SSブログ

遠くの空に消えた [2007年 レビュー]

遠くの空に消えた」(2007年・日本) 監督・脚本:行定勲

 東京ミッドタウン43階にあるギャガ・コミュニケーションズの試写室はさすがに新しいだけあって美しい。
 中でも目を引くのはわずか70席ほどのシート。それはどんな劇場でも観たことが無い、ベルベット生地の鮮やかな赤に被われていた。おまけにシートの左肩にはゴールドのアクセントがある。よく見るとそれは金糸で刺繍された座席ナンバーだった。
 ゴージャスである。
 「さすがミッドタウン」と感心して(さすがなのはギャガなんだけど)腰掛けると、またひとつ驚く。体重のかけ具合で背もたれが僅かに後ろへ倒れるようになっているのだ。
 面白い。
 まるで車のハンドルの「遊び」のような感覚だ。ひじ掛けの高さも良く、触り心地も柔らかい。あとで分かることだがシートのクッションも絶妙。144分の映画もほとんど疲れず観ることが出来た。唯一やっかいなのは、あまりに気持ち良過ぎてうっかり寝てしまいそうになることだ。

 「遠くの空に消えた」は行定監督が7年前に書き下ろしたオリジナル脚本で、神木隆之介、大後寿々花主演のファンタジードラマだ。その内容はと言うと、実は簡単に説明するのは難しい。ここがこの映画の最大の弱点でもある。
 テレビの世界では「15文字で説明できない番組はヒットしない」と言われている。
 理由は2つあって、ひとつは説明に時間のかかる番組は視聴者に嫌われてしまうから。もうひとつは他人に説明しにくい番組はクチコミが期待できないからである。
 行定監督は「何かを信じられなくなった時、信じ続けるパワーをくれる映画を撮りたかった」と語っている。
 面倒くさいのでストーリーはリライトしないが、この言葉を念頭に公式ホームページのストーリーを読んでみるといい。きっと「なんでこんなハナシなの?」と思うはずだ。

 今年の4月、僕は行定監督に逢った。
 友達でもなければ、かといって偶然でもない。純粋に仕事としてお目にかかったのだが、そのとき監督はこの作品のことを「大後さんが大人になる前に撮らなきゃいけないと思って慌てて撮ったんです」と話していた。話の前後は割愛するが、僕は「この人は一映画監督として大後寿々花という女優に入れ込んでいるんだな」と思った。と、同時に「大後寿々花、恐るべし」とも思った。だから今日は【監督×女優】というバトルがフィルムにどう焼き付けられたか、にも期待をしていた。
 しかし、ここでの大後寿々花はまったくの期待ハズレだった。主役の神木隆之介にはハナから何も期待していない。
 失敗の理由はやはり脚本だろう。
 「脚本が素晴らしければ三流の監督が撮ってもどうにかなるが、ダメな脚本は一流の監督が撮ってもどうにもならない」
 僕は例によって黒澤監督の言葉を思い出していた。

 本作で唯一拾い物だったのは、名バイプレイヤー笹野高史さんの息子、ささの友間だ。
 神木隆之介が非現実的なハンサム顔をさらしている横で、“田舎のガキ大将”然とした友間の顔は実にリアリティがあってとても良かった。
 極上のシートでうっかり寝なくて済んだのは実は彼のおかげだった。

遠くの空に消えた

遠くの空に消えた

  • 出版社/メーカー: ギャガ・コミュニケーションズ
  • メディア: DVD

nice!(3)  コメント(8)  トラックバック(1) 
共通テーマ:映画

nice! 3

コメント 8

**feeling**

シート最高!!
うらやま~。

この映画は、見ようと思っていたんだけど(悩)
by **feeling** (2007-07-26 09:27) 

ken

観てあげてください。
そして、バッサリ斬っちゃってください(笑)。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-07-26 16:52) 

ミック

行貞監督の映画はほとんど観ていますが、
私が嵌ったのは「GO]だけです。
でも、行貞監督の映画なので、観たいと思います!
by ミック (2007-07-28 03:14) 

ken

ミックさん、字が違いますよ!
貞子の「貞」じゃなくて、阿部定の「定」です(笑)。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-07-28 10:18) 

ミック

キャー(*≧∀≦*)
行定、行定!!!!!!!!!!
>貞子の「貞」じゃなくて、阿部定の「定」です(笑)。
例えが怖~い(爆)
by ミック (2007-07-29 03:15) 

ken

ひねりが効いてたでしょ?(笑)。
by ken (2007-07-29 10:04) 

non_0101

こんにちは。
素敵な椅子!いいですね~
この映画はせめて静かな環境で観たいですよね!

私もささの友間くんが演じた公平が好きでした☆
神木隆之介くんの亮介と大後寿々花ちゃんのヒハルは
なんだか大人のような落ち着きがあって、
小学生にしては寂しすぎるなあと思ってしまいました(^^ゞ
by non_0101 (2007-08-12 13:40) 

ken

巧すぎる子役ってその段階でリアリティを失ってますよね。
ちょっと残念でした。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-08-12 21:45) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

五十音順タイトル ア行シッコ ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。