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答えは一つとは限らない [救急医療]

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救急外来で、時に病態をつかみにくい患者と遭遇する。問題点がうまく絞れない。それでも、病歴を取り、診察を行い、検査を行い、一元的に病態や原因をつかめた時は、診療する側にとっても、快感だ。かつて、私は、一年目の大学病院研修医時代の教授回診において、よく病態を一元的に考えろ!と教えられてきた。たしかに、それは、大事なことであると思う。ばらばらな医学情報を一つにインテグレートする・・・つまり、ジグソーパズルのばらばらのピースを継ぎ合わせて一枚の絵を作る作業にも似ている。私は、そういう診断のプロセスは個人的に好きである。

しかし、救急外来の現場では、一元論に下手にこだわると、思わぬ地雷を踏むこともあるかもしれない

こんなことがあった。

72歳女性。 主訴 意識消失~意識障害

高血圧にて通院中の患者。朝、トイレに向かう途中で意識消失発作の後、軽度の意識障害があるとのことで、救急要請。来院時、意識レベルは、I-3。血圧は78/55 HR 90。 

来院直後、速攻でいつもごとく血糖をチェックする。
当院では、意識障害の患者では、医師の指示が出なくても看護サイドで勝手に血糖をチェックしてよいように根回しをしてあるのだ。低血糖の見逃しを防ぐフェールセーフとして、私の発案で現場に浸透させたのだ。

「先生! Low です!」 と看護師。

よっしゃ、ビンゴや。楽勝やな。
「50% ブドウ糖 2アンプル静脈内投与して!」 といつもの指示を下した。

これで、患者が瞬く間にスキッとして、仕事の8割方は終了するものとばかり思っていた。

「・・・・・・おかしい・・・・・???」
患者の意識が直ぐに回復しなかった。

つい、このように考えてしまわないだろうか?

一元的にこだわるとすれば、すでに長時間経過した低血糖であれば、すぐには意識は回復しないこともある。朝方の出来事だし、きっと昨晩から低血糖が遷延していたにちがいない・・・・・

きっと回復するさ・・・・・

このように思ってしまえば、地雷直行のところであった


実際の展開は以下の通り。

「覚えてますか!倒れたときのこと」と患者に声をかけてみた。
胸痛があって、あとは・・・・・」
こんな病歴が本人の口から飛び出した。

私は直ちに、思考回路を、一元的病態論から、Thinking the worst scenario論に切り替えた。

胸痛・血圧低下傾向・意識消失・・・・・

当然心電図をとった。 著変なかった。

心エコーをさらっと見た。
心のう液がうっすらと溜まっていた
生理的にしては少し多いと思った。

「背部痛は無かったですか?」 「ありません・・・」

それでも、私は、急性大動脈解離の懸念が頭から離れず、胸部造影CTをとることにした。

立派なStandford A、偽腔開存型の急性大動脈解離であった

緊急手術のできる専門病院へ直ちに転送となった。

なぜ、低血糖であったのか? 結局よくわからずじまいだった。
しかし、始めに見つかった低血糖にこだわり続ければ、大動脈解離の発見が遅れるところであった

間一髪の症例であった。

何年やってても、救急外来は恐ろしいところだと思う。

本日の教訓
一元的病態論にこだわりすぎると時に地雷を踏むかもしれない

コメント一覧
意識障害の患者を診てまず血糖、そしてNa。この低血糖で騙されることってよくありますね。
たいへん読んでいるだけで為になりました。ありがとうございます。

written by Tai-chan / 2007.06.05 11:26

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いつもコメントありがとうございます。

by なんちゃって救急医

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泌尿器科開業医です。最近勉強に来させていただいています。ありがとうございます。本当に思い込みは怖いですね。
腹痛+血尿(しめしめ)=尿管結石という短絡的、一元的判断も夜間にはときおりみられると思いますが、先日救急病院から「尿管結石だよ」と診断され、泌尿器科受診を勧められた29歳の男性は、肉眼的血尿+激しい右下腹部痛を伴ってこられました。エコー、KUBにて水腎や結石影は認めず、緊急性ありと考えられたため、CT、緊急血液検査のできる施設へ送りました。結果は虫垂炎の破裂、限局性腹膜炎、それにともなう急性腎不全(おそらくこれによる出血)であったとのことです。
なんちゃって救急医先生のホームページで勉強されている若い先生にはこのような場合、尿検査だけでなく、超音波や腹部X線写真(臥位も撮る)を怠らないようにお勧めしたいと思います。

written by urouro / 2007.06.06 17:23

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urouro先生

貴重なご経験をありがとうございます。私もつい最近、第一印象と病歴はどうみても尿路結石だろうという人が、結局、レトロのアッペだったことがありました。 思い込みを排除しつつ、複数の所見をかぶせて、非典型症例の見落としを防いでいくことが重要かと考えています。現場では、種々の制限が加わり、思うは安し、行うは難し・・・・ですが。

by なんちゃって救急医
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いつもとても教育的内容富んだケースのご紹介誠にありがとうございます。とても勉強になっております。
昔UCSFのティアニー先生のいっていたことを思い出します。
[Under 50yo one disease, older than 50yo muliple diseases.]
若い人の診断過程では一元的な説明を心がけ高齢者は多元性であることが多いことを心がけよ。

いつもブログを楽しみにしております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

written by しへい / 2007.06.07 08:13

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コメントありがとうございます。
ティアニー先生のコメントには、ほんとに示唆に富むものが多いですよね。こちらこそよろしくお願いしますl

by jなんちゃって救急医
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こういう急性例ではないですが、一元論でやってしまった苦い経験を一つ。重症の貧血で、子宮筋腫のあった女性。どう見てもとるしかない状態だったので手術し、術後食事開始。「患者さんが嘔吐しています!」
なぜ嘔吐?イレウス?でも腸蠕動は問題ないし・・・

こたえ:十二指腸潰瘍重症で、そちらからも出血していた上、変形が激しくて食物が通らなくなったための嘔吐。術前に胃腸症状は全然訴えていなかったので盲点でした。結局こちらも手術になり、上から下まで腹部に傷が・・・

written by 山口(産婦人科) / 2007.06.07 16:57

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おお、そのようなことも!!!
ほんと難しいですねえ・・・・

by なんちゃって救急医

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