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東京タワー オカンとボクと、時々、オトン [2007年 レビュー]

東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」(2007年・日本) 監督:松岡錠司 脚本:松尾スズキ

 残念ながら僕はフジテレビの「スペシャルドラマ版」も「月9版」も観ていない。なのでこの映画のことだけしか書けないが、原作だけは昨年のうちに読んでいた。

 結論から言うと、原作ほど面白くない。
 観ている途中から、「やっぱり440ページを超える原作を2時間強の映画にまとめるのは難しいんだな」、とずーっと思っていたのだが、じゃあこの映画に何が欠けていたかというと、それはリリー・フランキーの文章にあるリズム感だと思う。
 例えば原作の冒頭
にこんなシーンがある。

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 ガチャーン!と凄い音がした。オカンと一緒の蒲団で寝ていたボクは驚いて目を醒ました。もちろん、オカンも目を醒まし、蒲団の上で中腰になっていた。夜中だったと思う。子供だけではなく、大人も街も眠るような時間だったはずである。
 玄関から、ばあちゃんの悲鳴が聞こえた。オカンの名前をばあちゃんが連呼している。廊下に飛び出していったオカンは、玄関手前まで行って、またすぐ部屋に戻って来た。
 すると、ボクを抱きかかえて、ラグビー選手のように座敷の方へ走り出した。
 オトンが帰ってきたのである。
 そりゃ、自分の家なんだから帰ってくるのは当たり前なんだが、なにを思ったか、この日のオトンは、いつも手で開けていたはずの玄関戸を足で蹴破って帰ってきたのである。
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 リリー・フランキーの文章を読んだことがなかった僕はこのページ(5頁目)を読んで、彼の文章のリズムを認め、
「面白い文章だな」と思いながらページをめくった。
 前半は小気味いいリズムで“ボク”のハチャメチャな生活が描かれるが、やがて“オカン”のガンが発覚する頃から「新たなリズム」で文章が刻まれるようになる。このリズムの変化は主人公“ボク”の人間的な成長とリンクし、かつドラマの重要な複線となって終盤の感動を呼ぶことになるのだが、映画ではこの前半のリズム感がまったく絵になっていなかったと思う。
 例えばこれを宮藤官九郎が脚本にしたらどうなっていただろう。さらにその脚本を手にした監督は前出のシーンに何カット費やすだろうか?
 そう考えるとフジテレビのスペシャル版と月9版が、一体どういう出来だったのか、とても気になるところだ。

 それでもこの映画は観るべきものがある。
 実の親子で“オカン”を演じ分けた、樹木希林と内田也哉子、二人の演技だ。
 内田也哉子には何の期待もしていなかったせいで、彼女のまともな演技には感心するところがあった。“オカン”の若い頃を演じるには幾分存在感が薄かったが、「昭和の女」には成りきっていたと思う。
 希林さんは圧巻だった。
 原作の“オカン”のイメージからするとキャスティング的には倍賞美津子さんが近いように思うが、いい感じに力の抜けた希林さんの演技(こんなことが出来るのは他に小林聡美くらいだろう)は見応え充分。映画版の“オカン”を見事に作り上げている。本編後半の主役はオダギリジョーではなく樹木希林だった。

 最後に。
 この映画に対して、個人的にすごく残念に思っていることがある。
 それは原作の中で僕が一番好きだったシーンが無かったことだ。
 “オカン”が亡くなった後で“オトン”と“ボク”が小倉のスナックで飲んでいるとき、“オトン”がこんな話をする。

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 「まぁ、これからおまえが誰と付き合うにしてもやなぁ、女には言うてやらんといけんぞ。言葉にしてちゃんと言うてやらんと、女はわからんのやから。好いとるにしても、つまらんにしても。お父さんもずっと思いよったけど、おまえもそうやろう。1+1が2なんちゅうことを、なんでわざわざ口にせんといかんのか、わかりきっとるやろうと思いよった。そやけど、女はわからんのや。ちゃんと口で2になっとるぞっちゅうことを言うてやらんといけんのやな。お父さんは、お母さんにも最後までそれができんかった…。取り返しがつかんことたい。やけど、まだおまえは若いんやから、これからは言うてやれよ…」
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 あくまで個人的なことですが、このセリフは心に染みました。そして大いなる反省をして今に至っています(笑)。
 ちなみに先日、オダギリジョーは「原作?読んでません」と言ってました。それを聞いて僕はずいぶん驚いたんですが、考えてみると「原作読んでないからあんな演技なんだな」と思うところが多々ありました。
 原作と映画、ガッツリ比較して楽しんでください。

東京タワー オカンとボクと、時々、オトン(2枚組)

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東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~

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コメント 8

Sho

原作読んでませんが田中裕子がオカン役やったの見ました。ちょっと若かったかな・・と思いましたが、可愛らしいオカンでした。
ご紹介のセリフはドラマでも出てきませんでした。これは絶対抜かしちゃいかんでしょう!!(笑) 「女」をこんなに端的にあらわしてるセリフ無いと思います。
by Sho (2007-03-11 11:21) 

ken

田中裕子さんはちょっと違う気がしますねえ。
僕だったら誰をキャスティングするかなあ?
意外と大竹しのぶさんとかいいかも知れないな。
最後のセリフ、いいでしょう?原作で一番好きなシーンです。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-03-11 11:48) 

江戸うっどスキー

こんばんは。私もどれも未見ですが、著書だけは読みました。
エッセイの「美女と野球」は、満員電車で読むのは危険でしたけど(笑)
言葉の選び方や諸々含めて、好きです。人柄もイイですね。
オダギリジョー君だと、エヅラが綺麗過ぎですよ~。と言って、誰も思い浮かばないのですけど^^; 大泉洋が主演した分は、録画してた筈なので、ちょっと観てみます。
by 江戸うっどスキー (2007-03-11 22:29) 

ken

キャラクターだけを考えたら大泉洋かな?と僕も思いますが
芝居的には違うような気もします(笑)。
「美女と野球」は僕も読みました。
「東京タワー」のあとだったので、どんな人格してんだ!と思いました。
by ken (2007-03-12 01:24) 

non_0101

こんばんは。
TVも未見で本もまだですけれど
映画はキャストに惹かれて観てみようかなと思ってます。
私は本を読んでから映画を観ると、物足りなく思うことが多いです。
映像化の難しいところですね。
とりあえず、本はもうしばらく我慢して映画に挑戦してみます!
by non_0101 (2007-03-12 23:12) 

ken

映画→原作の順番だと、かなり満足度は高いと思いますよ~。
原作に対してね(笑)。 nice!ありがとうございます。
by ken (2007-03-13 02:39) 

ミック

オダギリジョーファンの私なので、2時間20分耐えられた映画かな?
オダギリジョーのPVみたいでした。
松岡監督の「バタアシ金魚」を見た時にも高岡早紀のPVかと思いました。
なので、松岡監督の原作完全無視加減は覚悟の上です(へへ)
大事なところもない分、嫌な分部も描きません。
ドラマでは東京に来たオカンがみんなを振舞い、ボクはオカンに文句
を言って、傷つける場面がありますが、そういうところもなかったですね。
原作読まないで、映画見てホントに良かったと、思います。
試写会当たらなかったら、見に行ってないですね~。
本は早速購入、明日あたり届きま~す^^
原作を読み遅れたのは「女子の生きざま」を読んでいたからです(^^)
by ミック (2007-04-08 21:30) 

ken

オダジョーファンにはたまらない映画じゃないでしょうか?
そういう意味では「蟲師」も。
「バタアシ金魚」はそういう映画でしたか。高岡早紀、可愛かったんだろうなあ。
「東京タワー…」原作はいいですよ^^
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-04-09 00:04) 

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