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ヘアスプレー [2007年 ベスト20]

ヘアスプレー」(2007年・アメリカ) 監督:アダム・シャンクマン

 「プロデューサーズ」以来のノー天気なミュージカルにして「シカゴ」以来の面白さ。
 「RENT」を観たときに、「ここまで間口の広いミュージカルも今まで観たことが無かったように思う」と書いたのだけれど、「ヘアスプレー」は「グリース」並みにハードルの低いところが魅力的だ。
 ミュージカルに興味が無くても、あるいはミュージカルは受け付けないという人も、この作品だけは観ていられるんじゃないかと思う。その理由は、曲がイイ、俳優陣がイイ、そして一番肝心、ストーリーが気持ちイイからだ。

 ドラマは60年代初頭。白人至上主義が色濃いボルティモアで「人種差別撤廃」の意識が広がっていく様を描いている。
 と言っても決して重苦しいストーリーではない。ヘアスプレー会社が提供するボルチモアのローカル番組「コーニー・コリンズ・ショー」を軸にして、“ダンス”と“恋愛”と“人種差別の壁”の三要素がほぼ同じウェイトで展開していく。
 これまで人種差別を描くときは問題の性格上、白人優位で描かれることがほとんどだった。しかし本作は、ミュージカル映画であることを最大限利用して黒人のスタンスを、やがて世界中を席巻するブラックミュージックに置き換え、“時代の流れに乗る人々”としたところが大きい。さらに一切の暴力が無い点も特筆に価する。白人と黒人はまったく対等に描かれ、おかげで黒人を応援する白人たちが偽善者っぽく写らないのは秀逸だ。
 そんな細かい配慮のおかげで、一歩間違えば暗くなりがちなドラマを明るく爽やかなものに仕立て上げたジョン・ウォーターズ(1988年オリジナル版の脚本家)の手腕は大いに評価されるべきだろう。

 さて本作はテーマ以外にも見どころは満載。
 まずはトラボルタ。
 僕は「なぜこのキャスティング?」と終始考えていたのだけれど、これはオリジナル版(1988年)、ブロードウェイ版(2002年)から続く「エドナ役は男性俳優が演じる」という伝統に則ったものらしい。「グリース」のあと「ステイン・アライブ」で大コケした痛手を負っていたのか、ミュージカルへの出演を固辞していたトラボルタ(ちなみに「シカゴ」でリチャード・ギアが演じたビリー・フリン役をトラボルタは3度オファーを受けて3度とも断ったらしい)を、プロデューサーのクレイグ・ゼイダンが1年がかりで口説いたのだという。
 が、個人的にはこのキャスティング、失敗だったと思っている。というのも、客寄せ以外にトラボルタを起用した理由が見つからなかったからだ。
 もうひとつの伝統だという「トレーシー役は新人を起用すること」は見事にハマったと思う。
 ロングアイランドのアイスクリーム屋でアルバイトしていたニッキー・ブロンスキーの「シロウトっぽさ」はこの作品最大の見どころ。彼女の歌とダンスはとにかくカワイイ。
 「ハイスクール・ミュージカル」の主役に抜擢され、アメリカではアイドル的な存在となっているザック・エフロンもいい。20年前のマイケル・J・フォックスをイメージさせる端正なマスクの少年は、60年代の“R&R
スターもどき”を気負うことなく演じていて、彼のおかげで違和感無く60年代の物語を楽しむことが出来る。

 さらにバイプレイヤーたちの力も大きい。
 敵役を演じたミシェル・ファイファーの息を呑む美しさとコメディエンヌぶり。完全に脇に回ったクリストファー・ウォーケンの存在感。「シカゴ」のママ・モートン役で世界中に認知されたクイーン・ラティファの貫禄などなど、新人と共倒れできないプロデューサーが掛けた“保険”はすべて効いたと言っていいだろう。
 しかし、本作で一番の拾い物は「X-MEN」でサングラスかけっぱなしのミュータント、サイクロプスを演じたジェームズ・マースデンだ。彼が人気テレビ番組のホスト、コーリー・コリンズを演じているのだが、番組で披露する歌と司会っぷりが実に素晴らしい。特に歌はあまりに巧いので吹き替えじゃないかと疑ったが、オリジナルサウンドトラックにはきちんと名前がクレジットされていたので本物と信じよう。と同時に「新しいミュージカルスターの誕生」と言っていいんじゃないだろうか?
 ついでなので書いちゃうけど、トレーシーの親友ペニーを演じたアマンダ・バインズも良かった。昔のナンシー・アレンを髣髴とさせる可愛らしさ!ヘアメイクで女の子を変貌させるネタは普遍的でいつ観ても楽しい。

 というわけで、トラボルタのキャスティング以外は言うこと無しの娯楽ミュージカルです。
 ぜひ劇場で多くの人たちと一緒に楽しんでください。

ヘアスプレー DTSスペシャル★エディション (初回限定生産2枚組)

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  • 出版社/メーカー: 角川エンタテインメント
  • メディア: DVD

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コメント 17

うつぼ

こんばんは。試写でご覧になったとはウラヤマシイです!
ブロードウェイでミュージカル版を観てすっかりはまったので映画化も非常に楽しみにしています。
この映画、オリジナルはディヴァインがエドナ役ですから、ちょっとキワモノ的に見ていたのですが(ブロンディのデボラ・ハリーが出ているのも面白いのですが)、最初ミュージカル化されたときはどうなるかと思ったらブロードウェイで役者・脚本家として活躍しているだみ声のハーヴェイ・ファイヤスティーンが演じていてしっくりきていたんですよね。それだけに今回の映画化でトラヴォルタというのがちょっとどうかなあと思っていたのでしたがやはり。。(笑)
とはいえ、トレーシー役もリンク役もぴったりのようですが、劇場で見るのが楽しみです。
by うつぼ (2007-09-30 21:34) 

ken

僕はオリジナルもミュージカル版も見ていないので
何の先入観も無く楽しみました。どちらも観てみたいですね~。
トラボルタは本当に「なんのこっちゃ」でトラボルタとしての見せ場も
なかったので、それはちょっと残念でした。
これはサントラも「買い」でしたね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-09-30 23:15) 

**feeling**

とっても見たいです。楽しみにしております。
by **feeling** (2007-10-01 20:06) 

ken

スカッと楽しんでください。ザック・エフロン、かわいいよ。
by ken (2007-10-01 20:16) 

non_0101

こんばんは!本当にめちゃくちゃ楽しい作品でした!
歌も俳優たちも良かったです~
私はなんといってもニッキー・ブロンスキーのキュートな笑顔が好きです。
ダンスも可愛いし、本当に誰からも愛されるキャラクターですね☆
by non_0101 (2007-10-11 23:27) 

ken

彼女はあの髪型じゃなかったらどんな顔になるんだろう?と
ずーっと考えながら観てました(笑)。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-10-11 23:51) 

SIDE:Car

私もトラボルタがちょっと「?」でした。
トラボルタが女装しているのだと思うと
確かにちょっと面白かったのですが、
アメリカではああいう役どころは男性と
相場が決まっていますし、ね…。

やっぱり踊れるのは彼だけなのでしょうか??
でも全体的にキャスティングはナイス!でしたね♪
by SIDE:Car (2007-10-12 00:43) 

ken

トラボルタ以外のキャスティングはnice!でした☆
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-10-12 14:36) 

こんばんは。
ニッキーは見事にハマってましたね!
そしてやはりサイクロプスが良かったです。こういう役も出来るんだ~、とびっくり。
TBさせていただきました~
by (2007-10-24 19:28) 

ken

サイクロプスは本作で新境地開拓しましたね。
どんどんミュージカル映画に出て欲しいと思います!
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-10-24 23:53) 

こんばんは。
お邪魔します。
いち早く試写会でいかれたのですね。
疲れているときに、本当にHappyになれる映画でした。
皆吹き替えなし?ってびっくりするぐらい歌って踊れる。
ザック・エフロンとジェームス・マースデンは私にとっても掘り出し物でした(^^)v端正な顔にうっとり。
by (2007-11-04 22:09) 

yukina

ユキナ】´ω`) 初めまして。
劇場予告で「ヘアスプレー」の存在をしって、しばし楽しみにしていたのですが、
裏切られる事なく、とても楽しんでみる事ができました。
周囲には呆れられているのですが、三度観に行きましたよ。
観るたびに、バックで踊る人たちの個性や、気づかなかった笑いに気づけて、
益々楽しめる映画だと思いました。
by yukina (2007-11-04 23:02) 

ken

>カーラさん
 実は試写用のDVDを持ってまして、もう何度コーニー・コリンズ・ショーを
 観たか分かりません(笑)。
 ザック・エフロンもお人形みたいでカワイイですよね。
 nice!ありがとうございます。

>yukinaさん
 はじめまして。劇場に三度ですか!素晴らしい!(笑)。
 でも、その気持ちよ~く分かります。
 nice!ありがとうございます。
by ken (2007-11-04 23:15) 

カオリン

「プロデューサーズ!」も観ましたが、ホント能天気なミュージカル映画だったと思います。
主役のニッキーはコールドストーンでバイトしていたようですが、向こうのコールドストーンも店員さんが歌うのかな?なんて思いながら観ておりました。
ソプラノで美しい歌声ですが、個人的にはちょっとパンチが足りない感じもしましたが、今後どんな女優さんになるのか楽しみです。
by カオリン (2007-11-05 23:39) 

ken

サントラでじっくり聴くとパンチは足りてませんね。確かに。
僕も今朝、出勤中にiPodで聴きながら、イマイチ伸びがないな、
なんて思いながら歩いてました(笑)。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-11-06 01:09) 

satoco

おっしゃるとおりブラックミュージックの力を使って黒人側を魅力的に描いたところがやるなあと思いました。
クィーン・ラティファがやせて見えましたね。w
クリストファー・ウォーケンはとても良かったけどクールなウォーケンのファンなのでちょっとフクザツでした。
by satoco (2008-11-29 14:17) 

ken

ここでのクリストファーは、ちょっと軽いオヤジでしたね。
でもそんなところも肩の力が抜ける映画だったと思います。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-11-29 14:38) 

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