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北方謙三 黒龍の柩 [日記(2007)]

黒龍の柩 (上) (幻冬舎文庫)
  新撰組である。キャプションに

 

「命を燃やしながら奔った男たちの青春群像。見果てぬ夢を謳いあげた北方版[新撰組]」

これでもう、本を掴んでレジに向かってしまった。新撰組を描いた小説は多い。有名どころでは、

司馬遼太郎「燃えよ剣」「新撰組血風録」
子母沢寛「新撰組始末記」「新撰組遺聞」
浅田次郎「壬生義士伝」「輪違屋糸里」

時勢に乗り遅れた人切り集団の何が作家を熱くさせるのか。

 池田屋の切り込みから幕があがる。主人公は当然土方歳三。池田屋事件は新撰組が歴史に登場する最初の舞台であり、新撰組の伝説を生み出した舞台である。『黒龍の柩』がこの池田屋事件から始まっていることは象徴的である。池田屋事件以降、新撰組は歴史に登場することによって変質し崩壊の道を辿る。この変質と崩壊の中で土方歳三が目指すことこそが『黒龍の柩』の主題である。新撰組の物語ではなく新撰組のその後の物語である。


 山南の脱走を、伊藤甲子太郎の脱退を最小限の被害でくい止めようとする山南の捨て身の行為とする組立は今までにない。さらに、新撰組を人切り集団から時勢に乗った政策集団?に脱皮させようとする土方歳三と山南の「夢」を背景に、勝海舟、小栗上野介まで登場させ、山南に末期癌を患わせるという手の込みようである。中村半次郎、坂本竜馬まで登場し、読者サービスも十分である。なんと、人切り半次郎と沖田総司が切り結び、坂本竜馬や勝海舟が土方歳三と日本の未来を語るのである。沖田総司も、剣一筋の颯爽とした剣士像と夭折のはかなさだけではなく、死に場所を求めて焦燥する剣客として、ひと味違う総司像が描かれている。
 薩長同盟、竜馬暗殺、大政奉還などの事件を北方流に繋ぎ、物語を土方歳三の最後の戦場・五稜郭へ持ってゆく辺りは鮮やかと云う他はない。西郷隆盛像がいまひとつ納得いかないが、これはこれで筋が通っている。

 

新撰組ファンでなくとも →☆☆☆☆★


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