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149 サラキ岬=上磯郡木古内町亀川(北海道)咸臨丸の眠る岬は車窓からよく見える看板が… [岬めぐり]

 船では船長の責任も重いが、乗組員の絆も固いらしい。ほかに頼るものとてない大海原に浮かぶ、小さな船の中に生きていれば、運命共同体の一員としての意識も自覚も、自然に養われわかるものなのだろう。それは、ジャック・スパローとその手下の時代から、変わらないのだろう。わかりやすくてむだのない上下関係と、的確な指示命令と規律のうえで正確に運航される船の乗員が、独自のプライドを持つに至るのは、また海軍さんがスマートだというのとも、関係があると思われる。
 飛行機以前の船は、最新のテクノロジーを載せた文明と技術力の象徴でもあり、武力の誇示でもあったわけで、ペリーの恫喝的砲艦外交がみごとに効を奏したのは、当時の日本人が外への耳目をふさがれていたため、その効果があまりにも劇的であったということなのだろう。
 このペリー・ショックで、幕府は大慌てて艦船をヨーロッパから買い入れて、急ごしらえの海軍をつくる。その根拠地となった築地には、勝海舟などが帆船の操艦訓練を行なう操練所があった。でんでんむしの生息地はこの近くで、よく散歩や食事に行くときに勝鬨橋を渡っているが、ときどきはそこにたたずんで、咸臨丸や開陽丸などの幕府の軍艦がここに錨を降ろしていたのだろうなあ、と思うことがある。

 JR江差線が、江差に向かって海峡線と分かれるところが木古内で、この町の函館寄り、「かまや駅」「いずみさわ駅」との中間の松前街道に、こんもりとゆるゆる出っ張ったところがサラキ岬である。岬といっても、山も丘のようなものもない、ただのっぺらぼうな草地だけなので、車窓からただぼんやり見ていただけではよくわからない。
 ところが、ここには大きな長い看板が道沿いに線路のほうに向けて立っており、この看板だけは車窓からでもわかるようになっている。それもこれも、咸臨丸がこの沖に沈んで眠っているからなのだ。その看板には「咸臨丸の眠るサラキ岬」とある。

 どうやら、咸臨丸乗組員の子孫たちでつくる会というものがあって、その会の動きと町おこしの材料を探していた木古内町の思惑が一致して、この看板を立て、町も周辺をチューリップ公園にして売り出そう、ということになったらしいと推測できる。

 太平洋戦争中は軍艦だけでなく、多くの商船など民間の船も海の藻くずと消えた。だが、沈みさえしなければ、船というものは、シロウトが考えている以上につぶしが利く。スクラップになるまでに何度も化粧直しして再就職が可能なのである。
 日米和親条約の使節団を乗せて太平洋を渡った輝かしいキャリアを持つ咸臨丸も、榎本武揚らの函館戦争でここまできて、戦役後は明治新政府のために北海道開拓の運搬船として働いていたのだが、やはり洞爺丸と同じように嵐にあって、ここで沈没したのだ。
 それから136年も経つのに、その“乗組員の子孫の会”があって活動しているというのが、やはり船ならでは、のことなのだろう。

▼国土地理院 「地理院地図」
41度42分3.38秒 140度31分30.10秒
149さらきみさき-49.jpg
dendenmushi.gif北海道地方(2007/06/25 訪問)

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タグ:北海道
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コメント 2

knaito57

そうなんですか、咸臨丸がそこにねえ。たしかに船は長らく武力の象徴であり、徳川幕府が中古船をありがたく購入した時代がありましたね。私は飛行機や船には縁も関心も薄いのですが、「船はつぶしが利く」という考察にナルホドと思いました。飛行機よりもドラマに富んでいるのは歴史や構造の差異もあるでしょうが、「化粧直して再就職」してさらなる物語を展開する……などと、そっちのほうに胸躍るのは隠居ライフのせいでしょうか。
by knaito57 (2007-08-28 08:36) 

dendenmushi

@意外というか、あまり知られていないと思いますね。実はわたしも、ここへくるまで、まったく知らなかったのです。看板を発見して「へえ〜、そうだったのかあ」と、初めてわかった次第です。
なんどか書いていますが、わたしは船でちょっと沿岸を航海した(というのはおおげさですが)経験があって、船にも飛行機とはまた違う興味を持ってはいますが…。
イラストレーターの柳原良平が船マニアだったので、いろんな船の本を出しています。「再就職云々」のことは、そんな本を見ていくつもの事例がふと頭に浮かんできたのです。
by dendenmushi (2007-08-29 07:45) 

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