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本が崩れる [散読記]

ドドッと、本の崩れる音がする。首をすくめると、またドドッと崩れる音。一ヶ所が崩れると、あちこち連鎖反応してぶつかり合い、積んである本が四散する。と、またドドッ。耳を塞ぎたくなる。あいつら、俺をあざ笑っているな、と思う。(『随筆 本が崩れる』12ページ)

随筆 本が崩れる

随筆 本が崩れる

  • 作者: 草森 紳一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/10/20
  • メディア: 新書

風呂に入ろうとして、浴室のドア前の本の山にうっかり体をぶつけてしまったことから、とんでもない悲劇が著者を襲う。
高く積みあげた本の山が、次々と崖崩れを起こしてドアをふさぎ、著者は風呂場に監禁されてしまうのだ。

このアクシデントの一部始終だけで充分おもしろいんだけれど、著者の語り口に独特の味わいがあり、とんだ醜態をどこか楽しんでいるような様子も伝わってくる。
大ピンチの中で悠々と風呂に浸かりつつ、次々と浮かんでくる追想や妄想。ときに漢詩や日本史の豊かな教養が見え隠れしながら、飄々としていて嫌味がない。話題が過去と現在を行き来する、その浮遊感も心地いい。

本がすべてに優先するという著者の日常は、単なる本好きとはケタが違う。
部屋には冷蔵庫もテレビもなく、本たちを優遇するために机と椅子まで捨ててしまった。コタツを兼ねた麻雀卓が机代わり。
本棚の前に床積みにされた本の山々は、たがいを横からささえ合いながら、著者の身長174センチの高さ(!)まで見事に積みあがっている。

 

 

うーん、圧巻であります。これでも本人的にはちゃんと分類されているらしい。
とめどなく増殖する本に、部屋も人生も占拠されているかのようだ。

***

草森紳一氏は、ファッション誌の編集者を経て作家・評論家(「物書き」を自称)となり、美術、デザインから文学、伝記、マンガまで、あらゆるジャンルの本を執筆する「雑文の大家」。
といっても、この『本が崩れる』を人に勧められて読むまでは、食わず嫌いというのか、一冊も読んだことがなかった。
今回の本が予想以上におもしろかったので、ほかの本も物色していたら、こんなのを発見。

歳三の写真

歳三の写真

  • 作者: 草森 紳一
  • 出版社/メーカー: 新人物往来社
  • 発売日: 2004/02
  • メディア: 単行本


函館を舞台に、土方歳三とその写真を撮った写真家との交流を描いた小説の復刊本らしい。
(ほかに新選組についての史論・随筆も収録。)
ネットを検索してみると、「熊に追いかけられる土方さんが好き!」との読者コメントがあちこちに。
クマ~?? がぜん欲しくなってしまった(笑)。
なかなか評判よさそうなんだけれど、約3,000円というのがちょっと痛い。
どこかで文庫化してくれないかなあ。


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コメント 18

たかち

この書庫で読書するのって緊張感ありますよね(汗)
本が崩れて圧迫死しそうで怖い・・・
「歳三の写真」は是非読みたいです!!でも高い・・・
図書館にあるかな??
by たかち (2006-07-04 13:52) 

shikayu

本が崩れる、というおよそ本の題名らしからぬ”題名”に、ものすごく興味をそそられます。で、どうなったの?!どうするの?!みたいな・・・(笑)
ちょっと探してこようかな・・・それにしてもチヨロギさんの解説、やっぱりプロだす(笑)
by shikayu (2006-07-04 16:15) 

こ、この掲載写真は迫力ですね。床が抜けないのかな?
私は文中にあるような「単なる本好き」ですので、羨ましさ半分、「ちょっとここまでは……」という気持ちが半分です。本に埋もれる生活をしてみたい気も少しありますが(苦笑)
今度、草森 紳一さんの本を読んでみたいと思います。
by (2006-07-04 16:25) 

鳥谷

本が崩れる…人ごとではない鳥谷です。ここまでの書庫はありませんが、ないぶんタチが悪いです。本棚だらけ・床置きだらけ。父親と自分に本の収集癖がある上に、資料や専門書が必要な仕事&学生なもので…。
記事冒頭の引用文の語り口がとてもツボをつかれそうなので、この本を探してみようと思います。そしてチヨロギさんの解説が更に興味に拍車をかけました(>_<)
ところで、これで本人的には分類されているらしい写真。…分類されているんですよ…本人にはわかるんです。…と、言える自分が少し…いや大分嫌です(^^;)
by 鳥谷 (2006-07-04 20:02) 

面白いタイトルの本ですね~。本を「あいつら」と言うのも笑えます。
私も、たまに本を重ねておく事が有りますが、ちゃんと見えるんです。
何処に何があるか、わかるように散らかす方です(あぁ、O型!(笑)。
ところが、うちの母は片付けて、閉まっておき後で何処にあるか分からなくなるんです。それも、しょっちゅうなので困りものです。^_^;
私の場合、読み終わった本は本棚に入れておきますが、読みかけの本が重なってしまうんですよね。読みかけを増やさなければ綺麗かも(笑
by (2006-07-04 23:57) 

チヨロギ

◇たかちさん◇
この草森さん、就寝中に地震がきて、顔面を襲ってきた本を「手首の返し技」で回避したものの、首から下が本で埋まって動けなくなったらしいです(笑)
それぐらい決死の覚悟がないとこの部屋には住めません!!
「歳三の写真」、図書館という手もありましたね。文庫だったら即買ってるんだけどなー。
by チヨロギ (2006-07-05 01:49) 

チヨロギ

◇shikayuさん◇
いかにして脱出したか? それはですね・・・おっと! 続きは本をご覧ください(笑)
このほか、旅の話や少年時代の野球の話、タバコをめぐるエッセイなども収録されているのですが、なかなか粋な頑固じいさん(68歳)ですよ~(^.^)
新書でわりと見つけやすいと思いますので、よろしかったら。
by チヨロギ (2006-07-05 01:59) 

チヨロギ

◇catoさん◇
はじめまして! ご訪問&nice!ありがとうございます。
私も「単なる本好き」でありまして、月に最低150冊(!)の本を買うという草森さんの読書三昧に憧れもするのですが、一方で浮世の楽しみも捨てきれない凡人です・・・。
草森さんの文章は味があります。あと、エッセイに関連して載っている旅の写真もなかなかいいんですよ~。なので、ぜひ。
by チヨロギ (2006-07-05 02:02) 

チヨロギ

◇鳥谷さん◇
草森さんの家は、狭い2LDKのマンションの全部屋(浴室を除く)に4万冊の蔵書があふれ返っていて、部屋の中を歩くのにも難儀しているそうです。つまりこの写真、「書庫」ではないのです(苦笑)
鳥谷さんのおうちもスゴイことになってますね!
本書によると、物書きと学者は「読書人」と違って、資料調べのためにねずみ算式に本が増殖するそうですが、もしかして鳥谷さんのお父さまもそういう関係のお仕事なのかしら?
同じ悲劇に見舞われることのないよう、無事をお祈りしております^^;
by チヨロギ (2006-07-05 02:04) 

チヨロギ

◇saraさん◇
私も積ん読派で、とっ散らかっているわりには本の在り処を把握しているほうですね。そして母は、saraさんのお母さまと一緒! ついでに事務所のボスも同じで、いつも「オレは人生の何分の一かを探し物に費やしている」と嘆いています(苦笑)
読みかけの本はたしかに、片づけられなくて困りますよね。なるべく読了してから次の本に移りたいのですが、なかなか・・・。
うちでは最近、あまりに本の置き場所がないので、全集や単行本をごっそり捨てたんですけど、ちっとも本棚がすっきりしません。なぜ??
by チヨロギ (2006-07-05 02:07) 

kakora

昼間に 伺います ^^;
by kakora (2006-07-06 02:13) 

チヨロギ

◇はい、お待ちしておりま~す(^.^)
by チヨロギ (2006-07-06 10:49) 

柴犬陸

草森さんですね、お名前は聞いたことありますが、私もなんとなく避けてきました。苦手な部類の人だと思って。
でも、チヨロギさんの記事を読んで。。本のこと、本当のことなんですね。
フィクションかと思っていました。
そういえば、土方歳三について、週刊朝日に、山本耕史さんのインタビューが載っていましたよ。読まれましたか?
by 柴犬陸 (2006-07-08 01:02) 

チヨロギ

◇柴犬陸さん◇
やはり、ちょっと取っつきにくい印象がありますよね。
本は本当に、しかも頻繁に崩れているようです(笑)
あまりの惨状に泥棒さえ退散するに違いないと、玄関の施錠もしないんだそうです。いろんな意味で、常識を激しく逸脱しています。
えっ、週刊朝日に山本さんが? 知りませんでした。司馬さん関係の記事でしょうか?
もう売り切れかもしれませんが、探してみます。情報ありがとうございました!
by チヨロギ (2006-07-08 14:51) 

kakora

先日は 夜中だったので実はこの写真を見ただけで@_@だったのです
なるほど とても面白そうな本ですね
とんだ醜態をどこか楽しんでいるような様子。。。とても気になる本です
図書館にあるかしら いってみよう~と思います
by kakora (2006-07-08 22:16) 

チヨロギ

◇kakoraさん◇
この本の山を見れば、ゲゲッと思いますよね~^_^;
監禁話はもちろん面白いですが、秋田・男鹿半島の旅のエッセイもあって、こちらも相当無茶しててよいです(笑)
なんとか図書館で見つかるといいですね(^.^)
by チヨロギ (2006-07-09 02:51) 

柴壱

面白そうな本なので、私も本屋で探してみました…が見つけられず、
手ぶらで帰るのも癪なので、替わりの本を買ってしまいました。
こうして、我が家の本の山も、崩れる寸前になっております。(^_^;)
井上ひさしさんは、床が抜けたそうです。『本の運命』という本に書いてありますが。
その遠い遠い延長線上に今の私がいるのです…というのはちょっと言い過ぎですけど。
by 柴壱 (2006-07-09 16:23) 

チヨロギ

◇柴壱さん◇
『本の運命』は未読なのですが、蔵書の重みで床が抜けたという話は、そういえば聞いたことがあります。考えられないようなことが実際には起きているんですね。草森紳一さんはだいじょうぶなのかしら?
ところで、柴壱さんも積ん読派なのですね。安心しました^^;
地震が来ると危ないので、くれぐれも寝室の頭のそばには積まないよう、お気をつけください! と言いつつ、私の頭の横にもぎゅうぎゅうの本棚が・・・。
by チヨロギ (2006-07-10 01:09) 

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