たかが風邪なのに・・・(続編) [救急医療]
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心筋炎は、怖い病気であることは言うまでもない。劇症型ならば、医療者がどんなにがんばっても太刀打ちできるものではないことも事実だ。 しかし、我々医療者は、最善を尽くすという気概をもって診療にあたる必要もあるのだ。報道を批判し、いくら我々ががんばっても無理なんだから、あきらめてくださいよというスタンスを伝えるのみだけでは、医療を受ける側の方々から、我々医療者の信頼は得られないであろう。
そこで、本日の続編では、ありふれた風邪症状から、いかに、危ない状況をピックアップして、心筋炎の早期診断、早期治療につなげるかについて個人的な意見として述べてみたい。 ただ、診療というものは、医師個人の能力だけでなく、その医師が診療している「場」の影響も多大に影響することは、医療者のみならず、医療を受ける側の方にも知っておいてほしいことだ。
ここでは、成人患者を対象として、レントゲン、心電図、採血程度は行える「場」(医療環境)を想定して、以下に述べてみたい。なお、ここでは触れないが、子どもは成人よりいっそう診断が困難であろうということは一言付け加えておきます。
<バイタルサイン>
必ず、確認すること。 すべての患者で、チェックするという習慣を日ごろからつけておくこと。その習慣がついて初めて、異常を見つけることができて、次に、なぜ血圧が低いのか? なぜ脈が速い(遅い)のか? なぜ呼吸数が早いのか? と思考を拡げていくことができる。
心筋炎の早期の状態は、必ずこの網に引っかかってくるであろう・・・・。
私が、現場で、研修医諸君によくかます質問がある。 あきらかな元気そうな患者であることをわかったうえで
「この人のバイタルは?」と質問するのだ。 多くの研修医は、答えられない・・・。それを見ながら
「君は、バイタルを把握せずに、ずっとこの人を診察していたことになるよ。もし、異常があったら見逃しているよ」
と教育的指導を入れる毎日である。
<検査>
風邪症状で、検査を要するときは、肺炎なども鑑別もあり、血液チェックと胸部のレントゲンをとることが多いが、どうせ検査をやるならば、心電図検査は、閾値を下げてどんどんやっておこう。 心電図で思わぬ異常によって、
心筋炎早期の状態を、引っ掛けることができるかもしれない。
<専門家>
循環器領域の先生を上手く利用しよう。 心エコーが有用だ。自分で、アバウトにでもできれば言うことないが、それは、すべての医師に求められることではないので、心筋炎はどうだろうか?と早めのコンサルトを考えてみよう
<臨床経過>
健康な人が風邪症状で来院した場合。 発症間もない初回の来院であれば、いきなり心筋炎を探しにいくのは、パフォーマンスが悪い。奈良公園でシマウマを一生懸命さがすようなものだ。しかし、同様の症状で、2回目の来院は、黄色信号。 3回目の症状ならば、赤信号だ。この様な場合は、心筋炎だけでなく、あらゆる合併症の併発を想定して慎重な対応をしないといけない。繰り返す受診の患者を、「どうせ、風邪だから」と一蹴する診療態度が、患者側の心を傷つける診療行為にもつながる場合がある。絶対慎むべき診療態度である。
<病歴>
呼吸苦、胸痛がないか、しっかりと積極的に聞き出す必要がある。患者側の訴えに真摯に耳を傾けるという診療態度をつくすしかないであろう。
<予期せぬ急変>
転ばぬ先の杖である。心筋炎に限らず、いつどこで医療者は病院内で遭遇するかわからない。心肺蘇生のトレーニングは、医療者が医療たる誇りをもっておくためには、必須のトレーニングであると考える。
<debriefing >
それでもやはり、我々は、心筋炎の患者さんを救うことができないかもしない。残されたご家族の悲痛なお気持ちに、医療者として真摯に向き合う必要がある。そして、その大きな喪失体験を受容できるように、援助者としての振る舞いも幾分かは求められるであろう。もちろん、医師はスーパーマンではない。なんでもかんでもできるわけでない。だから、この分野はこの分野の専門家にお任せする部分もあろうかと思う。しかし、医師が無知である故に、受容のプロセスを阻害しているとしたら・・・? それは、あんまりではないだろうか。私はそう思う。
劇症型心筋炎は、難しい病気である。しかし、自分達医療者にできることは、出来ることとして全力を尽くしたい。また、その具体的方法を、ネットという便利な社会ツールを使って、多くの医療者とシェアーしたいと考えている。
それが、私がこのブログを書き綴る大きなモチベーションである。
鏡の法則 :
患者が医療者を信じるとき、医療者も患者を信じることができる。
そして、それは、ベストの結果を生み出す大きなエネルギーとなりえるであろう
コメント一覧
おっしゃるとおり網を張り巡らせる他ないですね。最低バイタルチェックはやっておきたいところですが、なかなか子供達はさせてくれないことも多いです。そのため私は脈を触診することと呼吸数を確認することだけはやるようにしています。
幸い子供の心筋炎に出会ったことはありません。しかしあったとして今の施設で助けられる自信はありません。以前大人で心筋炎をみつけて、大量γグロブリンで乗り切ったことはありますが、それにしても冷や冷やものでした。
written by kudelmudel55 / 2007.06.10 12:24
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コメントありがとうございます。
昨年の救急医学会で小児救急の第一人者である市川先生の話をききましたが(拙ブログ 小児地雷をご参照くださ)、いや、症例を聞いてて、こりゃ、絶対わからんわ・・・ と思いました。
by なんちゃって救急医
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