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診断とは確率にすぎない [救急医療]

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医療者側と患者側の不毛な争いの要因の一つに、医療の不確実性という概念における両者のすれ違いが考えられないだろうか?医療の不確実性は、医療行為の中で至る所に存在する。ここでは、疾患の診断過程にのみ限定して、その不確実性を論じてみたい。

すれ違いの一場面  ある時間外来のシーン  30代女性とある内科当直医の会話

医師 「レントゲンと採血の結果には特に大きな異常はありませんでした」
患者 「私は風邪でしょうか?」
医師 「ええ、おそらくその可能性が高いとは思いますが・・・・」
患者 「可能性っていわれても。先生は風邪も診断できないですか!」
医師 「いろんなことを考えれば考えるほど別の可能性もあるのです」
患者 「え!別の可能性って何ですか?説明してください」

こうして、診療時間は、延々と延びざるを得なかった・・・・。

断定的診断名を避けたい医師側と断定的診断名を求める患者側のすれ違い・・・・・・

医師側にも患者心理を読み取った上手な説明スキルが求められるのかもしれないが、やはり、時間外等の短時間の診察で、一つの診断名をそうそう断定的に言えるものではないということは、医療を受ける側に、医師の診察とはそういうものだということとして、知っておいてほしいものだ。そこで、今回は、医師側の診断過程における論理的思考を紹介する。

要旨から先に言う

診断過程は、確率というグレー連続な表現形であり、ある(確率100%)かない(確率0%)の不連続な二者択一ではない。言い換えると、診断過程は「アナログ」的であり、決して「デジタル」的ではないのである。そういった中で、医療の中で、「死」という最悪の結果が表出したときに、その発生確率がどんななに低いものであっても、デジタル的発想の立場からすれば、誤診ということになってしまうのだ。それゆえ、過失の有無を容赦なく追求され、時には、報道被害というおまけ付きの打撃もこうむるリスクもあるから、医療者は慎重な物言いにならざるを得ない。その結果、上記のような患者とのすれ違いが起こりやすくなるのだ。診断過程が確率そのものである以上、絶対に大丈夫という保障は数学的に存在しないのだ。これが、診断過程における医療の不確実性といえよう。

具体的な問題を提示しながら、診断の論理を考えてみたい。 

問題1 
ある均一なサイコロがある。安倍君がこれを振った。小泉君が先に出た目を見た。そして、安倍君にささやいた。「奇数の目がでているぞ」と。ただ、小泉君は気まぐれなところがあり、1/10の確率で、逆のことを言う。さて、小泉君の話を聞いたことによって、安倍君のだしたサイコロの目が1である確率は、1/6から、いったいいくらになったのであろう?同様に、「偶数の目がでているぞ」と言った場合はどうであろうか?
問題2
日本国民の1/6もが罹患しているという新しい病気が見つかった。メタポリック(Metapolic)病という病気だ。タゲタ薬品会社は社を挙げて、この疾患を診断する迅速キットを開発した。このキットのこの疾患に対する感度は90%、特異度は58%であるという。安倍君はさっそくこのキットで自分を診てもらった。検査は陽性であった。安倍君の罹患確率は、1/6から、いったいいくらになったのであろう?同様に、陰性であった場合はどうであろうか?

この2題が等価的であることに気がついてくれただろうか?気がつかれた方は、診断の論理を大変よく把握されておられる方といえるでしょう。問題1は、条件付確率の問題です。一方、問題2は、日ごろ臨床の現場でよく遭遇する診断過程そのものです。この2題が等価的であるということは、我々の診断思考の論理的背景に、条件付確率の考え方が潜んでいることを示しているということです。

ここで使用する論理は、診断学の教科書に一般的に記載されていることですが、自分の頭も整理する意味もあって、まとめておきました。診断確率論を整理しておきたい方は、ご参考いただければ幸いです。→なんちゃって救急医の物置場

ちなみに、解答はこちらです。(まずは、ご自分で考えてからにしましょうね)

コメント一覧
算数でしか考えられないのですが・・
問題1)
サイコロの目が1である確率は1/6、それ以外の奇数である確率は2/6、偶数である確率は3/6。
小泉君が「奇数だ」と言ったのですから、ここで条件が付されて、その条件下でのそれぞれの存在確率は1/6×9/10、2/6×9/10、3/6×1/10に狭められます。この3つを足して分母(全体)として、最初の1/6×9/10の割合を求めると、(1/6×9/10)/(1/6×9/10+2/6×9/10+3/6×1/10)=3/10です。
問題2)
真に病気であって、検査陽性となる確率は、感度の0.9。ほんとは病気でなくて、検査陽性となる確率は、検査陽性で病気である確率=特異度を1から引いた0.42。
検査前に1/6であった疾患確率が、「検査陽性」という条件によって狭められ、真に病気の場合は1/6×0.9、病気でない場合は5/6×0.42。
(1/6×0.9)/(1/6×0.9+5/6×0.42)=0.3
問題1と2の答えが同じになるように、特異度を0.58に設定したあたりが心憎いというか、かえって解りにくいというか・・・

written by moto / 2007.05.28 20:30
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moto先生
さっそくありがとうございます。
お見事!でございます。

by なんちゃって救急医
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ほんとにそうですよね。たとえば同じところの「がん」といっても、悪性度にも抗がん剤や放射線の効き方にもすごい幅がありますもん。

ちょっと昔はやった近藤○先生の「がんもどき理論」なんて、医師にあるまじきデジタル思考な話で、それまで結構いいことを言うと思っていたのに、あれでいっぺんに引きました。

written by 山口(産婦人科) / 2007.05.28 21:21

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そうですよね。診断に限らず、治療もその効き方に幅がありますよね。この我々の日常の「グレー」さを、世間にわかってほしい・・・・

by なんちゃって救急医
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ある病気の確率をa1、ある検査の感度をs特異度をpとします。検査の結果、変化した確率はa2。
先の、わたしの式に、a1、a2、s、pをあてはめて、a2=(a1×s)/(a1×s+(1-a1)×(1-p))=1/(1+(1/a1-1)×((1-p)/s))
かっこだらけでわかりにくいですが・・要は、(1-p)/sが小さいほど、a2は1(確定診断)に近付きます。
ですから例えば、p=0.6、s=0.9という検査1と、p=0.7、s=0.8という検査2があった場合に、(1-p)/sはそれぞれ0.44と0.38ですから、検査2のほうが優れている、ということになりますね・・
この(1-p)/sというのは、検査のスペックを表す指標としてよいと思うのですが、なにか名前があるのでしょうか?
なんとなく、思い込みで、まず感度の良い検査でひっかけて、次に特異度の高い検査で詰める、みたいなのが合理的なような気がしてたんですが、数式で考えると、そんなこともないんですかねえ・・

written by moto / 2007.05.29 00:33

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大変鋭いご指摘だと思いました。

(1-p)/sの逆数が陽性尤度比として名称がついてます。

詳細は、こちらに書いています。
http://sakura.canvas.ne.jp/spr/space_yhnt/beiz/lecture%20in%20Se%20an%20Sp.html

by なんちゃって救急医
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おはようございます
ベイツの定理ですね。

いつも先生のBlogは何かを学べるので好きです。頑張ってください。

written by アンフェタミン / 2007.05.29 05:44

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おはようございます。
ご指摘のとおりベイズの定理です。
応援ありがとうございます。

by なんちゃって救急医

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陽性尤度比というんですか、ありがとうございます。
ところで、感度と特異度に関連した問題をわたしも作ってみました。

ある患者が、合併症Aを患っている確率は1/3、合併症Bを患っている確率は1/4である。
合併症Aのための検査aは、感度0.6、特異度0.7であり、合併症Bの検査bは、感度0.3、特異度0.9であるとする。
患者の検査a,bの結果が両方とも陽性であったとき、患者は合併症AとBのどちらを患っている確率が高いか?

答えは、わたしの手書き計算が間違っていなければ「等価」になるはずです。計算せず、臨床的な直観だけで答えてみてください、と聞いてみると、AかBどちらかが高い、と答える人が多くて「等価」と答える人は少ないんじゃないかなあ。

written by moto / 2007.05.30 00:49

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moto様

私なりに計算させていただきました。

オッズ=確率÷(1-確率)より、それぞれオッズ換算する。
合併症Aの事前オッズは、1/2 
合併症Bの事前オッズは、1/3

陽性尤度比=感度÷(1-特異度)より計算する
合併症Aの陽性尤度比は、2
合併症Bの陽性尤度比は、3

事後オッズ=尤度比・事前オッズの公式により
合併症Aの事後オッズは、2x1/2=1
合併症Bの事後オッズは、3x1/3=1

オッズを確率に逆算して
両者とも、事後確率は、1/2で等しい ■

いかがでしょうか?

written by なんちゃって救急医 / 2007.05.30 09:17

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なるほど、陽性尤度比というのは、こう使うのですか。
またまた勉強になりました。ありがとうございます。
しかしこうやって具体的に計算してみると、診断とは確率である、という意味がよくわかりますね。

written by moto / 2007.05.30 09:52

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ありがとうございます。
確かに計算して自分の頭で考えると
よく実感できますね。

by なんちゃって救急医
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先生のブログで毎日学んでいます。ありがとうございます。

ただ1点気になっていることがあります。アメリカでは患者の情報を詳細にブログ上でも掲載できませんし、写真はご法度です。倫理委員会を通さないといけません。
先生のブログでは患者情報を匿名とはいえ公開していることになりますが、大丈夫ですか?私は上司の了解を得て、決して写真を載せない、患者が特定できないように年齢を書かない等約束事を決めて書いています。英語ではなくても日本語でも患者が特定できる情報を漏らすとアメリカで医師生命に関わります。
ブログで足を引っ張られないように細心の注意を払って記事を書いています。私の取り越し苦労ならいいのですが、M3の記事はマスコミ、司法関係者もチェックしていますからご注意ください。

written by Tai-chan / 2007.06.02 04:20

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Tai-chan先生

貴重なご指摘ありがとうございます。実際、今ちょっとそのあたり悩んでいて、ちょうど写真削除を考えていたところでした。

かなり前から偶然とりためていた写真があるのでそれを利用してこれまでの話を書いてきたのですが、今の揚げ足取りの世の中で、地雷をふむなとブログでいってる自分が、地雷を踏むのではないかと思っていたところです。症例は、かなりのところを年齢、性別、状況設定を意図的に変えているので、仮に本人がみても自分と気がつかないとは思うのですが・・・・

ありがとうございます。写真は削除することにします。

by なんちゃって救急医

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えっ!それは残念です。
先生のブログは写真があるので大変勉強になっていました。胸部写真やCT画像なども個人情報流出などと言われると、画像の勉強ができなくなってしまいます。
私はできたら今までのように写真を載せて欲しいと思うのですが・・。年齢、性別、状況を変えてあれば個人を特定できず、何の問題もないと思うのですが、だめなのでしょうか?
でも先生にご迷惑がかかるのなら、ご自分が犠牲になってまでブログを書き続けることはないと思いますが。
先生のブログでいつも勉強させてもらっている者としては大変残念なお知らせです。
勝手なことを書き連ねて申し訳ございません。

written by 春野ことり / 2007.06.02 11:22

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ありがとうございます。わたしもことり先生の通りでそうしたいのはやまやまなんですが・・・
m3.com再開の惨状をみていると・・・

by なんちゃって救急医
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