佐藤 優 自壊する帝国 新潮社 [日記(2006)]
佐藤 優 自壊する帝国 新潮社
著者は、05年に「国家の罠」で毎日出版文化賞を受賞した「外務省のラスプーチン」佐藤 優である。「国家の罠」が面白かったので本書も読んでみた。「自壊する帝国」の帝国とは旧ソ連のことであり、「帝国」ソ連が崩壊する様を一外務省の研修生の立場で内部から見たルポルタージュである。それも、小説の姿を借りた?ルポである。
ソヴィエトの二重構造に付いての記述は面白い、笑える。ソ連では「宗教はアヘン」であり、宗教は公式には存在しない。モスクワ大学哲学部には、科学的無神論学科が存在し、マルクス・レーニン主義に基づいて宗教(ロシア正教)が研究され、科学的無神論学科が唯一聖書を公式に読める場所である。おまけに、教授陣にはキリスト教徒がいる!
また経済学部には、資本主義経済学科と社会主義経済学科がる。普通、社会主義経済学科ではマルクス経済学が講じられ筈であるが、モスクワ大学では反対である。社会主義経済学科でケインズが講じられる。資本主義崩壊後の社会主義社会において、経済を発展させるために、近代経済学の成果を「批判的かつ弁証法的」に研究されるのである。
社会主義経済学科や科学的無神論学科では、近代経済学と神学を研究できる唯一合法的な場所である、笑ってしまう。何処でもいつの時代でも、本音と建前は上手に使い分けられる。特に強権をふるう国家においてをやであろう。
こうしたソ連で国家の崩壊が始まる。崩壊はバルト3国を始めとするナショナリズムの台頭によるものと思っていた。それはそれで間違いではないのだろうが、ローマ帝国同様その要因は内在し、帝国は内部から自壊したらしい。自壊の過程が、著者への情報提供者ラトビア人のモスクワ大学生サーシャなどの言葉と行動を通して明らかにされる。「スパイ小説より面白い」かどうかは別として、外交官が情報を収集し分析する過程が生なかたちで語られ興味が尽きない。守秘義務により語ることの出来ないエピソードがこの本の数倍あるのだろう。何時か、著者の情報収集と分析が如何に政策決定に反映されたのか迄、突っ込んで書いてほしい。
次作に期待を込めて →☆☆☆☆★
しかしながら佐藤優さん、少しダイエットしなくては(^^;)
コメント 0