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ダーウィンの悪夢 [2007年 レビュー]

ダーウィンの悪夢」(2004年・オーストリア/ベルギー/フランス) 監督:フーベルト・ザウパー

 人間の手によって外来種が持ち込まれたために、それまでの生態系を破壊してしまうという事例は日本でもよく聞く。ブラックバスによる湖被害がその顕著な例だが、この作品はアフリカのビクトリア湖に放たれた肉食魚「ナイルパーチ」が、湖の生態系のみならず人間の生命あるいは尊厳までも脅かす「悪魔の連鎖」を引き起こしている様を見せている。

 言わんとしていることは分かる。
 しかし映像作品としての完成度は低い。僕は終始“出来の悪いディレクターのオフライン編集”を観ている気分だった。こういう仕上がりを観るとどうしてもこう言いたくなる。
 「せっかくいいモノが撮れてるのに、編集でつまらなくするな」
 問題定義型の作品はとにかく分かりやすいことが第一だ。例えば地球温暖化の危険性を説いた「不都合な真実」のように、世界中の誰が見ても「それは深刻な問題だ」と分かる構成が望ましい。
 
 「ダーウィンの悪夢」の場合、確かに事は複雑だが、それを分かりやすくしてこそドキュメンタリー映画ではないのか(そもそもオープニングの管制塔のシーンで管制官がミツバチを叩き殺すシーンは何だったのか、僕にはその意味が未だに分からない)。

 それでも最後まで観ていられるのは、我々日本人は想像すら出来ない、目を覆いたくなるような現実が目の前に映し出されているからだ。資本主義経済の歪み、矛盾、あるいは僕たちの知らない事実。
 ただ個人的には、「この映画を観て僕たちは一体どうすればいいのだろう」と思った。
 じゃあマクドナルドのフィレオフィッシュを食べるとき、僕たちはAIDSで死んでいくタンザニアの女性を想えばいいのか?ヴィクトリア湖畔で粗悪なドラッグを吸う子供たちの行く末を案ずればいいのか?
 そういう意味でこの作品はナイルパーチを買うEU諸国や日本に出来ることは何なのか、もっと具体的にアピールしても良かったのではないかと思う。このままでは所詮“第三国の出来事”で終わってしまうような気がするのだ。
 「ヨーロッパと日本のせいでタンザニアという国が滅びようとしている」
 ここまでのアピールがあってもいい。
 僕は21世紀のドキュメンタリー映画は、客観論ではなくもっともっと自己主張するべきだと思う。マスメディアでは不可能な「告発」が出来るのは「映画」しかないのだから。

  この写真もどうかと思うなあ。観れば分かるけど。

ダーウィンの悪夢 デラックス版

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  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • メディア: DVD

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コメント 6

まみりん

おはようございます。
編集がいけなかったんですね?あの不自然なつながりの無さは。
私も、結局これが何を言おうとしてたのかが、最後までつかめませんでした。まぁ、なんとな~くなら解るんですけどね。
でも、しこたま賞をとってるみたいですよね?
by まみりん (2007-01-26 08:46) 

ken

クオリティはどうあれ、賞を上げやすい映画ではありますね。
授与する方も、さもこの問題に心痛めているようなフリが出来るし(笑)。
でも何が言いたいのかはホントによく分かりませんでした。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-01-26 11:46) 

瑠璃子

うーむ。不思議な感じがします。
というのは、日本のドキュメント三本(いずれも昭和と戦後をテーマにした物語。「蟻の兵隊」「ディアピョンヤン」など)みて、うち二本に編集のダメさを感じたからです。で、どうダメかというと、編集が甘い、くどすぎるという点。いらないシーンが多すぎて、なおかつテレビのテロップでわざわざここで笑えよと指示せんばかりの丁寧さ。わかりやすくし過ぎとわかりやすくしなさすぎ、どちらも自己満足レベルで終わっているというのが面白いですね。
で、その三本みたうちの大傑作である一本、ヨコハマメリー、是非kenさん見てください。私と同じ年代の監督が取った「昭和」と「戦後」。編集も見事でなおかつ突き放さず、主人公に依拠しすぎず、本当に素晴らしいです。
by 瑠璃子 (2007-01-26 15:13) 

ken

編集という作業はホント難しいんですよ。
繋ぎ方ひとつで、作品はいかようにでもなりますからね。
編集の恐ろしさを知っているからこそ、この作品の繋ぎの甘さは
かなり気になりました。
「ヨコハマメリー」、探してみます。
by ken (2007-01-26 15:15) 

yamagen

随分前にみたので、つながりの不備とかそうしたことは
憶えていません。ただ市場原理主義のグローバライゼーション
に対する警鐘は自分の心にしっかり届きました。
武器輸出国に対する嫌悪感は大事にしなければいけない。
かの国からきている患者が日本にもいます。
ちなみに、彼の国の海岸部にはザンジバル島があり、
その島でフレディ・マーキュリーは生まれました。
私にできることは、多少の募金をすること、薬剤の価格低下に
協力することです。
by yamagen (2007-01-26 23:52) 

ken

そうか。やっぱり僕たちにも出来ることがありましたね。
薬剤の価格低下はぜひとも推し進めて下さい!
そして先生がお元気そうで何よりです。
by ken (2007-01-27 02:51) 

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