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二重スパイ [2004年 レビュー]

二重スパイ」(2003年・韓国) 製作・主演:ハン・ソッキュ 監督:キム・ヒョンジョン

 「八月のクリスマス」「シュリ」など主演作がことごとくヒットするため韓国では“興行の保証手形”の異名を持ち、さらに“忠武路(韓国映画の中心地)のあらゆる脚本はハン・ソッキュを通過する”と言われるほどのトップスターが100本以上の脚本を読み、3年ぶりに選んだ作品がこの「二重スパイ」だ。
 きっと韓国でも多くのファンがこの作品を待ち望んでいたのだろう。本国では2003年1月23日に公開され、オープニング・ウィークエンド2日間で「シュリ」の16万人を大きく上回る30万人を動員。このまま行けば興行収入の記録を塗り替えるかも知れない!…と思った矢先、客足はどんどん鈍り、なんと2週間後にはまさかの打ち切り…。
 やがてこの作品は「2週スパイ」と揶揄されることになる。
 
 僕はこの映画を観るスタンスとして「なぜ2週で打ち切りになったか」という野暮ったいことは考えないことにした。
 この作品のキャッチコピー「もう北へも南へも帰れない」は、八方塞の感じが見事に出ていてすごく気に入ったコピーだったし、昔の僕の彼女が「どんなにつまんない映画も沢山の人が頑張って作ったんだから拍手してあげようよ」と言っていたのも思い出した。
 そういうわけで僕は出来る限りポジティブに観ようと努力したんだけど、20分もしないうちに「こういうところがダメだったのかなぁ」と考えてしまっていた。
 ストーリーは悪くないと思う。脚本は直しが必要だけど70点くらいはあげていい。では何がダメかと言うと「時代設定」と「劇中音楽」と「演出」だと思う。
 
 南北分断をモチーフにしてヒットした「シュリ」と「JSA」はいずれも「今」の設定だった。しかしこの「二重スパイ」は1980年からスタートする物語である。
 韓国はオリンピック前後で大きく様変わりをした。一番大きく変化したのは民主化の実現とともに国際社会の仲間入りを果たしたという国民の意識だ。
 それからの急速な(かつての日本とも似た)発展は説明するまでもない。そして韓国民は今もあらゆる向上を図ろうと猛烈なエネルギーを発している。つまり1980年代は彼等にとって「いま振り返る必要の無い時代」なんだと思う。そんなことより「今」こそが大事なのだ。
 かつて吉田拓郎の歌で「古い船をいま動かせるのは古い水夫じゃないだろう」という歌があった。古い船(日本)を動かすのは古い水夫(老人)じゃないだろう(若者よ奮起しろ!)って歌だ。
 もしかしたら「古い話をほじくり返す映画にハン・ソッキュが出なくてもいいだろう!」って観客は思ったのかも知れないね。
 
 話が長くなりそうだ。
 「劇中音楽」を悪く言う理由は感情をリードしてくれないことに不満を感じたからだ。これは「演出」にも繋がることなのでまとめて話してしまうと、この手の作品は「ドキドキハラハラ」がなんと言っても大事な要素である(なにも「007」のようにショーアップしろと言っているわけじゃない)。登場人物たちに感情移入できない限りドラマは面白くないわけだから、観客が「乗り損ねる」とそれはもう完璧アウトなわけです。
 「自分が二重スパイであることがバレたかもしれない」とハン・ソッキュが思ったなら、観客も「ああ、それはヤバイ」と思えなければアウト。
 「祖国(北朝鮮)のために南で働くことが私の使命。でも彼のことが好き」とコ・ソヨンの気持ちが揺れたら、「うわあ、私ならどうしよう!」と葛藤する女性の客がいなければこれまた映画としてはアウトなんです。
 その演出がまったくなってない。つたない演出を補う(ホントはさらに効果を上げる)ための音楽もヘタレで相乗効果ゼロ。
 
 「スパイ・ゲーム」のときにも書こうと思ったけど、「ヒットしないのはそれなりの理由がある」んですね。
 もちろんそれが事前に判れば誰も苦労はしないんだけど、僕もそれの繰り返し(笑)。
 とりあえず、頑張ったスタッフとキャストには「拍手」。ダメな映画も研究材料としては有効である、ということが今回最大の勉強になりました。

二重スパイ

二重スパイ

  • 出版社/メーカー: 日活
  • 発売日: 2004/01/16
  • メディア: DVD

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