SSブログ

東京物語 [2007年 レビュー]

東京物語」(1953年・日本) 監督:小津安二郎  脚本:野田高梧、小津安二郎

 言うまでもなく戦後日本映画を代表する傑作の1本。

 観たのはこれが2度目ですが、最初に観たのは確か20代の前半だったので、途中のディティールはほとんど記憶から飛んでいました。
 強烈に覚えていたのは、近所のおばちゃんが2度、窓越しに話しかけてくるところと、ラストシーン。40代も半ばになって観た今回、笠智衆の最後のセリフは泣けました。

 僕が小津安二郎を凄いと思うのは、何気ない日常で顔を見せる人間の残酷な一面を絶妙なシチュエーションに折り込んでみせるところと、またそれを臆面もなく役者に演じさせるところです。その最たるシーンは、上京してきた両親(笠智衆、東山千栄子)と子供を連れて今まさに出かけようとした瞬間、長男(山村聰)のところへ急患の知らせが来て、あっけなく予定を中止してしまうシーン。もうひとつは熱海から帰ってきた両親に長女(杉村春子)が、「もうちょっと行っててくれれば良かったのに」とこぼすシーンでしょう。
 いずれも何気ない日常のシーンでありながら、実に残酷な脚本になっていて、その平然とした佇まいに僕は愕然としました。これらの「悪意なき言動」はたとえ時代が変わろうとも我々の生活の中に息づいていて、これこそ何年経とうと小津作品が腐らない最大の理由だと思います。
 
 ただ、この作品で唯一残念なのは、なぜ尾道の老いた父母が東京へ行くことになったのか、その動機が見えないところです。子供たちにとっては「一体なにをしに来るんだ?」でいいのですが、親の気持ちが明確だったらなおのこと「親の心子知らず」が表現できたのではないかと思います。僭越ながら…(笑)。
 それと今の時代に観る者としては、もう少し当時の東京の様子が観たかったですね。バスの車窓から少しだけ見える銀座の様子がとても興味深かったもので。

 個人的には僕の両親が上京したときのことを思い出し、やはり仕事にかこつけて満足に相手をしなかった自分を改めて恥じました。劇中のセリフにもありますが、まさに「孝行したいときに親は無し」です。
 日本人必見の名作。

東京物語 [DVD] COS-024

東京物語 [DVD] COS-024

  • 出版社/メーカー: Cosmo Contents
  • メディア: DVD

nice!(3)  コメント(8)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 3

コメント 8

クリス

両親と同居していた末娘が、「みんな勝手だ」という趣旨のことをいった時、紀子が諭した一節が印象的でした。とみが紀子の家に泊まったシーンも良かったし。あー、もう一度観たくなりますね!
by クリス (2007-03-10 00:13) 

ken

まるで自分ちの古いアルバムを観るような気分で
時間をおけば何度でも観られるような、そんな気がする映画ですね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-03-10 00:26) 

ミック

これは何度も見ました。
プレスリーが亡くなった時母が3日間泣いていた事があります。
私の母は笠智衆を自分の父の様に好きだと言っていたので、
笠智衆が亡くなったとき心配して実家に帰って、大丈夫?と、聞いたら、
「何が?」と、平然としてました。残酷なシーンだ(;_;)
何年か前のお正月に父と息子と私と三人で「秋刀魚の味」を見ていたら、
画面の中とこちら側がまるで同じ様になって、三人で無口になった事があります。
小津安二郎の映画でおもしろいのは「和製喧嘩友達」デス?
by ミック (2007-03-10 02:01) 

ken

お母さんが気になって実家へ帰ったときのミックさんの喪失感が
手に取るように分かります(笑)。
「和製喧嘩友達」は知りませんでした!でも一部のフィルムが
損失しているらしいですね。でもとても気になる作品です。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-03-10 15:48) 

Tapas

はじめまして。
実は、ずっとROMでしたが、書いてみることにしました。

小津……いいですよね。
僕も10代で観た時は分からなかった。確か寝てしまったような気がします。

で、実は地元の映画祭でなんと小津4本立て!
たっぷり小津ワールドに浸り、涙しました!
http://www5a.biglobe.ne.jp/~eigasai/nihon.html

僕は年間100本ちょっとぐらい(劇場とDVD半々くらい)しか観れませんので、kenさんのブログを参考にして厳選していきたいと思います。

水戸もシネコンがあいついで建ち、良い環境になりました。
今年観た映画でまだkenさんが書いていないお勧めの映画を書いてみます!

『あなたになら言える秘密のこと』
映画で明かされる秘密に愕然!
なんの予備知識もなしに観たほうがいいと思います。
そのものズバリ○○の映像を見せなくても○○の悲惨さを表現できる。
女性監督ならではの映画だと思いました。

『ただいま』
ゆるす(赦す)って大変だと思います。

『息子のまなざし』
これもゆるしについての映画。
実は、僕の人生のテーマなんです、ゆるしってのが(笑)

はじめての書き込みなのに、妙に馴れ馴れしくてすみませんでした。
by Tapas (2007-03-11 05:10) 

ken

Tapasさん、ようこそ。
オススメ映画をご紹介いただき、ありがとうございます!
「赦し」がテーマの映画、究極は「パッション」かと思います。
ご紹介いただいた3本はいずれ観てみますね!
by ken (2007-03-11 11:54) 

coco030705

こんばんは。
いい映画でしたね。私はBSの小津特集で初めて見ました。
笠智衆さんって、ほんとに独特ですね。これが演技なんでしょうか。
老夫婦が現実に居るように見えました。すばらしい間合いというか、
空気感というのかを、かもし出していたと思います。
子供たちの両親に対する扱いが、どこにもありそうな感じで、心が痛みました。
でも、杉村春子の演技はすばらしかったです。すごい役者ですよね。
また機会があったら、小津作品を見てみたいと思います。
by coco030705 (2007-03-11 19:37) 

ken

言い難いことを敢えて言う。
それが小津映画の真骨頂かと思います。
杉村春子さんは小津作品だけでなく、成瀬巳喜男作品でも見事な演技を
見せています。この人は日本映画界の至宝でしたね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-03-11 19:56) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。