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さよなら、クロ [2005年 レビュー]

さよなら、クロ」(2003年・日本) 主演:妻夫木聡、伊藤歩

 のっけからこういう言い方は失礼だと思いますが、この映画は僕にとって「観ても観なくてもどっちでもいい映画」でした。
 どっちでもよかった理由その1。
 面白いという評判をあまり耳にしなかった。
 どっちでもよかった理由その2。
 出演者に興味がなかった。妻夫木クンのことも「別に」って感じ。だってオレ男だし。
 どっちでもよかった理由その3。
 「盲導犬クイールの一生」(文藝春秋刊)を超える犬の話があるとは思えなかった。
 では今回どうして観ることにしたかと言うと、最近邦画にはまっているからです(今週レンタルしたDVD5枚は全部邦画だし)。あと犬好きだからな。


 この映画の原作は「職員会議に出た犬・クロ」。なのに映画のタイトルは「さよなら、クロ」にした。これは結末を先に教えても尚、観る価値ある作品に仕上げたという自信の表れか?と思いました。考えすぎかもしれませんが、このタイトルがなんだか地味で暗い映画というイメージを与えたとしたら、興行的なリスクは大きいと思うからです。
 ところがこの映画は思いのほか面白かった。
 というのも犬と人間の物語に留まらず、一組の男女の恋愛物語も平行して描かれていたからです。単なる「ワンちゃん感動物語」じゃないのが好印象。
 よって妻夫木聡ファンの方は観る価値あると思います。さあ、続きは読まずにレンタルビデオ店へ向かいましょう(笑)。
 この先はウルトラ完全ネタバレ(しかもあまり役に立ちません)ですから。


 子供のことを可愛いと思うから叱る、とはよく言ったもんです。まったく同感。
 どうでもいい子は叱りません。映画も同じです。観る価値もないような映画ならあっさり「つまらない」で終わりです。
 「さよなら、クロ」も全体的な構成は面白かった。でもさらに良くする方法があったんじゃないかと思いました。というわけで、ここから先はあくまでも「個人的な覚書」です。

 
①ファーストシーンはその作品にとって最初にして最大の伏線になる。
 この映画の場合は元の飼い主を何らかの形でのちに登場させると、劇的なエピソードになった気がします。この作品の場合、冒頭で見せる「赤い鈴」を生かしきれていないと思う。
 
 
②現代劇でない場合はそれがいつの時代の物語なのか一目で判るシチュエーションを
 
早い段階で用意すること。
 この物語は1960年代からスタートします。冒頭、登場人物たちの衣装で「もしや?」とは思いますが確信には至りません。「は?これっていつの話?」なんて、ストーリーに集中出来なくなるような要因は出来るだけ排除することが大切。

 ③主演女優はいかなる理由があっても美しく撮ること。
 高校時代の五十嵐雪子を演じる伊藤歩の芝居はとてもいい。高校生の頃、こんな女の子がいたなあって思い出させるリアリティがある。ところが成人した雪子を演じる伊藤歩の肌の状態が芳しくなく、特に亮介と別れる駅のホームでのシーンは彼女のアップが美しくない。そのときの状態でどうしても無理ならアップにすべきではないし、アップにするなら何が何でも美しく撮る方法を探すべき。(ただし彼女の「手」の芝居は抜群に良かった)。

 
④目は口ほどにモノを言う。恋愛映画の場合、10のセリフよりも一度の視線が効果的。
 クラスメイトの神戸を亡くした10年後、友人の結婚式で再会する亮介と雪子が互いを認めながら最初に口をきかない芝居をルーズで見せては意味がない。
 2人の目線を追うアップを入れることでおざなりな台詞以上の思いを表現できる絶好のシーンなのに、まったく惜しいことをしている。 

 ⑤中途半端な伏線の引き方は観客に伝わらない。
 10年ぶりに再会した亮介と雪子が別れ際、「送って行くよ」という亮介に対して、雪子が「ここでいい」というのは、実は文化住宅に住んでいることを知られたくないという雪子の思いがある。しかしそのやりとりを思い出の映画館前で撮ったせいで観客は別の思いに駆られ、伏線と気付かず終わっている。また結果的に亮介の不意の訪問を受けてしまった雪子のとまどいがアップもなく、かといってルーズのままの尺も短くうまく伝わっていない。
 またエンディングテーマに使ったチューリップの「青春の影」(選曲センスはいいねえ)も、劇中高校生に弾かせているにもかかわらずそれが効いていないのは勿体無い。別の伏線の引き方をすればこの曲がエンディングで流れた瞬間、泣けたはず。

 
⑥恋愛ドラマの台詞割り。相手の言葉を待っているのは男か女か?
 ラストシーンで亮介と雪子が歩いている。
 2人の恋の行方はハッピーエンド以外にあり得ない状況の中、観客が期待しているのはイキな台詞と終わり方だ。
 東京で獣医をしている亮介と、田舎の役場に勤める雪子の場合、腹を括らなきゃいけないのは確実に亮介の方で雪子じゃない。しかも雪子はバツイチという設定なのだから、観客はどうしたって「妻夫木クンはなんて言ってくれるのかしら…???(ワクワク)」と思って観ている。なのに腹を括るのは誰も期待していない雪子のほうで、しかもその台詞が少々お粗末。
 男の客は「ここで決めてやるぜ!」と思って観ているだろうし、女性客は「ここで口説いて!」と思って観ているのだ。その裏に入っちゃうと最悪な結果になる、という例です。
 
 
⑦観客が期待しているものは何か?
 犬が主役の映画であると思って観た人からすれば、「なんだよ犬の出番が少ないじゃん」ってことになると思います。
 またそれ以上に余計な期待をさせるカットは入れるべきでないということも学習しました。
 具体的にはファーストシーンに出て来る子犬時代のクロ。
 犬はなんたって子供の頃が一番カワイイ。その子犬の姿を冒頭見せておきながら、その時間は極わずか。「たったそれだけかよ!」と思った人は多かったはず。
 また校長先生の弔辞の中にあったエピソード(誰もいない学校に1人でいて、朝になると皆を迎えるのがクロの役目…の箇所)は、実際の映像として見せるべき、それを見せるための映画じゃないか!と思った人もいたでしょうね。

 …というわけで、僕にとってはとてもお勉強になったいい映画でした。

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  • 発売日: 2004/02/06
  • メディア: DVD

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コメント 7

まるこ

いつもコメントありがとうございます。
そして、この映画。
実はうちの父親の母校(松本深志高校)の話だったりするもんで。
思わず、コメント残さずにいられなくなり。
まあ、父のおかげで、この映画、試写会で観れたのですが・・・・・・。
観終わった後、同じようなツッコミをしてましたね。
時間が足りないだけなのか、それとも脚本能力が今ひとつなのか。
お金を出して観に行くような映画ではなかった、と当時はそう結論付けてました。(1800円は出したくないです。1000円ならいいですけど。)
監督の松岡さんって、(勘違いしてたらすみません)『きらきらひかる』(薬師丸ひろこ、豊川悦司、筒井道隆主演)の監督もしていたような。
その映画は好きだったんですけど、今回のコレは、あんまり好きになれませんでした。結構、脇役とか豪華なんですけどね。
個人的に、管理人役の井川比佐志(って、字が間違ってるかもしれませんが)さんの演技が好きでした。
by まるこ (2005-04-27 16:42) 

ken

いだえりさん、こんにちは。ナイスありがとうございます。
お父様の母校でしたか。
もしかしてホンモノのクロをご覧になっているのかも知れませんね。
そういえばこの映画の中で、ホンモノのクロの写真があってもいいなあと
いま思いました。
井川比佐志さんはとても良かったと僕も思います。
by ken (2005-04-27 17:51) 

youko

私は、妻夫木さんたちの恋愛はいらないって思ったんです。
クロと人間のかかわりだけでいいのじゃないかって。犬を擬人化した話は好きではないのですが、犬の出てくる話は好きなので、犬以外の話はいらないって思ってしまいます。
最後の「青春の影」は、二人のことはどうでもよくても曲で感動しました。
by youko (2005-04-27 18:14) 

ken

なるほど、そんな意見もありますよね。ふむふむ。
「青春の影」は曲を聴いているだけで、自分なりの映像が浮かぶので
個人的にはかなりヤバい曲です(笑)。
by ken (2005-04-27 18:37) 

milva

こんばんは。
観ようと思っていたのですが、ネタバレを読んでしまいました!しまった!
本当に詳しく書いてあるので動揺しましたが、結局一気に読んでしまいました。
そういうお話だったんですね。。。
という訳で、別のビデオを借りる事にします。
by milva (2005-04-27 19:10) 

ken

Milvaさん、ごめんなさい。
「そういう話」だと思って見てみるわけにはいきませんか?
ダメですよね? 本当にすいませんでした。
by ken (2005-04-27 19:20) 

milva

とんでもないです!
そんな恐縮されるとこちらも恐縮してしまいます。
ネタバレなのに見た方が悪いんですから。。。
by milva (2005-04-27 20:13) 

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