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有明夏夫 不知火の化粧まわし 講談社文庫 [日記(2006)]

不知火の化粧まわし―なにわの源蔵事件帳

不知火の化粧まわし―なにわの源蔵事件帳

  • 作者: 有明 夏夫
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1988/03
  • メディア: 文庫

 江戸に比べ浪速を舞台と時代物は極端に少ない。近松、西鶴を生んだ土地にもかかわらず、大阪出身の作家は多いにもかかわらず、桂米朝の話芸を擁するにもかかわらず、である。万事がガサツで勘定高い大阪の土地柄と、ボケと突っ込みには似合う関西弁は、情緒豊かな時代物には向かないのだろうか。「おん宿かわせみ」の「るい」が関西弁ではたしかに興ざめであろう。しかし、関西弁ならではの情緒と人情を写す、有明夏夫の『浪速の源蔵』がある。桂枝雀、芦屋雁之助主演でNHKでドラマ化され、枝雀の、落語を地でゆく『源蔵』は特に印象深い。

 「さあさあ親方、一杯いきまひょいや」
 「おっ、こらえらいすんまへんな」

大阪人は冒頭からのめり込んでしまう。もう一つの特徴は、事件が解決する一歩手前で、突然「上方新聞」の記事に変調される。いよいよ、人力車に乗って犯人検挙に出掛ける場面

「それから一段と声を張り上げて車夫に下知した。
『おい、馬力出して走ってくれよ、行先は順慶町通りの二丁目や。ほかの人力車一台抜いたら、一銭ずつはずむぞ!』
『おおけに、抜いて抜いて抜きまくりまっさ!』
待っていた甲斐があったとばかりに、車夫も威勢よく応えた。」

ここで源蔵親方の活躍は一旦終了し、エンディングの「上方新聞」に引き継がれる。

「四日後、上方新聞は次のような記事を掲載した。

・・・(事件を解決したのは)もちろん朝日町東筋にお住まいの赤岩源蔵親方です。旧幕中には、東町奉行所の御抱え手廻りを勤めておられた御仁で、『海坊主の親方サン』と申さばご存じの方も多いでしょう。まったくこの親方サンにかかっては、いかなる悪党も逃げおおせることは叶いませぬ。今回はその御明察と御奮闘ぶりの一端をチョットお伝え致しましょう。

・・・

以上つまびらかにお伝えしたるは、朝日町西筋にて海苔問屋を営む弁天屋の楽隠居、大倉徳兵衛で五座りました。

語りの妙である。

大阪人なら →☆☆☆☆★


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