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THE QUEEN [2007年 ベスト20]

クィーン」(2006年・イギリス/フランス/イタリア) 監督:スティーブン・フリアーズ

 アカデミー作品賞にノミネートされたと聞いて、あわてて東宝の試写室へ足を運ぶ。
 これはダイアナ元皇太子妃がパリで交通事故死した直後から7日間の英国王室の様子と、就任間もないブレア首相の行動を描いたドラマだ。

 この作品を「歴史事件を再現したテレビドラマの様」と言った宣伝マンがいた。映画を観終えた僕は素直に「的を得た表現だな」と思った。
 確かに政治絡みの「密室の出来事」をテーマにした作品はこれまでも多数作られて来た。が、残念ながらこの手の作品は、よほどセンセーショナルな事件でない限り、エンタテイメントとして成立させることは難しい。だから「娯楽映画」ではなく「歴史検証」という大義の元、テレビドラマとして作られることが多かった。
 この観点から言えば、世界中を魅了したダイアナ元妃の極めてスキャンダラスな事件は、エンタテイメントになり得る数少ない「政治密室劇」だったかも知れない。しかし、僕は東宝の試写室へ向かう道々、「ダイアナ人気は死してなお衰えず、こんな作品まで生んでしまったのか」と、ほんの少しだけ嫌悪感に似た感情を抱いていた。アカデミー作品賞にノミネートされたその完成度を確認するためとは言え、僕はダイアナ人気にあやかったこの作品を観ることに全く抵抗が無いわけではなかったのだ。
 
ところが…。
 この映画に対する僕の勝手な思いは、エンドロールが流れるまでにすべて蹴散らされていた。そして僕は自己批判した。「オマエはなんと考えの浅い男なんだ」と。

 まず驚くべきは脚本である。
 おそらく当人以外に誰も正解を知らないはずの、シチュエーションと会話の内容を巧みに構成し(エリザベス女王とトニー・ブレアのセリフに関して、一部本人たちへの配慮として書かれたと思われるセリフはあったが)、圧倒的なリアリティを確立している点は見事としか言いようがない。
 例えば英国王室内のやりとり。ブレア家内のやりとり。いずれも“次に出てくるセリフを待ち遠しく思わせる”緊張感は絶賛に値する。さらにダイアナの存在を、王室領に生息する鹿に見立てた描写も素晴らしい。

 また優れたセリフに命を吹き込み、観客の前で「エリザベス女王」その人になったヘレン・ミレン。
 「THE QUEEN」は
この女優の成し遂げた仕事を確認するためだけに観てもいい。
 ヘレン・ミレンは「実在する歴史上の人物」という極めて困難な役どころを完璧に演じ切り、我々を確実に“あの夏”までタイムスリップさせるのだ。
 この作品は彼女のおかげで「テレビドラマ」も「映画」も関係ない、「まったく別次元のエンタテイメント」に昇華していると言っていいだろう。

 僕はこの作品がアカデミー賞を獲る獲らないに関わらず、ダイアナ元妃を知るすべての人にオススメします。
 充分に観る価値アリの一本。

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コメント 14

魚河岸おじさん

見たい・・・・
羨ましい・・・・
by 魚河岸おじさん (2007-01-27 23:46) 

ken

この作品、ぶっちゃけ悪くないです。
僕は冒頭から5分と経たないうちに鳥肌が立ってました。
楽しみにして観てください!
by ken (2007-01-28 00:46) 

snorita

みました。英語だったですが分かりやすい英語でしたし。いや、クイーンは怖い・・・。
by snorita (2007-01-28 09:13) 

ken

クィーンもやっぱり人間なんですよ。だから怖いんです。
by ken (2007-01-28 09:18) 

copanda

映画館で予告を見て、「ふ~ん」という気持ちでしたが、
俄然見たくなりました!
by copanda (2007-02-07 14:10) 

ken

丁寧に作られた、実に良質なドラマだと思います。
ぜひ観に行ってみて下さい。 nice!ありがとうございます。
by ken (2007-02-07 14:25) 

流星☆彡

当方記事に お立ち寄りいただき、ありがとうございました!m(__)m
東宝の試写室で観られたんですか!?業界関係者で いらっしゃるんです
ネ。うらやましい~☆
ところで!女王が出会った鹿は、“ダイアナの存在を見立てた描写”だったん
ですか?!別の映画評で、女王自身の威厳の化身…みたいな解釈も
読んだので、実は混乱しております。あの鹿は、後に首を打ち落とされた姿で
捉えられていますが、それが ダイアナの末路…という解釈でしょうか。。。
by 流星☆彡 (2007-04-18 22:30) 

ken

鹿に関する解釈は「女王の威厳の化身」も理解できます。
ただ僕自身はあれを「ダイアナ」と解釈することで、
女王の心の言葉を読んだような気がするのです。
いろんな解釈があっていいと思いますよ^^
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-04-19 00:41) 

coco030705

こんにちは。
映画会社の試写室で鑑賞なんて、うらやましいです。(^^)

ほんとにヘレン・ミレンの演技力には脱帽ですね。クィーンズ・
イングリッシュと共に、みごとにエリザベス女王の気品と威厳を
表現していました。
しかし、実際生きている人を演ずる、それも「女王」を演ずることは
勇気がいったでしょうね。またそれを許す英国王室も、オープンで
素敵だと思いました。
340,000prv おめでとうございます!♪
by coco030705 (2007-05-11 17:36) 

ken

イギリスは王室をギャグにしてしまう国ですから
ここまでまともなドラマなら、文句の付けようもないんじゃないでしょうか。
日本とはエライ違いですね(笑)。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-05-12 00:00) 

ジジョ

こんにちは(^-^)
ほんと、これはおもしろい映画でした☆
平日昼のレディースデイで見たのですが、50代以上(と思われる)の女性で埋め尽くされた劇場は圧巻でした。
しかも、昼の時間帯はSOLD OUT! ちょっとビックリしました。
TBさせていただきますね☆
by ジジョ (2007-05-12 02:46) 

ken

そうそう、日比谷のシャンテシネもレディスデイは満員だったようです。
おもしろいですねえ。 nice!ありがとうございます。
by ken (2007-05-12 07:52) 

satoco

やっと見たのですが、始まって1分で見やすさに驚きました。とにかく引っ張るのがうまい脚本にただただ感心。見せ方も結構凝っているのにものすごく明快で分かりやすく。
現実感のある展開でいて、女王にもブレアにも愛があるのがいいです。
by satoco (2010-03-13 09:01) 

ken

今年のアカデミー授賞式でもヘレン・ミレンが美しかったですね。
彼女はこの1作でハリウッドでも一目置かれたトップ女優になったと言っても
過言で無いと思います。そしてこの作品の「見やすさ」はsatocoさんの仰るとおり。
偏見ではなく、愛があったのがすべてでしたね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-03-13 12:51) 

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