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吉村 昭 戦艦武蔵 新潮文庫 [日記(2006)]


 漁具の材料である棕櫚(シュロ)の繊維がある日全国から消えるところから物語が始まる。この謎の幕開きの向こうから巨艦「戦艦武蔵」が姿を現す。鮮やかな書き出しである。吉村 昭の手法であろうが、特定の主人公は登場せず、エピソードを淡々と積み重ねてゆく。主人公は戦艦武蔵であろう。大和を一号艦、武蔵を二号艦とするこの巨大戦艦建造プロジェクトは三号艦、四号艦まで建造に着手されたが、三号艦は航空母艦に変更され、四号艦は中途で破棄される。航空機の発達が巨艦を不要とした結果である。
 建造に4年の歳月をかけ連合艦隊旗艦ともなった武蔵だが、世界一の46センチ砲の威力を証明する事もなくミンドロ島沖に沈んだ。片道燃料で沖縄で沈んだ一号艦大和の最後とともに、巨艦巨砲主義の末路であろうか。
「戦艦武蔵」は、その建造の記述に紙数の2/3、沈没に至る短い戦闘に1/3を割いた「物語」というよりも「記録」である。作者は一言の感想も漏らしていない。人間の膨大なエネルギーを飲み込む戦争という暴挙あるいは愚挙を、戦艦武蔵の建造と沈没に託したということだろう。
 巻末に磯田光一が解説を書いている。磯田は、「日本浪漫派研究序説」?で世に出た文芸評論家だが、亡くなって久しい。曰く、「『戦艦武蔵』は、極端な言い方をすれば、一つの巨大な軍艦をめぐる日本人の“集団自殺”の物語である・・・端的にいえば“集団自殺”が第三者から見て“愚行”と見えるように、“武蔵”の建造もまた“愚行”であるという批評眼を、つねにこの作者は失ってはいない。というよいり、むしろ“愚行”に専念しうる人間の奇怪さこそが、作者の暗い好奇心の対象になっている・・・人間は“愚行”を演じることによってのみ人間たりうる、といったらいいすぎになろう。」磯田さん、「それはいいすぎだ」と思うが、この解説が書かれた昭和46年(1971年)という時代を写していなくもない。
地味な記録文学だが、磯田光一の解説と合わせて★★★★☆

戦艦武蔵

戦艦武蔵

  • 作者: 吉村 昭
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2000
  • メディア: 文庫


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ハーポ

 長崎在住の者です。 長崎の造船所は知っていますので、リアルに読みました。その面白さに足湯に入っている時も読み続けていて、お湯の中に本を落としたくらいですから・・・・(落とすなよ)
by ハーポ (2009-12-19 23:41) 

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