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失われた龍の系譜 [2006年 レビュー]

失われた龍の系譜/トレース・オブ・ア・ドラゴン」(2003年・香港) 監督:メイベル・チャン

 文学的な美しい邦題に心奪われ、いつか必ず観ようと決めていたドキュメンタリー作品。
 
 世界的スターとなった香港の英雄ジャッキー・チェンは自分が一人っ子だと永年信じていた。しかし彼には兄が2人とさらに姉も2人いたことを、実の父から最近になって明かされる。
 ジャッキーも知らなかった両親の軌跡は、激動の時代を生き抜いた中国人の歴史でもあった。

 ジャッキー・チェンの両親の話でなければ日本人は誰もこのドキュメンタリーを観ないだろう。
 ジャッキー・チェンの両親の話であってもこのドキュメンタリーを観る日本人は少ないと思う。
 ところがジャッキー・チェンとはまったく関係なく、観ると驚くことがある。
 それは日中戦争時、日本人が中国人に対して行った行為がいかに残虐的であったか、その一部を目撃してしまうからだ。
 ここで見る映像は、後に日本がアメリカに受ける仕打ちと何ら変わらない。いやそれどころか、日本人は中国人に対してそれ以上の悪行を行っていたかも知れないのだ。そもそも悪行に格差などないのだけれど。
 観ている最中、僕の脳裏にひとつのキーワードが浮かぶ。
 「靖国」
 僕が中国人だったら日本人のことをどう思うのだろう。
 ジャッキーは僕たち日本人のことをどう思ったのだろう。
 考えるほどに言葉が詰まる。

 感動をしたのは、過去を語る父(陳志平)の傍らに息子(ジャッキー・チェン)がいることだった。
 スクリーンに映る2人の姿に僕は、僕自身と父の姿を重ねていた。
 僕の父は3年前に死んだ。
 その直前僕は兄が2人いることを母から知らされる。寝耳に水だった。突然明かされた兄弟の存在。聞けば2人の兄は亡き父と前妻との間に生まれた子供だと言う。
 僕が陳志平とジャッキーの姿に感動をした理由は、語り継がれるべき家族の歴史が父から息子へきちんと口頭伝達されていたからだ。
 兄の存在を知らされてまもなく僕は激しい後悔の念に駆られていた。それは息子として語り継がなければならない家族の物語を、父から直接聞く機会を失ってしまったからだ。
 父が亡くなった後、僕は父の故郷を訪ね歩き、父と祖父の軌跡を辿ってみた。しかし記録も記憶も乏しかった。それくらい時間が経過していた。
 「父が語り、息子が聞く」
 愚息は父を亡くして初めてこんな大切なことに気がつくのだ。だからこそ僕は総ての人に言いたい。
 「どんな家族にもある“語り継ぐべき物語”を遅くならないうちに語り、聞いて欲しい」と。

 作品として。
 すでにお察しの通り、エンタテイメントなドキュメンタリーではありません。しかし中国人民の歴史を映画スターの両親というフィルターを通して見るのは面白いと思います。
 余談ですが仕事の顔とはまるで違う、肩の力の抜けた一人の中国人の息子といったジャッキーの表情が微笑ましい。
 また若干目障りな編集技術は頂けないのですが、ヘンリー・ライの音楽は秀逸です。
 

失われた龍の系譜

失われた龍の系譜

  • 出版社/メーカー: ハピネット・ピクチャーズ
  • 発売日: 2005/09/23
  • メディア: DVD
 

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コメント 2

snorita

この話を聞いて、私も父の存命中に私の異母姉妹の話を聞いておかなくてはと思いました。
私はこのことを知っているけど、父は私が知らないと思っています。このままでいいのかなと、ずっと思っていたけれど。
by snorita (2006-02-01 08:07) 

ken

複雑な問題ですから「知らないほうが幸せだ」とお父様は思っている可能性が
ありますよね。でも人間は往々にして最期の瞬間、すべてを話しておきたく
なるものなのです。だからこそお元気なうちに大事な事ですから、お話しする
べきだと思います。時間をかけてゆっくり話を聞いてみてください。
今まで知らなかったご両親の人生の物語にきっと心打たれると思います。
by ken (2006-02-01 13:44) 

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