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シッピング・ニュース [2007年 レビュー]

シッピング・ニュース」(2001年・アメリカ) 監督:ラッセ・ハルストレム

 個人的に大好きな監督の1人。ラッセ・ハルストレム監督の旧作を観直す。
 彼の作品で最初に観たのは「サイダーハウス・ルール」。続いて「ショコラ」。そのあとに観たのが「シッピング・ニュース」で、実を言うと僕は、この3本が同じ監督によるものだということを、この「シッピング・ニュース」を観るまで知らなかった。
 けれど、どれも同じ監督の仕事だと知ると、なるほど合点のいくことがいろいろとあって、例えば原作の選び方や、登場人物の描き方、絵の切り取り方、編集の仕方など、3作品に共通する“ハルストレムらしさ”があったように思う。ではその決定的な“らしさ”とは何なのかを見つけるために観たのが、彼の名をハリウッドに知らしめることになった「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」で、この作品はわざわざ目を凝らしてみる必要もないほど、全編に“ハルストレムらしさ”が溢れていた。
 彼の“らしさ”とは、目線の温かさである。

 「シッピング・ニュース」は妻を亡くして絶望した男を軸に展開する「再生」の物語だ。
 新聞印刷工場のインク係だった主人公のクオイル(ケヴィン・スペイシー)。
 実兄が死んだと聞きつけて現れたクオイルの叔母アグニス(ジュディ・デンチ)。
 脳に障害を持つ子供の母親ウェイヴィ(ジュリアン・ムーア)。
 海に呪われた家系の家長にして新聞社のオーナー、ジャック(スコット・グレン)。
 登場人物は皆、何らかの問題を抱えていて、それでも穏やかな日常生活を営んでいる。
 もちろんこれは“人に見せる物語”であるから事件は起きるが、ショッキングで、悪意満ちた、絶望的な事件では決してない。世界中のあらゆる場所で日常的に起きている事件が、このドラマの中でも起きる。これらの事件を通してハルストレムが訴えようとしているのは、「罪深き人間を許すことで自らが救われる」という宗教的観念だ。だから彼の目線は常に温かい。
 監督の目線が温かいと、どんなに辛い事柄が目の前で展開しようと観客は不思議と観ていられるものだ。それは観客が心のどこかで(あくまでも無意識のうちに)「生きてさえいればこの先、きっといいことがある」と信じているからで、観客にそう思い込ませるのも監督の目線によるところが大きい。
 しかもハルストレムは実際に「ホンのちょっとだけいいこと」を、予想もしないところで起こして見せるのだ。まるで神様の悪戯のように。
 「人生はまんざらでもない」
 映画を観たあとでそう思わせてくれると心が晴れ晴れとした気持ちになる。
 
 さて「シッピング・ニュース」は映画演出のテクニックについても、極めて重要なことを2つ教えてくれる。
 ひとつめ。
 ドラマの「伏線」とは(クァク・ジョエンのようにいくつも張るものではなく)ただひとつだけさりげなく張っておくのが効果的だと言うこと。いくつも張ると観客は覚えていられないし、感動が薄れてしまう。
 ふたつめ。
 作品の評価を決める重大な要素は“後味”だということ。
 料理でも後味が良いと再び手を伸ばしたくなるのと同じで、映画ももう一度観てみようという気になる。それが作品の評価となってクチコミで拡がっていくのだ。
 僕にとっての「シッピング・ニュース」は、「展開は詳しく覚えていないけれど、とにかく良質な映画」という印象だけが残っていた作品だった。すべては後味のなせる技。改めてみた今日もその後味に感心してしまった。
 処理し切れていないエピソードもあるが、そこは目をつぶってもいいか、と思わせる秀作。

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シッピング・ニュース 特別版

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コメント 7

Sho

kenさんのこの記事自体に
>目線の温かさ
>「人生はまんざらでもない」
>罪深き人間を許すことで自らが救われる
そういうことを感じさせられました。上記の3つと、「人間の再生」は個人的に非常に興味があります。いい映画を教えてもらいありがとうございます。
>「伏線」とは(クァク・ジョエンのようにいくつも張るものではなく)
ココ!この方知りませんが、激しくおかしかったです(笑)
by Sho (2007-05-12 18:06) 

coco030705

こんばんは。
私もラッセ・ハルストレムが好きです。私は「ギルバート・グレイプ」が
好きです。この映画でジョニー・デップに出会ったからです。
「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」、「サイダーハウス・ルール」、「ショコラ」、
すべてよかったですね。テーマや登場人物の状況はかなり大変なはずなのに、見終わったあと温かさを感じました。kenさんがお書きになっている通りです。この「シッピング・ニュース」だけが、あまり印象に残ってないんですよ。もう一度見直してみたらいいかもしれませんね。
by coco030705 (2007-05-12 19:31) 

ken

>Shoさん
 偉そうなこと書いちゃいましたが、何も期待しないで観てみて下さい。
 後味だけは抜群にいい映画だと思います。
 ちなみに、クァク・ジョエンとは「猟奇的な彼女」の監督です。
 この人がコレ以降に書いた脚本は伏線張りすぎでメタメタなんですよ(笑)。
 nice!ありがとうございます。

>coco030705さん
 あー!そうだ!
 「ギルバート・グレイプ」のことを書こうと思って忘れてた!
 「ブラッド・ダイヤモンド」のときに、この作品のことをいろんな方に
 書き込んでいただいて、それがハルストレム作品と知って、ますます
 観てみようと思った…と言ったことを書こうと思ってました(笑)。
 nice!ありがとうございます。
by ken (2007-05-12 20:39) 

lucksun

わたしもハルストレム監督、大好きです。
この人の映画って、観終わってすぐではなく、
しばらく時間がたってからじわじわっと染みてくる感じがします。
個人的には、ハルストレム監督の作中では、
子どもの存在が強い印象を与えているような気もします。
ちなみに、いちばん好きなのは「サイダーハウス・ルール」かな。
by lucksun (2007-05-12 22:08) 

ken

仰るとおり映画を観終わって何日かすると、ふと思い出すシーンがあります。
サイダーハウスもショコラも未だにそんな感覚が残っているかも知れません。
映画を観てもう何年も経っているのに。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-05-13 00:18) 

クリス

私もラッセは好きなんですが、今作はケビスペと大好きなジュリアン・ムーアというコンビに期待が大きすぎたせいか、暖かさよりも退屈さが先行してしまいました、、、。が、「ギルバートグレイプ」や「サイダーハウスルール」、「マイライフ~」は好きです。「カサノバ」も観なきゃですね。
by クリス (2007-05-13 10:33) 

ken

期待が大きいとなんでもダメですねえ。
特に映画と恋愛は期待しちゃダメ(笑)。
by ken (2007-05-13 22:49) 

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