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酒見賢一 墨攻 [日記(2007)]

墨攻 (新潮文庫)

墨攻 (新潮文庫)

  • 作者: 酒見 賢一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1994/06
  • メディア: 文庫

 映画にもなったので見られた方もあるでしょう。舞台は、諸子百家が百科争鳴した中国戦国時代。革離という墨家から派遣された軍事顧問が、趙の軍勢から地方豪族の城郭をたったひとりで守り抜くという痛快な物語です。攻める趙軍勢は10万、守る城郭側は兵1500と邑人4500。この物語の面白さは、10万の軍勢を如何に5000人で守り得たのかに尽きます。墨子・革離の軍事技術者と、邑人を兵士に仕立て挙げ、土木工事で守りを固める様など、黒澤明の『7人の侍』を彷彿とさせます。
 守る方も連弩車(弓の機関銃)、校機(投石機)などの武器が制作され外堀が掘られ、攻める方も戦車を繰り出し、梯子車を繰り出し、城壁に取り付くための工事はするは、トンネルを掘るはで、さすが中国大陸の戦争は違います。この攻防戦も映画『指輪物語』を連想してしまいます。ストーリーも映像的で、映画になったことも頷けます。

 主人公の革離は、地方豪族の要請で『墨家』から派遣された軍事顧問です。『墨守』という言葉は実はこのあたりに由来するらしいのです。需家、道家、『墨家』です。墨子による堅い守りが『墨守』というわけです。今日、当たり前に使っている言葉にこんな背景があるのですね。『墨守』転じて『墨攻』です。
 『墨家』は名前だけは知っていましたが、本書でこの不思議な集団を初めて知りました。孔子によって立てられた需家は、後に権力にすり寄り官製の学問になるわけですが、墨子によって始められた『墨家』は(本書によると)思想集団というより軍事集団、技術集団の性格が濃く、墨子の非攻の精神をもって各地でボランティアの様なことをやっていたようです。その一つが軍事顧問派遣で、その辺りが『墨攻』のモチーフとなっているようです。司馬遷の『史記』でも黙殺され、秦の建国とともに忽然と姿を消したと云われるこの集団は、中国思想史でも謎のようで、興味津々です。
小説としてはちょっと短すぎ、物足りませんが気楽に読めます →☆☆☆★★

映画『墨攻』の公式サイト →http://www.bokkou.jp/
原作には無い女剣士なんか出てきて、面白そうです。


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