吉村 昭 ポーツマスの旗 [日記(2005)]
吉村 昭 ポーツマスの旗 新潮文庫 ★★★★★
日露戦争を終結させたポーツマス講和会議を、日本全権大使小村寿太郎を軸に、ロシアの大使ウィッテ、アメリカ大統領ルーズベルトなどの外交を描いた歴史小説。
ロシア革命前夜の国内の混乱をかかえるロシア、戦争の継続は国家経済の破綻を招く日本。戦争継続が困難な日露両国が、国家の威信をかけての虚実の駆け引きは実に面白い。樺太の割譲と賠償金の支払い条項を巡る折衝はその山場だろう。
戦争が継続できない事情をロシアに悟られないために、結果自国民にも真実を伝えられない政府と、講和結果を屈辱と捉え騒擾を起こす国民。政治のリアリティーと不毛を見る思いがする。その後条約は、韓国併合と満州国の建国を生み、大日本帝国は太平洋戦争へと雪崩込んでゆく。後書きで、作者はポーツマス条約はその後の日本史とを分かつ分水嶺であったと書いている。
気負い無く、たんたんと記述される文章は平易で読みやすい。第一級も歴史小説と思う。
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