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119 波勝崎=賀茂郡南伊豆町伊浜(静岡県)サルも去らぬも車に乗らない不自由 [岬めぐり]

 「お客さんはどちらまで?」
 雲見でこどもたちが降りて、急に静かになった車内で、運転手さんが聞いてきた。ほかに客がいないのだから、どこで降りるのかをあらかじめ聞いておけば、運転するほうにもなんらかのつもりもあるのだろう。
 「波勝崎まで行きたいんですが、このバスは入口までしか行かないんですよね」
 実は、Mapionの地図には波勝崎の岬に近いところまでバスが入るような表記がしてあったので、あるいは?と思ったのだが、やはりそううまくは問屋がおろさない。

 というのも、この136号線の「波勝崎口」のバス停から岬のオサルさんがいるところまでは、2.5キロくらいはありそうな深い山中の道で、曲がりくねりアップダウンしながら全体としてはかなり下っていく。ということは、帰りは登りである。歩くことを苦にするわけでもないのだが、日も暮れかけて、峰には雲が下りてきて今にも降り出しそうな空模様で、誰もひとっ子ひとりいないような山道を、好んで歩きたいわけでもなかったので、そんな質問になったのだが、案の定やはり「波勝崎口」までしか行かないという。
 それにしても、雲見から「波勝崎口」で降りるまでの間の道は、うっそうたる緑の中に白い道が一本だけあるという、なかなかの風情であった。伊豆もここらは深山幽谷の趣がある。

 バスを降りて、オサルさんに会いに行く道は、きれいな舗装がしてある自動車道である。一本道なので、ここを通る車も人もすべて目的地は同じはずである。
 数台の車がどんどん追い越して行くが、車を停めて乗せてやろうという人は誰もいない。それも、期待してあてにしているわけではないが、こういうシチュエーションであれば、なんとなくそんなことがあってもおかしくはないのだが、という思いもある。
 よくアメリカ映画などで見る「ヒッチハイク」という慣習は、日本では無縁なことなのだろう。あれは、国土があまりにも広大なため、一般公共交通機関が行き届くにも限界がある、という事情からのものだろうと考えられる。
 狭い日本でも、昔は「旅は道連れ世は情け」という言葉もあったのだが、いまやそれも死語である。それどころか、人を見たらアブナイと思わなければ、いつなんどきどんなトラブルや事件に巻き込まれるかもしれないのだ。
 いったい日本はいつからこういう国になったのだろうか。
 でんでんむしが得意とする揣摩憶測では、マイカーが普及し、誰も彼もが自分の車を持ってころころと運転するようになったことと、自分さえよければ他人のことや社会のことなど知ったこっちゃないという、履き違えた“個人主義”が蔓延する世の中になったこととは、密接に結びついていると思う。
 “走る個室・密室”としてのマイカーの性格は、決して社会的な存在とはいえない。わざわざガラスに黒い膜を貼ったり、カーステレオの大音量をあたりにまき散らしながら走る車をみていると、そう思う。

 そんなことを考えながら、延々と歩いて下ってきて、やっと野生のサルがいるというあたりが見えてきた。波勝崎は二つの大きな峰をもち、人と野生のオサルさんの接点は、その間の海岸に設けられている。管理棟のある場所にはやたらに広い駐車場があり、なぜかはしらないが演歌が周辺の山に響き渡っている。
 入場料500円を払うと、おじさんがマイクロバスに乗れという。ここから海岸までは、車で往来することになっているようだ。海岸にも休憩所兼売店兼管理事務所があって、窓にはすべて柵が施してあり、その前で「野生の」サル達が撒いてもらった餌を拾っている。なんのことはない、「野生」というのは人間のほうが檻に入っているだけのことだ。

 海まで降りてしまうと、これからまた山を登りながら子浦の宿まで歩いて行くのは大変な気がしてきた。なにしろ客はひとりだけ、おじさん達もこれが今日最後の客だから、歩いてきたのか、今夜はどこへ泊まるのか、それなら宿に電話して迎えに来てもらったほうがいいと、いろいろ心配してくれる。
 それですっかり弱気になって、電話をして途中まででも、迎えに来てもらうことにして、またゆっくりと来た道を登り始めた。しばらく歩いたところで宿の主人が運転する迎えの4WDと遭遇した。それは、行程から計算して、このあたりで日が暮れるだろうと、インターネットで見つけたペンションなのだ。
 伊浜から子浦方面にかけての、南伊豆の海岸が展望できる場所があって、“喚声台”という名もついている。林武画伯が、ここからの眺めを大変気に入っていた、というのだ。今夜の宿は、ここからも見える。

▼国土地理院 「地理院地図」
34度41分26.87秒 138度44分24.49秒
119はがちさき-19.jpg
dendenmushi.gif東海地方(2007/06/07 訪問)

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タグ:静岡県
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knaito57

 うん。灰皿滓・弁当くずからテレビ・死体までの不法投棄、農作物・金塊泥棒など嘆かわしくろくでもない犯行には決まってクルマが介在しています。テレビ、ケータイ、インターネットなども不品行と犯罪を助長するツールだと苦々しく思う。ま、山賊やヒッチハイカー狙いの追い剥ぎにあうこともなく、ご無事でなによりでした。
 いま読んでいる『よろず覚え帖』(子母澤寛)という大層面白い本に次のような記事があります。
──伊豆は昔から宮大工、左官、彫刻師などが多くいた。安政の頃、日本橋茅場町薬師堂の拝柱に竜を塗り上げて江戸の大名物にした漆喰絵の入江長八も奥伊豆松崎の出だが、甲州八代郡の神座山、こんもりと深く巨木が茂った高い山、これを祀った麓の檜峰神社の彫刻一切をやったのがやっぱりこの松崎村江奈の者で小沢一仙斎という。
 頼朝以来、伊豆はさまざまな歴史に絡んで登場するように、江戸との往来が密であったことに驚きます。
by knaito57 (2007-06-21 10:50) 

dendenmushi

@ハッハッハ…。そういう話になると、このでんでんむしの「ひきこもりブログ」のほとんど唯一といってもいいかもしれない、常連のコメンテーターであるknaito57さんとは、よく意見が合いますなあ。
 テレビやインターネットまで「不品行と犯罪を助長するツール」とまでいうのは、ちょっと言い過ぎのような気もしますが…。
 でもね、資本主義の社会では(最も、最近の中国のように共産主義でもまったくおんなじらしいが)、便利だから欲望を満足させるから、世のなかが求めているからということで、大量に売り出された新商品が、社会のルールや人間のマナーやエチケットを、大胆に破壊してきた、というのは厳然たる事実でありますなあ。
 ケータイについては、近年それが顕著なもののひとつでしょう。また、昨日の東京高裁の和解勧告にみるように、自動車のもたらしたマイナスのひとつは、改めてクローズアップされてきていますけどね。
 裁判長は、メーカーや国や東京都だけでなく、車の利益を受けた国民の責任でもある、ともいっています。
 はたして、その趣旨がクルマユーザーに、どのように届くのでしょうか。
by dendenmushi (2007-06-23 06:51) 

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