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下落合の絵描きを集めた4人展。 [気になる下落合]

 曾宮一念や金山平三、あるいは安井曾太郎の書籍や年譜を読んでいると、必ず目にするのが「湶晨(せんしん)会」という絵画集団だ。ちょうど、太平洋戦争が始まる1941年(昭和16)に発足し、その後、戦争が激しくなると数年で活動を停止しているようだ。どのような集まりだったのか調べもせず、わからずにいたのだけれど、そのそうそうたるメンバーから大規模な団体を想像していた。ところが、これがたった4人のメンバーしかいなかったのだ。
 その4人の顔ぶれとは、曾宮一念Click!金山平三Click!牧野虎雄Click!安井曾太郎Click!。この顔ぶれを見れば、すぐに下落合に住んでいたお馴染みの画家たちばかり・・・ということに気づく。この時期、長崎町1721番地にいた牧野虎雄は下落合604番地、ちょうど曾宮一念邸の並び、浅川邸(当時は土井邸)の東隣りへと転居していた。先日、ある方から日本橋高島屋で開催された、第1回「湶晨会展観」(1941年・昭和16)の超貴重な図録を譲っていただいた。それを読んだら、すぐに納得。まさに、ご近所の画家たちへ気軽に声をかけて誕生した「湶晨会」だったのだ。そして、「湶晨会」のプロデューサーも下落合に住んでいた。佐伯祐三の美術学校時代の教師であり、「森たさんのトナリ」Click!でも登場している、下落合630番地の森田亀之助Click!だ。
 その経緯を、「湶晨会展観」の図録に掲載された、森田の序文から引用してみよう。
  
 嘗つて高島屋美術部の人達と会つた時、商売気抜きで品の佳い洋風画家展観をやつてみたいといふやうな話が出て、それに私も賛成した結果、遂、その産婆役を引受けてしまつた。本会に出品する画家達は、皆、下落合に居住し、私の宅から遠くないといふ地理的条件と、勿論旧知の人々であるといふことが、私をして此役廻りを引受けさした主な原因である。
 此等画家達は、皆、洋風画壇の重鎮で、それぞれ独自の画境を持つてゐることは、更めて説明する迄もない。要するに顔振れだけ示せば、何等宣伝がましいことをする必要の無いのが、本会の特色で、またそんなことは嫌いな人ばかりである。  (森田亀之助「湶晨会に就いて」より)
  
 
 高踏的な4人の画家を集めた展覧会らしく、戦争のキナ臭さが濃厚な世相にもかかわらず、さすがそれにはおもねらない美しい作品を寄せている。自然の風景画や、果物や花の静物画がほとんどの中、なぜか1点だけ『いか』という作品が目を惹く。(冒頭写真) 『白ゆり』とか『梨』、『風景花葵』などの作品に混じって、いきなり『いか』なのだ。誰の作品かと思ったら、「わしじゃ! いかじゃ、いかんか?」と、やっぱり金山じいちゃんClick!の出品作だった。(^^; 「湶晨会」の第1回展に、安井曾太郎は制作が遅れて作品を展示することができなかった。安井が参加するのは、1942年(昭和17)の第2回展からになる。
 第1回展の作品名を掲載順に並べた、巻末の「出品目録」をしばらく眺めていたら、妙なことに気がついた。そのリストを、記載されている右から左へを反転し、そのまま左から右へと並べ替えたのが以下の一覧表だ。

 
 当時、ハワイの真珠湾まで進出した米海軍の太平洋艦隊は、日本への直接的な脅威として、軍部の意向をそのまま反映したマスコミ報道などで盛んに騒がれていた。「湶晨会」の第1回展が日本橋高島屋で開かれた1941年(昭和16)の11月ごろ、それは「喉元の匕首」とも「東からの脅威」「千万ドル拳骨」とも言われていた。第1回展(11月5日~9日)が開かれたのは、ちょうど日本海軍の機動部隊が真珠湾を奇襲するため、瀬戸内海の柱島泊地をあとにし択捉島の単冠(ヒトカップ)湾へと集結する、わずか10日ほど前のことだ。米国から日本に潜入していたスパイが、瀬戸内海から機動部隊が消えた・・・と打電する半月ほど前のこと。
 「はばいしふいりえ、やるかくしゆう(ハワイ州入江、やるか空襲)」・・・。高踏的かつ芸術至上主義的で、ことさら時流とはあまりかかわらないようにしていたように見える画家たちなので、考えすぎのような気もするのだけれど、ちょっと気になるタイトルコンテンツの並びではある。

■写真上:1941年(昭和16)に湶晨会用に描かれた、金山平三の『いか』。
■写真中は牧野虎雄『雨後の夕映え』で、は曾宮一念『入江』。ともに1941年(昭和16)作。
■写真下は戦時下を反映してかシンプルな「湶晨会展観/第一回」図録で、は作品目録。


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ChinchikoPapa

いつもありがとうございます、takagakiさん。<(__)>
by ChinchikoPapa (2007-07-08 00:33) 

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