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誰も知らない [2005年 ベスト20]

誰も知らない」(2004年・日本) 監督・脚本・編集:是枝裕和

 この映画はコメディでもアクションでもラブコメでも時代劇でもない。
 上映時間は2時間21分。躊躇する人は多いと思う。
 「柳楽優弥ってどんな子?」という興味がなければ僕は観なかっただろう。

 途中ものすごく息苦しくなる。
 せつないとか、哀しいとか、そんなことじゃない。
 緻密に計算されたカメラワークと(だからこの映画を“ドキュメンタリータッチで撮影された云々”と言う評論家が僕は嫌いだ)、俳優とカメラの距離感が紡ぎだすリアリティによって、自分もその空間に置かれたような錯覚を覚えてしまう。特にアパートのシーンになると途端に呼吸の回数が減ってしまう。だから息苦しい。
 息苦しさを解消するためには現状を打破すればいい。
 池の鯉も水面に顔を出すように、自分の置かれた環境を変えればいいのだ。僕の場合はきっとDVDのストップボタンを押せば済む話だったと思う。
 でも、どうしてここまで息苦しいのか、その理由が知りたかった。

 この作品は東京で実際に起きた事件をモチーフにしている。
 
母親に捨てられ、兄弟四人で生きていた子供たち。この母親を「許せない」と言うのは容易い。そう言ってしまえば僕も息苦しさは感じなかったと思う。
 「監督は何を思ってこの事件を基に映画を作ったのか?」
 
後半はそればかりが頭の中を支配していた。
 真意が読めない。

 やがてエンドクレジットが流れる。
 劇中、事件は解決しない。いや発覚しないというほうが正しいか。
 「事件は発覚していない」
 …そうか。
 謎は解けた。
 
 子供を蔑ろにする大人たち。
 義務を放棄する大人たち。
 自分の都合を優先する大人たち。
 見て見ぬフリをする大人たち。
 余計なことには係わりたくないと言う総ての大人たち。
 そんな大人たちのせいで、この事件は発覚しなかった。
 
 つまり、我々もこの事件の『共犯者』だったのだ。
 
 だから息を潜めてしまった。
 だから息苦しかった。
 そう思ったらまた最初から観たくなった。
 途中いろんなことを感じていたのに、「なんでこんな映画を撮ったのか」ばかり考えていて、この映画を中途半端にしか受け止められなかったからだ。
 例えば「生きていく上で本当に必要なものはなんなんだ?」と思った。
 それはこんなシーンがあったからだ。
 
 取り残された四人兄弟のことを心配するコンビニ店員が「警察とか福祉事務所とか連絡した方がいいんじゃない?」とアドバイスする。すると長男の明がこう言う。
 「そんなことしたら4人で一緒に暮せなくなるから」
 僕もコンビニ店員と同じ気持ちで観ていた。でもこの一言を聞いて自分が恥ずかしくなった。
 “生きていくうえで一番大切なのものはなんだ?”
 もう一度観てゆっくり考えたい。

 それにしても柳楽優弥はスゴイ。
 凛としていてそれでも壊れそうになる綱渡りのような精神状態を巧く演じていたと思う。
 もちろん監督の力が大きい。でもそれに応えた柳楽優弥がスゴイ。
 他3人の兄弟も実に自然で素晴らしかった。
 こんな小さな子供から、どうすれば絶妙な演技を引き出せるのか、監督の話を聞いてみたいと思った。メイキングが観てみたい。

 エンタテイメントではありませんが、この作品はオススメです。

誰も知らない

誰も知らない

  • 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
  • 発売日: 2005/03/11
  • メディア: DVD

「誰も知らない」ができるまで

「誰も知らない」ができるまで

  • 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
  • 発売日: 2004/12/23
  • メディア: DVD

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コメント 15

hiro163hiro

高校生のあの女の子以外は、彼らの事を本当に誰も知らないんですよね。知らないと言うか、知ろうとしないと言うか。大家さんが訪ねて来た時、公園で水を汲んでいる時、誰かおせっかいな大人がいれば、結果は変わっていたのかもしれません。幼いのに生きる事に必死な姿に、やっぱり私も息苦しさを感じてしまいました。しばらくは観たくない気持ちの方が強いです。でも、観た方がいい映画だと思いました。
by hiro163hiro (2005-06-19 22:07) 

4人の子供の演技は皆素晴らしかったですね
演技と言うより、実生活を生取りしたドキュメンタリーのような感じでしたが
末っ子が寝付くところなんて実際に眠るまでじっくりカメラを回した感じでした。
by (2005-06-19 23:01) 

ken

>hiro163hiroさん
 この映画のストーリーで言うなら、大家さんがまず「共犯者」ですよね。
 あの大家に犬を抱かせているのはうまいなあ、と思いました。
 ペットに注ぐ愛情はあっても、自分のアパートに住む子供に興味はないと
 言うことですもんね。

>twilightkumaさん
 末っ子の女の子、可愛かったですねえ。
 僕は食事のシーンが大好きでした。みんな楽しそうで。
by ken (2005-06-20 00:55) 

私、最近子供出演の映画をよく観ます。そして当たりが多いです。
とにかく観た後に重いハンマーでガツンとやられたような感じでした。
観た直後になかなかコメントかけませんでしたし。
それでも観なければなんて全く思いませんでした。
私の印象的だったのはシゲルの松坂大輔似の笑顔ですかね。
by (2005-06-25 15:26) 

ken

シゲルの笑顔は明がいたからこそですね。
あれこそが本来の子供の顔です。
アイツがいなければ映画としても成立していなかったでしょう。
by ken (2005-06-26 22:53) 

うめぼし

kenさんこんばんは
コメントとniceをいただきありがとうございました。
男性らしくて力強い感想ですね。
あの子供たちの傍にもし力強い存在があったらばと思うと切なくなります。
お台場映画王にしげる役の木村飛影くんが来てました。
私の後ろの列に座ってたんですよ。映画の時より随分大きくなってました。
でも呼ばれて恥ずかしそうにしてる姿がかわいかったです。
是枝監督の次回作にも出演するらしいので、私、楽しみにしてます。
by うめぼし (2005-09-16 22:45) 

ken

うめぼしさん、nice!ありがとうございます。
この映画は、多くの子供たちにも観てもらいたい映画ですね。
木村飛影くんはこの先、どんな大人になるのか、楽しみです。
by ken (2005-09-18 22:39) 

Ren

はじめまして、やっと見ました。正直重かったです。
予想はついていたのですが・・・淡々と日常が進むことが怖くなりました。
TBさせていただきました。
by Ren (2005-10-14 09:25) 

ken

自分の周りに何が潜んでいるのか分からない。
それが都市の危うさですね。一見穏やかな日常もすべて偽りなのかも。
nice!ありがとうございます。
by ken (2005-10-14 12:04) 

Sho

この映画はいつか観なければ・・と思いつつ先延ばしにしていたものです。
でも思うところあって、kenさんのこちらのブログのもくじから「重そうな」作品をいくつか選ばせていただき、立て続けに見た中の一本です。

kne さんの記事、魚河岸おじさんさんのkenさんへのお手紙、そしてそのお手紙に対するkenさんのお返事。全てが、背中を押してくれました。
そうでなければ、私は未だこの映画を先延ばしにしていたと思います。
どの世代の人にも見て欲しいです。
時期はずれかもしれませんが、トラックバックさせてください。
よろしくお願いいたします。
by Sho (2006-06-17 18:12) 

ken

この映画を見る気になるにはよほどの勇気がいりますね。
しかもこの期に及んで、ですから(笑)。
でもShoさんが仰るとおり、どの世代にも観て欲しい一本です。
nice!ありがとうございます。
by ken (2006-06-18 01:19) 

サンラブ

こんばんは
TB有難う御座いました。此方からもTBさせて頂きました。

かなりショックを受ける映画でしたね。
子役たちの何気無い笑顔が逆に突き刺さる感じがしましたもの。
by サンラブ (2006-07-08 00:14) 

ken

子供に罪はないんです。
ただそれだけがずっと心に痛い映画でした。
我々は目を背けちゃいけないんですね。
by ken (2006-07-08 01:01) 

たつまる

訪問ありがとうございました!
おかげで、kenさんの「映画を深く愛されるブログ」に
出会う事ができました。
他の映画の記事も、ぜひ読ませて頂こうと思っています。

なるほど、『共犯者』… 確かにそうですよね。
「隣は何をする人ぞ」精神、風潮が大きくなり続ける現代では、
『共犯者』を自覚しなければいけない事件が、
次から次へと起こり続けていますよね。
by たつまる (2007-11-03 12:45) 

ken

埼玉県川口市の殺人事件もそうです。
女性の悲鳴を聞いて、なおかつ30分も物音がしていたのを放置していた
同じアパートの住人は恥を知れと思います。本当に悲しい事件でした。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-11-03 17:59) 

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