ピンチクリフ グランプリ [2007年 レビュー]
「ピンチクリフ グランプリ」(1975年・ノルウェー) 監督:イヴォ・カプリノ
“千羽鶴”という習慣を否定するのは難しい。
千羽鶴は労をいとわぬ人々の“想い”や“願い”が込められたものであり、現世で最も美しいとされる“無償の愛”の象徴だからである。これを送る側でも受け取る側でもない部外者が、「何の足しにもならない無駄な習慣」と批判する権利はどこにもない。
ただ多くの人が心のどこかで「自分でやれって言われたら大変だなあ」と思っていることは間違いないだろう。
「ピンチクリフ グランプリ」は映画の中で最も手間のかかる「人形アニメ」で、撮影には5年を要したと言う。確かに観ればその手作り感はすべてのカットからにじみ出ていて、CGアニメ全盛の今これほど人の手の温もりを感じる映画もないと思う。公開当時、地元ノルウェーでは人口を上回るチケットが売れ、ヨーロッパ各地でも大ヒットをしたのだそうだ。
物語は「自動車修理工場の老人が自ら作ったマシンでグランプリレースに挑戦する」という、ただこれだけの話。これに多少の枝葉は付いてはいるが基本的にはこの縦軸を一直線に進んでいく。
こんなにシンプルなストーリーの人形アニメが、30年ぶりにリバイバル上映されるって言うんだからきっと面白いに違いない。そう思って劇場に足を運んだ僕の期待はキレイに裏切られた。
まず何が面白くないって、レースに出ると決まるまでが長い。観ている方は「出るのは分かってんだから早くしろ」と言いたくなる。これは安物のAVと一緒。「ヤルことは分かってんだからさっさとヤレ。面白くするならそこからにしろ」である。
もうひとつ面白くないのは、レースになったらなったで今度はレースシーンしか見せてもらえないこと。ミニカーがスイスイ走っているシーンを観て手に汗握るオトナはいない。この作品には肝心の「ドラマ」が欠落しているのだ。
30年前に作られた人形アニメを観るために払う劇場料金1,800円は完全に割高である。
「ピンチクリフ グランプリ」は“千羽鶴”。
映画の悪口が何も聞こえてこないから大丈夫なのかと思ったら、「あんな大変なことをやり遂げた人を悪く言っちゃ可哀相」という心理が観客に働いていたのでしょう。人形もクルマも美術も衣装もすべて見事だったのに、ちょっと残念でした。
DVDでなら観てもいいかも。
造形は完璧に近い出来栄えなんですけどねえ。
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