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リンダ リンダ リンダ [2006年 レビュー]

リンダ リンダ リンダ」(2005年・日本) 監督:山下敦弘 脚本:向井康介、宮下和雅子

 この映画のキャスティングはいいと思う。
 ペ・ドゥナなだけじゃなく、香椎由宇、前田亜季、関根史織(この子が一番良かった)のバランスは絶妙で、プロデューサー(キャスティングディレクター)は実にいい仕事をしたと思う。しかし、作品としてのレベルはあまりに低い。
 まず上映時間が長すぎる。公式には114分とあるが体感時間は120分を優に越えている。僕は観ている途中から「贅肉だらけの映画だな」と思っていた。
 監督はもちろんそう思っていないだろう。だからこんな脚本と編集になっているのだと思うが、まず監督の狙った「間」は何の効果も発揮していないし、逆に何を狙ってその「間」を取っているのか聞いてみたいと思った。聞けばきっと「観客に行間を読ませたい」という主旨の答えが返ってくるだろう。しかし「行間を読みとらせる」ためには作り手のテーマが明確で、それぞれの行(映画で言うならカット)に監督のメッセージが織り込まれていない限り、観客はその間を読みとりようがないのだ。だから僕は本篇の途中でこう思った。
 
 “山下敦弘監督にこの映画を撮る資格があったのか?”
 
 「藍色夏恋」という台湾映画を思い出す。
 恋に目覚める女子高生の心の揺れを実に丁寧に撮った佳作で、台湾映画なのになぜかすべてが懐かしく、映画の中にかつての自分がいるんじゃないかと思わず目を凝らしたくなる実に温かい作品だった。
 「リンダリンダリンダ」にも同様の演出を施した形跡はある。
 例えば校舎の風景を切り取ったカットの積み重ねや、会話の前後に存在する微妙な間合いがそれだ。しかし僕は何も感じなかった。何も読み取れなかった。
 なぜか。
 そこに監督自身の「想い」が無いからだ。
 そして監督自身がブルーハーツをコピーする女子高生の気持ちを理解していないからだ。
 “山下敦弘監督にこの映画を撮る資格があったのか?”
 この答えを出すためには、高校生時代の山下敦弘はどんな少年だったのかが「鍵」になるだろう。監督自身は劇中登場人物の誰に近い存在だったのか。
 僕はおそらく冒頭で登場するビデオ映像の監督をしている少年じゃないかと思う。顔出しする女子高生とカメラマンの間で右往左往する主体性のない男の子。少なくともブルーハーツをコピーするような熱い女子高生とは付き合いがなかったのだろうと察する。
 登場人物の心理状態を理解しない人間に映画を撮る資格があるだろうか?
 間違いなく答えは「NO」である。

 ペ・ドゥナには期待をしていた。
 しかし未熟な脚本が彼女の魅力を存分に引き出せないまま終わっている。
 交換留学生という設定である以上、つたない日本語を話すのはいたしかたない。しかしもっと韓国語を話させるべきだったし、もっと熱い(韓国人的な)性格のキャラクターでも良かったと思う。特にバンドメンバーの3人が感情表現に乏しい設定であったから尚更だ。異文化特有の「遠慮の無さ」を盛り込めばドラマとして
の面白みと厚みを出すことが出来ただろうに。返す返すも残念だ。

リンダリンダリンダ

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  • 出版社/メーカー: バップ
  • 発売日: 2006/02/22
  • メディア: DVD

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コメント 5

youko

私も長かったです。
最後の舞台のために、ペ・ドゥナさんの歌のために途中を見てました。

トラックバックさせて頂きました。
by youko (2006-03-09 06:19) 

魚河岸おじさん

>監督自身の想いが無いからだ。
相変わらず鋭い視点に恐縮します・・・・
ボクは自分の想いがドンドン映画の中に入っていってしまい
かなりお気に入りの作品になりました。
ラストのライヴシーンは、まさに高校三年の自分とダブってしまい
何回見ても涙が出てきます・・・・
by 魚河岸おじさん (2006-03-09 16:36) 

ken

>youさん
 ペ・ドゥナの歌に関しては記述しませんでしたが、実にいいパフォーマンス
 だったと思います。撮り方は別にして。
 しかしそれを観るために長い前フリを観るのは…ちょっと辛いですね。

>魚河岸おじさん
 記事を読ませていただきました。
 誤解を恐れずに書くならば、「失投になったボール球も明訓高校の岩鬼には
 大ごちそうのホームランボールだった」と言う感じがします。
 同様の体験がある方にとってはたまらない作品でしょう。
 そして監督のつたなさを補う「記憶」があるから泣けるのだと思います。
 個人的にはもうちょっと面白いかと思っていただけに、僕は残念でした^^
by ken (2006-03-09 18:48) 

ミック

その間に潰されてしまいました。
私は高校生の頃はバンドのマネージャーをやっていました。
もっと、練習をしたし、もっと、物語がありました。
そういうバンドをやってると、あるある物語を盛り込んで欲しかったです。
期待しすぎた感は否めませんが・・・・・(笑)
by ミック (2007-05-09 23:32) 

ken

ははあ、ミックさんは「マヂ」なんですよ。
だから期待しすぎてるし、リアリティの無さにガッカリしたんでしょうね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-05-10 00:29) 

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