高村薫 地を這う虫 文春文庫 [日記(2006)]
完全主義者と云われる作者は、短編集にまでその意志を貫徹するように『地を這う虫』の4編はいずれも元刑事という統一テーマのオムニバスである。高村薫の例に漏れず、発表当時とは異なる加筆改訂版であるらしい。
警備員、サラ金の取立屋、政治家の運転手、倉庫の出庫係と元刑事たちの職業は様々である。警備員は、元上司の入院により警察組織の過去に引き戻され、取立屋はビニール袋、紐、カッターナイフ、ルーペ、小六法の入った黒い鞄を持ち歩き、運転手は料亭に集まる政治家の車のナンバーを記憶してしまう。出庫係は通勤途上の出来事を克明に手帳に付け、町並みの詳細な地図を作成する。そこには権力の側で犯人を追い詰める職業に携わった男たちの逃れられない宿命、職業によって培われた性が描かれる。彼等は合田雄一郎の分身なのか、彼等が合田雄一郎を生み出したのかどうか。
高村薫は短編も面白い →☆☆☆☆★
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