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村上春樹 ノルウェイの森 講談社文庫 [日記(2006)]

ノルウェイの森 上

ノルウェイの森 上

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/09/15
  • メディア: 文庫

 村上春樹5冊目。他の長編『羊をめぐる冒険』『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』『ねじまき鳥のクロニクル』と比べると『風の歌を聴け』に近い小説である。1969年、東京の私大で演劇を学ぶ19歳の「僕」の、当時の風俗を交えた魂救済型恋愛小説とでも呼べばいいのだろうか。前三作は、次元の異なる世界で展開されるファンタジーだった。『ノルウェイの森』は1969年東京という現実の世界で19歳の(19歳にしてはトウがたっているが)「僕」が体験する「現実」が描かれる。舞台設定は現実ではあるが、登場人物と彼らが織り成す物語はやはりファンタジーである。リアリズムなど薬にしたくとも「無い」。主人公「僕」の周囲には、村上ワールドでは馴染み深いの女性が配される。自殺した友人の恋人で精神病を患う直子、「演劇史Ⅱ」のクラスメイト・緑、・・・。直子は『ねじまき鳥のクロニクル』のクミコの様にある日突然理由も告げず「僕」の前から姿を消す。緑はこれも『クロニクル』の笠原メイの面影を引きずっている(この女性の2つのタイプは、作者のお気に入りの主題である)。
 多分、直子は「僕」のネガティブな自我あるいはいずれ葬り去らねばならぬ彼岸を象徴し、緑はポジティブな意志あるいはいずれ引き受けなければならない此岸(現実世界)を象徴する。直子を自殺させることで「僕」は現実世界に舞い戻るのだが、これは一種の古典的な通過儀礼の物語である。古典的であるが故に普遍的であるともいえる。緑の極端な延長線上に外交官となる東大生・永沢があり、永沢の恋人・ハツミの将来の自殺は暗示的である。
 古典的な主題を1969年の風俗と恋で描く村上春樹のやり方は、確かにうまい。しかしながら、1969年の東京の青春は、こんなにも輝いていたのだろうか?

読み終わったら少し他人にやさしなれるかもしれない →☆☆☆★★


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ハーポ

不思議な小説で、面白さというよりも何か別の要因で一気に読んだ作品です。 特にエピローグに値する部分がプロローグとして描かれているのが印象的でした。
by ハーポ (2009-12-20 08:14) 

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