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澤地久枝 もうひとつの満州 [日記(2007)]


 澤地久枝は気になっていた作家である。『火はわが胸中にあり』『愛が裁かれるとき』『蒼海よ眠れ』など魅力的な題名が多い。いや、元中央公論副編集長のこわおもてを和服で包む清楚な姿が気になっていたのかもしれない。
 『満州』の一語に惹かれ読み始めた。本書は5歳から16歳まで過ごした満州への郷愁を、反満抗日ゲリラのリーダー楊靖宇の事跡を訪ねることによって相対化しようとした満州紀行である。

 

「引揚げからの四、五年、私は病んでいたと思う。病んでいたのは心であり、病因は『郷愁』である。」

と云い、日本を異郷と感じた理由も、何故、楊靖宇なのかも、多くは語られていない。おそらくこの旅行当時も日本に対するなにがしかの違和感をいだいていたであろうと思われる。
 中国革命の辛酸は、スメドレーやスノーのルポルタージュで広く知られている。本書で語られる17歳でゲリラに身を投じた女性の戦い、楊靖宇の側近であった「小王」の戦いは、著者の『郷愁』の対極『もうひとつ満州』として描かれる。そして、著者自ら

「黄金のごとき子供の日のことや郷愁などの存在する余地は一分も無くなった。完全にとどめをさされた。」
と書き、著者の病は癒えたのかどうか。

 満州に、満・漢・朝鮮・蒙古・日本の五族の共和と王道楽土の夢を託した日本人。儒教の地に「三種の神器」を持ち込み、新たな支配と被支配の関係を押しつけられた満州人。天皇の代理人として満州国皇帝を操り、植民地経営の先鋒であった関東軍。草の根や木の皮で飢えをしのぎつつゲリラ戦を戦った共産匪賊・楊靖宇たち。四者四様の理想の相克こそ、正義を超えた歴史の実態であろう。一方視点を変えると、中鮮連合パルチザンに投じ日本軍と戦った日本人、トラック1台分の弾薬を遊撃軍に送り届けた後自殺した日本兵、戦後心の中で「我的家在東北松花江上」を歌い続けてきた引揚者、中国の国連加盟決議のTV中継に拍手をする著者の母親など、ひとりひとりのドラマがある。
一部の人には面白いだろうが、一般受けはしない →☆☆☆

もうひとつの満洲

もうひとつの満洲

  • 作者: 澤地 久枝
  • 出版社/メーカー: 文芸春秋
  • 発売日: 1986/01
  • メディア: 文庫


タグ:満州
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