んで)物語を展開させます。何時の間にやら、介護士のトムまで捜査員になってしまい、リンカーンを頭脳としたこのチームの動く様は躍動感にあふれ、読んでいてなかなか爽快です。

 リンカーンについては以下の描写が象徴的です、

「ライム?」
「まさか、何年か前までIRD(中央科学捜査部)部長だったあの男ではないだろうね?」
「そうです。彼です。」
「死んだものと思っていたが」
ああいった自己中心的な人間はそう簡単に死なない。
「ぴんぴんしています。」

もう一つ

「動機に興味はない」ライムは答えた。
「私が興味を抱くのは、証拠だ」

さらにもう一つ

「私が常々訪れてみたいと思っている場所がどこだかわかるかい、サックス」
「長年、私を惹きつけて離さない場所-カルヴァリの丘だ。二千年前にキリストが磔にされたという。ぜひとも鑑識を行ってみたい現場だよ。きみはきっとこう言うだろうね-犯人はもうわかっているのに、と。だが、そうだろうか。実は私たちは、目撃者の証言しか知らされていないんだ。私の口癖を覚えているかね?目撃者の証言を鵜呑みにするな、だよ。ひょっとしたら、聖書に書かれたことは、事実に反するのかもしれない。いいかい、証拠はどこにあるんだ?物的証拠は。釘、血液、汗、槍、十字架、葡萄酒はどこだ?履き物の痕、指紋は?」

 圧巻は、第2の殺人現場におけるリンカーンとアメリア・サックス(女性警察官)の行動です。リンカーンは当然犯行現場に行くことはできませんから、無線電話によってアメリアに指示を出し、現場検証をします。凄惨な現場ですくむアメリアを叱咤激励し、リンカーン自身がまるでその場いるかの様に現場検証を進める様は、会話の運びアメリアの心理、現場の描写が相まって迫力があります。ここから物語の本筋がスタートします。

 もうひとつの魅力はアメリア・サックスです。事件の第1発見者であった縁でこの事件の捜査に加わることとなり、文字通りリンカーンの手足となって鑑識、捜査に当たります。スピード狂で爪を噛む癖のある「第一級」の美貌を備えたアメリアは、本書の第二の主人公です。訳者あとがきによると、リンカーン・ライム、アメリア・サックスのコンピは、もちろんトムも含め、『コフィン・ダンサー』『エンプティー・チェア』『石の猿』と続くらしいのですが、楽しみです。

 わずか3日間の出来事が上下で700頁の文庫本に収まっているのですが、息ももつかせぬストーリー展開で飽きさせません。収集された微細な証拠から「未詳823号(犯人)」を絞り込んでゆく様は(ちょと都合がよすぎるんではないか、とも思うんですが)楽しめます。リンカーンにとってはどうでもいい「動機」も読んでいる最中は「?」つきですが、最後は納得させられます。

余談ですが、ライム・リンカーンが孤独について思いを馳せる時の描写に、部屋の壁に貼ったエドワード・ホッパーの『ナイトホークス』のポスターがでてきます(2カ所)。
2007年の文春のミステリーBEST10でディーバーの新作『ウォッチメーカー』が第1位に輝きました。

なんといってもアメリア・サックス →☆☆☆☆★


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コメント 1

こんにちは^^
ディーバーの作品は大好きです☆
ライムシリーズは文庫になっている作品だけ読みました。
ノンシリーズも面白い作品がありますよ!
by (2008-01-23 15:12) 

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