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いけてる問診(4) [救急医療]

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今回は、いけてる問診シリーズ第4弾を書いてみました。

短時間勝負が原則である時間外の内科診療において、問診(病歴聴取)という診療行為は、単に患者の訴えをそのまま、カルテに転記すればいいというわけではない。(ただし、患者の訴えをそのまま記載したほうが有用である診療の場も存在する:ここでは割愛するが・・・・)。 では、そのコツは?

患者の訴え ⇒ 医師の頭で脳内変換 ⇒ 医学的なキーワードとしてカルテに出力

である。

一例を挙げる。ある患者が「めまい」と訴えたとする。
患者の訴え ⇒ 医師の頭で脳内変換    ⇒   vertigo without headache  
(めまい+α)  (めまいの質+αを検証)       (検証結果、カルテ出力の一例)

このように、問診の詳細を逐一カルテに書くのではなく、ある程度、患者からの情報を自分の頭で脳内変換して、カルテに出力するのである。 これは、かなり高度かつ慎重な知的作業である。このようなキーワードを意識しながら、時系列で記載をまとめていけば、短時間で、要領をえた病歴をカルテに記載することができるのである。
表現を変えて言うと、Semantic qualifier(SQ)を意識しましょうということである。

これは、次の2点で重要であると私は考えている。

※緊急性のある病歴はある程度パターンがあるので、それを知っておくことで、緊急性のある病歴を手際よくを引き出すことにつながる。いくつか例を挙げる。

  • SAHを疑うキーワード: 突然で最悪の頭痛
  • ACSを疑うキーワード: 冷や汗と嘔気をともなう持続15分の胸部違和感
  • 外科的急性腹症を疑うキーワード: 突然発症で持続する激しい腹痛
  • 心原性の失神を疑うキーワード: 予兆のない臥位でおきた失神

防衛的な意味合いのカルテ記載につながる。下手に無理して(推定)病名を書いておくと、後だしじゃんけん野郎は、その病名に食いつき、「誤診」と批判しだすおそれがある。キーワードの表現でとどめておけば、そんな輩の批判をあらかじめかわすことができる。この場合は、当然その記載が上記のパターンと逆になっておかねばならない。

  • 帰宅させた頭痛患者の病歴に: not sudden, not worstのキーワードを必ず入れる
  • 帰宅させた胸痛の患者の病歴に:体動時痛(positional pain)のキーワードが入っている
  • 帰宅させた胸痛の患者の病歴に:持続時間数秒のキーワードが入ってきる
  • 帰宅させた腹痛の患者の病歴に:間欠的腹痛と水様性下痢のキーワードが入っている。

さて、前置きが長くなったが、今回は、あるキーワードをネタとしたエントリーとしてみた。

66歳 男性  発熱

特記すべき既往歴なし。2日前からの発熱で来院。39度を越える発熱であったという。咳なし。のど痛軽度あり。呼吸苦なし。頭痛はごく軽度だが、嘔気嘔吐なし。腹痛、下痢なし。飲水、食事は可の状況。来院時バイタル 血圧 130/85 脈 97整 体温 38.2度 呼吸数21回 SpO2(room) 95% 意識 清明。担当したのは、一年次研修医。上記のような問診と、胸部レントゲン、採血、心電図、検尿の検査が施行された。レントゲン、心電図、検尿は特記すべき所見なし。採血では、WBC 12000 CRP 5.0 であった。 身体所見では、neck flextion, jolt accentuationはともにngetive。心雑音、肺雑音認めない。他、特記すべきことなし。

研修医A 「なんちゃって救急医先生、 この人、帰しましょう。元気そうですし・・・・・」
私「 そうやねえ・・・。おい、問診で、○○○○の有無は聞いたか? 」
研修医A 「いえ、それは・・・・。はい・・・、確認してきます」
しばらくして・・・
研修医A 「先生!ありました、ありました!」
私 「ほう、あったか、じゃあ、あの検査追加やな。頼むわ、検査出しておいてくれるか。」

そして、この問診の有所見をもって、患者のdispositonを入院とした。
その最後にだした検査の結果と他の入院後に行った検査などから、入院数日後に、感染性心内膜炎の診断が確定した。先行する抜歯歴の病歴もゲットできたという。(残念ながら、救外では引き出せなかった病歴だ・・・)

続きは後日 ○○○○はちなみに漢字四字です。 (10月9日 記)

(10月10日 追記)

皆様、たくさんのコメントをありがとうございます。すでに、コメントでご指摘いただいていますように、私が伝えたかったキーワードは、悪感戦慄(=shaking chill)でした。

では、続けます。

研修医A 「なんちゃって救急医先生、 この人、帰しましょう。元気そうですし・・・・・」
私「 そうやねえ・・・。おい、問診で、悪寒戦慄の有無は聞いたか? 」
研修医A 「いえ、それは・・・・。はい・・・、確認してきます」
しばらくして・・・
研修医A 「先生!ありました、ありました!」
私 「ほう、あったか、じゃあ、血液培養の検査追加やな。頼むわ、検査出しておいてくれるか。」

というわけでした。 
私は、悪寒戦慄(shaking chill) の重要性を寺沢先生の本で教えてもらいました。
赤本青本とありますが、青本P69の方から引用します。

悪寒の記載は
  1. shaking chill  (悪寒戦慄)・・・歯がガチガチ鳴るくらいの悪寒
  2. chill (悪寒)・・・・毛布あるいは布団を何枚かはおりたくなるくらいの悪寒
  3. chilly sensastion (さむけ)・・・・・セーターをはおりたくなるくらいの悪寒
の3つを区別する癖をつけるべきで、1,2の場合は原則として血液培養を採取すべきとされている。特に、shaking chill (悪感戦慄)の最中に一過性のチアノーゼや意識障害が出現する場合は、必ずといっていいほどその時採取した血液培養が陽性になるように思う。

患者との問診を通して得られた「さむけ」に関する情報を、自分の頭の中で、1,2,3のどれかに脳内変換して、カルテにアウトプットするかという作業を行うわけです。その結果、カルテにshaking chill と記載したならば血液培養を行い入院も考慮する。 私は、そんな思考回路で日々、仕事をしています。患者が訴える「さむけ」をどのキーワードに当てはめるか? 重要な医師としての判断ですね。 ときに、どのキーワードを採用するか、判断に苦しむ場合もあります。それが難しさでもあり、診察の面白さでもありますが・・・

寺沢先生は、救急総合診療の第一人者です。 昔、勤務していた病院で、講演に来てくださったことがあり、そのときに、私の青本にサインをいただきました。これです。

まとめます。

本日の教訓
患者のいう「さむけ」が、"shaking chill","chill","chilly sens."のいずれに該当するかを考えよう。

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コメント 9

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moto

うーん、「悪寒戦慄」じゃちょっと弱いかなあ・・熱型に関係しそうな用語のような気がしますが、弛張熱だと3文字だし、septic fever=敗血症熱だと診断名がかるし・・検査は血液培養かなあ?動脈血培は最近やらないんですよね?
by moto (2007-10-09 14:44) 

僻地外科医

う~ん・・・。既往でリウマチ熱・・・とか思ったけど、既往歴は特記無しですか。

体重減少とか?
by 僻地外科医 (2007-10-09 16:47) 

hiropon

難しいですねぇ~。体重減少・食欲不振・薬物中毒・皮膚所見・末梢所見(peripheral sign)・・・特異性の高い問診なんてIEであるんですか??
 IEで末梢所見呈している、特にOsler's nodesなんて個人的には見たことないですねー。
 IEは基本的には除外診断であり、やはりFUOの鑑別で血培陽性→TEE(TTEだけしたりもする)で診断がつくというのが普通であり、失敗例はその過程で適当に抗生物質を入れて起炎菌が出ない、というパターンではないでしょうか?
もちろん発熱+new valvular lesionあれば疑いますけど。
 特にIEは無熱の人も文献上のdataでは結構いるので採血での炎症↑+new valvular lesionは有意にIEを疑ってTEEをすべきですよね。見え方はまったく違います。感度・特異度的にも是非ともTEEすべきです。

 
by hiropon (2007-10-09 21:07) 

元なんちゃって救急医

>特異性の高い問診なんてIEであるんですか??

すみません、今回の質問は、あんまりいけてないかもしれません。

ただ、特にIEに特異性の高い質問という意味ではありません。

dispositionを決める際には、私個人は、かなり気にしてはますが・・・

今回の事例でIEが見つかったのは、全くの偶然です。
by 元なんちゃって救急医 (2007-10-09 21:13) 

くらいふたーん

いつも勉強させていただいてありがとうございます。

私も「悪寒戦慄」だと思いますが・・・

focusのはっきりしない発熱なら今一度 肺炎 胆嚢炎・胆管炎
腎盂腎炎、IEは今一度念頭において病歴・身体所見を取り直すことにしていますが・・・
歯ががちがちとなるようなふるえがあるときは IEはあるかもといつもドキドキします。
腎盂腎炎が圧倒的に多いとは思いますけどね。
by くらいふたーん (2007-10-09 22:39) 

pulmonary

心雑音 →心エコー 追加 と思ったら、「問診」なんですね。
悪寒戦慄 →血液培養2セット 追加 でしょうか
by pulmonary (2007-10-09 23:09) 

勤務医です。  

悪寒戦慄ですかね。。。

下まで読まずに 現症に 心雑音がないのが まずは気になりましたが、三文字だし、問診項目でもないし。
経験的には 入院して数日後にしか 聴取可能にならなっかたりしますよね。。=これは 自分の耳が悪いだけなのかも知れませんが。

そういえば 中途半端に 抗生剤が処方されても 
結局は 弁の破壊で 急変 と言う事例がありました。
by 勤務医です。   (2007-10-09 23:26) 

hiropon

悪寒戦慄。。。。あんまり重要視してなかったです。でも皆さん同様の意見のようですねー。勉強になります。
 少しだけ異論を挟ませて頂きたいのですが、僕であればこのケースはその問診に関わらず「発熱続くようなら必ず再診して下さい」でいいのでは?と思いました。この根本には「発熱」疾患で死んでしまうものは少なく、死ぬような「感染」(ここは限定します)は逆に絶対に知っておかなければいけないからです。

 例えばSIRSに該当するような場合、つまりsepsis/severe sepsis/septic shockはfocus不明でも即入院適応あるでしょう。occult bacteremiaもありえますし(但しここでも感染のfocusが不明であればseptic shockにでもなっていない限り抗生剤のmenuは決めれません)。
 上に該当しない場合はやはり「発熱」であり抗生剤投与の適応もないはずです。経過観察といっても補液・解熱位の対応ですし。
 咽頭炎・亜急性甲状腺炎・髄膜炎・UTI/PID・肛門周囲膿瘍・肺炎・蜂か織炎・虫垂炎辺りが除外出来たら外来f/uではいかがでしょうか。血液培養も診察した医師がimpressionで出そうと判断したらとるというのでいい気がします。IEは実際の診断はERでの対応のみでは難しいですよね。

実際に発熱・脱水・意識障害で来てUTIsepsisと誤診されたPMRや40℃の高熱のAdult still病などを目にするといわゆる緊急重症感染症(髄膜炎・壊死性筋膜炎・Vbrio vulnificus、etc)以外はFUOに類するもの以外は怖がる必要がないような気がします。
ポイントずれていたらすいません。
by hiropon (2007-10-10 23:00) 

僻地外科医

ああ、そうか。むしろ血培が必要なときは・・・と考えれば分かりやすかったんだ。なるほどです。
by 僻地外科医 (2007-10-10 23:40) 

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