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ゆれる [2007年 ベスト20]

ゆれる」(2006年・日本) 脚本・監督:西川美和

 デビュー作の「蛇イチゴ」では雨上がり決死隊の宮迫とつみきみほが兄弟を演じた。
 主役は宮迫だがドラマを牽引するのはつみきみほで、その饒舌な役柄からして「蛇イチゴ」という作品は、「言いにくいことをサラッと言ってのける」ある意味“女性的な映画”だった。
 それから3年後に西川美和が撮ったのは、「言いたいこともロクに言えない」男兄弟の物語。
 実を言うとこの映画が公開されると聞いたとき、僕は「西川美和は3年間も何をしていたんだろう」と思った。幸運にも28
歳という若さでデビューすることが出来た監督が、3年間も遊んでいて良いわけがない。
 しかし。
 僕は今日、「ゆれる」を観て思った。
 「蛇イチゴ」以降の3年は、この脚本を書くための3年だったのかも知れない。
 少なくとも、僕は3年かかってもこの脚本は書けないだろう。

 東京で売れっ子のカメラマンとなった弟。田舎で実家のガソリンスタンドを継いだ独身の兄。
 弟(オダギリジョー)は父(伊武雅刀)とこそ不仲だが、兄(香川照之)とは仲がいい。
 そんな兄弟が幼なじみの1人の女性を巡って、思いも寄らぬ関係に発展する…。

 観ていない人を思うと、物語のさわりを書くのも勿体無いくらいよく出来た脚本で、出来ることならこれ以上どんな内容なのか知らずに観て欲しい。
 観れば確実にあなたはオダギリジョーと共に蒼め、そして西川美和が仕掛けた巧妙な技に感嘆の息を漏らすのだ。
 表裏のある人間を演じさせたら、今この人の右に出る役者はいないだろう香川照之が安定した演技を見せ、オダギリジョーも(僕が見る限り)ここ最近の作品では一番の入れ込んだ芝居をしている。
 出番は決して多くないが真木よう子と“キム兄”木村祐一も出色。
 
 映画としてはかなり地味で、もしや舞台でもいいかと途中一度は思うが、そんな杞憂をラストカットがものの見事に吹き飛ばす。しかも映画作品として理想的な余韻を残すワンカットだけに、脚本家としてだけでなく、監督としての西川美和も称えずにはいられない。
 彼女にとってのこの3年は、実に意味のある3年だったのだろう。
 オススメの1本。


ゆれる

ゆれる

  • 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
  • 発売日: 2007/02/23
  • メディア: DVD

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コメント 22

midori

あのラストシーンで,しばらく席を立てなくなりました.
by midori (2007-03-28 10:01) 

ジジョ

わたしもあのラストスキです☆
ノベライズ版も違う角度から観れておもしろかったですヨ♪
TBさせていただきますね(^-^)
by ジジョ (2007-03-28 11:55) 

ken

>midoriさん
 ラストシーンをどう解釈するか。
 観た人の自由度が高くて僕はすごく好きです。
 あのラストカットでゴハンが3杯は食べられますね(笑)。
 nice!ありがとうございます。

>ジジョさん
 ノベライズなんて出てたんですね。ちょっと見てみようかな。
 お勉強のために(笑)。
 nice!ありがとうございます。
by ken (2007-03-28 14:45) 

coco030705

こんばんは。
よかったですね。昨年度の好きな映画ベスト10に迷わず選びました。
香川照之もオダジョーもいい演技してましたね。キム兄は印象に残っています。彼は演出がよかったからあんなにうまく見えたのでしょうか。それとも演技力がある人なのでしょうか。「蛇イチゴ」も是非見てみたいです。
TBさせていただきます。
by coco030705 (2007-03-28 20:41) 

Sho

この映画を見た男の人の感想がすごく知りたかったので「キタ!」と思いました(笑)
凄い映画だと思います。
by Sho (2007-03-28 21:34) 

ken

>coco030705さん
 「蛇イチゴ」は今観て損はないと思います。
 今だからこそ判断できる内容をぜひコメントしてください!
 nice!ありがとうございます。

>Shoさん
 ボクは逆に女性の感想が聞きたかったです。
by ken (2007-03-29 02:36) 

Sho

私は、あの兄弟のどちらにも自分を重ねてしまいました。特に、気質としては稔そのものですが、稔のはたした役割を自分は兄弟におしつけてしまった―という後ろめたさと申し訳なさで、見ていて苦しかったです。
ほとんどの人が、見ているうちに何らかの痛みを伴うように思いました。
同性の兄弟って複雑だなあ・・・とも感じました。
遅まきながらですが、TBさせてください。よろしくお願いいたします。
by Sho (2007-03-29 06:18) 

いい映画でした。伊武雅刀がぼけて新聞紙を干すシーンが哀れでした。
by (2007-03-29 12:07) 

ken

>Shoさん
 「イン・ハー・シューズ」も同性兄弟の話で、あれは救いがあったけれど
 やはり観客も痛みを伴う映画でしたね。

>脳外科医さん
 いや~あのシーンはグサリと来ました。せつなかったですねえ。
 nice!ありがとうございます。
by ken (2007-03-29 13:22) 

デクノボー

もう一度観たくなりました。
公開時に観たとき、私は「兄弟」の映画というより「視点」の映画として観たのですが、もう一度観ると全く違った映画として捉えられるかもしれません。
あぁ、私もゆれる。
TBさせてください。
by デクノボー (2007-03-29 21:17) 

ken

観るたびに表情を変える映画かも知れませんね。
僕も少し時間を経て、もう一度観てみようと思います。
by ken (2007-03-29 23:26) 

江戸うっどスキー

観て良かった。と、思える1本でした。
by 江戸うっどスキー (2007-03-31 01:28) 

ken

そうですね。そう思える映画ってステキですね。
by ken (2007-03-31 17:27) 

nani

この映画・・いい映画でした。

こちらは、この週末見た映画は3本。『UDON』、『ゆれる』、『氷の微笑2』です(笑)

女性の監督なんですね。それで凄く納得出来ました・・女って生き物をちゃんと描けてる。橋の上での兄に対する生理的な嫌悪・・あれ・・女ですね。

そして・・この映画の言わんとするところは、人間は全て(裁判長は違いますが・・笑)まず、主観がある。先入観があるということです。

諦めることに慣れ過ぎている兄・・

全てに無責任で傍観的な弟・・終盤・・オダギリは、巻き込まれていきますね・・もう・・クールな傍観者ではなくなる・・あそこが面白かったです。

kenさんはペドロ・アルモドバル脚本の『バット・エデュケーション』はご覧になっていますか・・これも・・痛い映画です。機会があったら是非!
by nani (2007-04-09 09:35) 

ken

裁判官にも主観はあります。それをあまり表に出さないだけで。
「バッド・エデュケーション」はなぜか避けてきました。
ちょっと考えてみます(笑)。 nice!ありがとうございます。
by ken (2007-04-09 11:23) 

nani

>裁判官にも主観はあります。それをあまり表に出さないだけで。

そうでしたか・・ごめんなさい。こちら子供を見ながら、映画を観てますんで、一回の表情でそう思ってしまいました。時間があればチェックしてみます
by nani (2007-04-09 13:48) 

ken

いえ、一般的な話ですよ^^
by ken (2007-04-09 14:03) 

nani

な~んだ。一般的な話なら、絶対にありますよ!(笑)

でも、映画、チェックしちゃいました。おかげで2度観れた(笑)
本当によく出来た映画です。

TVドラマなんですが、井上由美子さん脚本の『タブロイド』もその点を突いた面白いドラマでした。出演者も皆、強者揃いでした。
by nani (2007-04-09 19:24) 

ken

テレビドラマは興味ないんです。スイマセンw
by ken (2007-04-09 21:18) 

nani

いやいや、誤らないで下さいよ~
ハッキリ分かれているんですね・・残念です。
by nani (2007-04-10 03:34) 

ミック

やっと、「ゆれる」を見終わりました。
ラストシーンがすごいなと思ったのは1度目に見た時と、
2度目に見た時とでは全くといっていい程、捉え方が違いました。
ブログに書くのに気持ちがかなりゆれました。
「蛇イチゴ」も見てみたいと、思います。
私もTBさせて下さいネ!
by ミック (2007-05-01 20:46) 

ken

おそらくこのラストシーンは観客がこの映画を観たときの
精神状態によって受け止め方が大きく変わるのでしょうね。
実に素晴らしいエンタテイメントだと思います。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-05-05 12:17) 

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