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意外な虫垂炎 [救急医療]

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虫垂炎、俗称「盲腸」・・・・。ありふれた病気だ。 一般の方々は、医師なら、だれでも簡単に診断ができて、そして外科の先生にとっては、手術の入門編といえるくらいの簡単なもので、盲腸なんかで死ぬなんてことはないと考えいる人も多いのではないだろうか? 

典型的には、みぞおちの痛みに始まり、それが右下腹部に限局してくる。しかも歩くと響くような痛みだ。同時に微熱を伴っている。こんな流れが典型的だろう。

しかしながら、人間は画一化された製品ではない。従って、典型例からはずれてくる様々なバリエーションがあるのだ。つまり、どの疾患をとっても非典型例が必ず存在するということだ。医療を行ううえでの難しさは、この人間ならではの「非典型例」も考慮しながら、診断や治療を行っていくことだ

「後医は名医」という有名な言葉がある。この言葉通りになる疾患の代表格として、本日のネタである虫垂炎がある。

「最初のAという医者に腸炎と誤診された!次の先生は、すぐに的確に盲腸と診断してくれた。Aはヤブだ!」
一般の方々の中では、こんな批判があたりまえのようになされているかもしれない・・・・・。

虫垂炎の初期対応をすることが多い時間外診療の場において、こんな批判をうけないように、気をつけて対応しないといけないと思う。

そこで、本日は意外な虫垂炎の自検例を2つ程紹介してみたいと思う。

症例1 11歳男児

2日前より、心窩部痛。 昨日晩、症状増悪し、嘔吐も伴った。他院小児科で胃薬をもらった。本日(土曜日)になっても、症状よくならず、食欲も低下、歩くと響く感じの痛みもあるため、午後時間外外来を受診した。来院時、体温37.2度。白血球は19000。 お腹をさわると、右下腹部に痛みを訴えない。しかし、右上腹部にリバウンドを伴う圧痛がある。腹部エコーを技師がやってくれた。虫垂は検出できず。ちなみに、エコーで虫垂を同定できたら、ほぼ虫垂炎の診断は確定する。しかし、エコーで虫垂を同定するには、高度の経験と患者側の要因とに影響される。つまり、エコーは、有用だけど常に安定した結果がだせるわけでないないのだ。 CTをとった。なんと、放射線科医師のレポートにも虫垂同定できずと帰ってきた。それでも、私は、虫垂炎が疑わしいと思ったので、外科当直を呼んだ。彼女は、腹部レントゲン(図参照)を一瞥するやすぐに、右上腹部をあるものを指差し、「アッペ(注:虫垂炎のこと)」と一言。
あるものとは、糞石のことだった。うっかりしていた。私は気がつかなった。 さすが、いつもお腹を開けている外科医だなあと感心した。CT(図参照)のとおり、肝臓と腎臓の間に糞石が移っている。なぜ、放射線科医は、虫垂検出できずのレポートを返したのであろうか? 虫垂=右下腹部にあるものという思い込みが、うっかりそのようなレポートを返してしまったものと推定される。男児はすぐに手術になった。上行結腸背側に上向きに伸びる腫大した虫垂が無事に切除された。

臨床経過は、虫垂炎として典型的だが、場所がまったく典型例と合わない一例でした。

 

 

症例2 36歳男性

昨日19時頃から、しだいに下腹部痛を自覚し始めた。22時ごろから増悪。深夜0時過ぎに、時間外外来を受診。体温は37.5度。お腹を触ると正中~左下腹部に圧痛。リバウンドを伴っていた。担当した医師は、深夜であり全身状態も良好であること、虫垂炎としては場所がちがうこと、また腸炎や憩室炎の可能性をより強く考えられること、以上より本日は帰宅との判断をくだした。ただし、明朝の再診が必須であること説明していた。その際、カルテには、典型的な場所ではないが、虫垂炎の可能性もあるときっちりと記載されていた。明朝、指示通り再来。CTをとった。なんと、右の回盲部から左下腹部にまで到達する横に伸びた腫大した虫垂が認められた。(図参照)すぐに外科入院となり同日中に手術が行われた。

臨床経過は虫垂炎として十分ありえそうだが、場所が典型例と合わない二例目でした。

いずれの例も、虫垂炎は右下腹部という思いが強すぎると、まちがった判断に流れていきそうです。例えば症例1が若き女性なら、肝周囲炎にまちいそうだし、症例2では、やはり憩室炎に走りそうな気がします。・・・
虫垂炎は、診断が遅れると、穿孔して、治療に難渋するので、的確なタイミングで外科の先生に関わってもらう必要があります。
多少、合わない所見があってもすぐに虫垂炎を除外せずに、画像診断の組み合わせ、外科医との相談などが大切かと思われます。また、患者側には、常に、診断の不確実性と限界を説明しておくことが重要です。そういう意味では、症例2で夜間に対応した医師は、パーフェクトであったと私は思います。

 

教訓
たかが虫垂炎、されど虫垂炎・・・・・安易に否定はしない。常に患者さんにその可能性を説明しておくこと

コメント一覧
症例1の腹部レントゲンは単純撮影のことですか?それともCT?
もし単純撮影なら、どんな感じで写っていたんでしょうか?もやもやっとした影のような感じかな?
written by moto / 2007.04.28 09:03
moto様

コメントありがとうございます。腹部レントゲンも追加でアップしました。
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.28 09:13
胸のレントゲンは、たくさん見ているんですが。
お腹のレントゲン、って結構苦手なんですよね、循環器内科医は。
怪しい、と思ったら消化器内科か外科の先生を呼ぶ事にはしているんですが。
さすがに、この例で虫垂炎は疑わないですね、きっと私。

リバウンドを伴う圧痛があれば、とりあえず一泊でも良いから入院させるか、次の日朝一番で来院するようには言いますけどね、多分。
written by Dr. I / 2007.04.28 10:39
産婦人科にとっても虫垂炎は地雷です。子宮に著明な圧痛があって、絶対骨盤腹膜炎だと思って入院させた例が虫垂炎だったとか、元々子宮内膜症があってそれの痛みかと思ったら虫垂炎だったとか、虫垂炎が破れてDouglas窩膿瘍になったのを婦人科疾患からの膿瘍と思ったりとか、体験しただけでも色々。いずれも「念のために」外科医に相談して事なきを得ましたが。
written by 山口(産婦人科) / 2007.04.28 11:34
胆石かなあ、と思っちゃうとこですが、11歳で胆石というのもありえん話でしょうね。
画像のみならず、臨床情報がいろいろあっての判断だから、放科の先生をどのくらい責めていいのか解らないですね。
CTの黄色矢印は放科の先生は何と思われたのかなあ。さすがに見落とすとは思えないのですが。
放科の先生が見ていらっしゃったら、ご意見伺いたいですね。
written by moto / 2007.04.28 11:42
Dr.I先生

コメントありがとうございます。
人間、追い込まれたときの思考で
「たぶん・・・でいいだろう」
に走ってしまうことがあります。

そんなときにこんな症例が見逃されるのでしょうね。
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.28 19:40
山口(産婦人科)先生

コメントありがとうございます。ほんと、「念のため」というのは大事な精神だと思います。
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.28 19:41
moto様

実際は、時間外だったので、たまたま居残っていた先生に、無理に急いで書いてもらったレポートです。
「せかされた」という要因があったのかもしれません。
(私個人の推測です。それ以上の根拠はありません)
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.28 19:43
いつも大変勉強になります。珍しい2症例のご提示ありがとうございました。虫垂が右上腹部や左下腹部まで達しているなんて、想像したこともありませんでした。
このブログの症例集。まとめて本にされたらよいと思います。

written by 春野ことり / 2007.04.29 06:55
ことり先生

コメントありがとうございます。本ですかあ・・・
だれか声をかけてくれれば、がんばろうかなあ。
羊土社の人いないかな。

written by なんちゃって救急医 / 2007.04.29 07:27
 実際に手術をする立場からすると、虫垂炎の難しさは診断より手術をするべきか否かにあります。

急性虫垂炎の病理学的分類はご存じのように
1.appendicitis catarrhalis(カタル性虫垂炎)
2.appendicitis phlegmonosa(化膿性虫垂炎)
3.appendicitis gangrenosa(壊疽性虫垂炎)

に分類され、このうち3を手術すべきだと言うところは誰も異論がないところだと思います(こういうのは大抵defenseもあるので、とりあえず開けてみるか~?でことが済む(笑))

 問題は1・2で、1はほとんどのケースで絶食・補液のみで治癒するが、ごく希に2~3に至る。2は3に移行することが多いが希に絶食・補液のみで治癒するという問題があります。

 で、WBC19000で明らかなdefenseもあるけど開腹してみたらcatarrhalisだった・・・とか、WBC8000ぐらいでdefenseもないから抗生剤で散らせるかな~と経過を見てる内にdefenseが出てきて、開腹してみたらぐちゃぐちゃに破れてた・・・とかざらにあります。
written by 僻地外科医 / 2007.05.01 01:42
続きです

で、外科医15年のわずかな経験からすると
1.appeを疑うケースはcatarrhalisだろうがなんだろうがとりあえず「外科入院」。内科・小児科にお任せ入院にすると痛い目に遭うことがある。
2.抗生剤で散らすという考えはやめた方が良い。抗生剤で治癒するものは絶食・補液のみで治癒する。むしろ抗生剤でWBCがマスクされて危険なケースも少なくない。鎮痛剤もソセゴンなどのオピオイドは使わない方が安全。
3.とりあえず入院して補液。500ml補液してWBCが下がらないものはほぼ手術適応有り。
4.糞石があれば有無を言わさず、すぐ開腹。

というのが現状での「私の」考え方です。

 なお、先生の呈示された1例目ですが、糞石が無くても外科医ならappeを考えるケースです。臨床経過はもちろんですが、X-Pでかなり特徴的な小腸ガス像が出ているというのがポイントです。X-Pで「立位・臥位ともに盲腸近辺に集積する小腸ガス像」CTで「盲腸近辺に限局する小腸内容停滞像」がある場合、仮に明瞭な虫垂の腫脹がCTで認められない場合でもappeを疑います。小児のappeは経過が極めて速いので、11歳なら200mlぐらいの急速補液をしてみてWBCが下がっていなければすぐ開腹したと思います。

 2例目は私も判断が難しいです。ただ、このケースでも私なら帰宅させずに入院で経過を見たと思います。

 ところで全く別な話。
5年目ぐらいの頃、正月当直で明瞭なdefenseが右下腹部にある患者が救外に来て、当然急性虫垂炎だろう・・・ということでその病院の外科の先生を呼んで開腹したら・・・Sigmoid colon ca.のruptureだったことがありました。
術前にCTを取っていたのですが、よくよく見ると肝metaが・・・。CTを見るときは全部きちんと読まないとダメだ・・・というのを痛感した1例でした。
written by 僻地外科医 / 2007.05.01 01:43
はじめまして。
いつも大変参考になるお話しで、感心しながら拝見しています。

moto様
11歳で胆石、あるのです。
小児科の先生から腹痛でコンサルトされましたので、
エコーを施行したところ、5mm大の胆石がごろごろ。
どちらかというとやせ形だったのですが、マ○ド○ルド大好きで
高脂肪食を食べているために起こったのではないかと思います。
マ○ド○ルド禁止令を出したら蹴りを入れられました(笑)。

なんちゃって救急医様
このブログの発展を楽しみにしています。
written by luxmann / 2007.05.01 18:40
僻地外科医先生

外科医からの視点、ありがとうございます。Xpの微妙なガスの解釈は、まさに名人芸的だと思います。

luxmann先生

コメントありがとうございます。今後も多くの方の診療に役に立つメッセージを微力ながら発信できたらと思います。
written by なんちゃって救急医 / 2007.05.01 20:07
 特殊な事例ですが、3~4歳での胆石というのもあります。
長期静脈栄養の患者(腸回転異常で大量腸切後の短腸症候群、total colon typeのHirschsprung病など)、先天性胆道拡張症の患者などではビリルビン結石を認めることが希にあります。

 救急外来にこれらの患者さんが直接来ることはほとんどないと思いますけどね。
written by 僻地外科医 / 2007.05.02 08:16
田舎の病院の外科医です.
僻地外科医先生のご指摘のごとく,盲腸周辺に限局するガス像は重要な所見です.補足しますと,腹部エコーでもこのような所見が得られることがあり,盲腸周辺に限局したイレウス像として描出されます.腹部単純Xpでガスが描出されない場合はエコーで所見が得られる場合が少なくなく,この所見がないかどうかに注目して検査しています.
あと,やはりリバウンド=反跳痛は外科入院で経過を見るべきだと私は思っています.

僻地外科医先生

急速輸液でWBCが下がらない症例は開腹すべきだとのご意見,いままでそのような考え方をしたことがありませんでした.参考にさせてください.
保存的に治癒した虫垂炎は繰り返すことが多いように思っています.私の先輩の外科医は保存で治した虫垂炎は治ってから患者に説明して切除をしており,急性期に手術するより創感染などがなく,大きな切開にする必要もなくていいと言っています.私は治癒してからの切除をするまでは勇気がないのですが,先生はどうお考えでしょうか.

written by 田舎の一般外科医 / 2007.05.07 01:10
20年前の自験例ですが
右胸心の患者さん 左側のMcBurneyに痛みあり

完全内臓逆位については診断されていませんでしたが開腹してやっぱり左に虫垂炎がありました。
左側で同じに開腹するのって何か変な感じでした。
鼡径ヘルニアなら左右ありますが、左側で交叉切開など普通はしないですもんね。
もう外科医は廃業しましたが 懐かしい思い出です。

written by 内臓逆位のアッペ / 2007.05.08 20:54
貴重なご経験をありがとうございます。
内臓逆位の症例に出会ったことはありません。

ブラックジャックが、予想外に手術に戸惑い、ピノコが機転を利かせて鏡を持ってきて、ブラックジャックが鏡を見ながら手術をしたという話を思い出しました。

written by なんちゃって救急医 / 2007.05.08 21:39
はじめまして。駆け出しの放射線治療医です。
いつも大変楽しく勉強させてもらってます。
僕達は虫垂炎疑いのfilmを読影するときには、意外な所に虫垂はあるもんだ。しっかり腸管の走行を追うことが大切と習いました。
一例目は・・・結果を知って語ってもだめですね。
少しCTのレベルを変えると脂肪識の混濁が見えそうなのは気のせいですかね・・・


二例目・・MPRを作ると結構同定しやすかったりする例もあるので、良く作ってました。
大変勉強になります。

written by メタボ / 2007.05.09 16:09
メタボ様

放射線科の立場からのコメントありがとうございます。
これからも、いろいろとご指摘ください。
written by なんちゃって救急医 / 2007.05.09 19:25
実際にひどい目に遭った元患者(女)です。
最初は心窩部痛から始まり、だんだん左下腹部の痛みへと移行。「右なら虫垂炎なのに」と思いながら日曜だったため、時間外救急を受診。運悪く当たったのが内科医で、原因不明の胃腸炎として痛み止めと抗生物質入れながら入院。おそらく入院3日目に虫垂穿孔、高熱やひどい下痢を繰り返し、生理痛様の痛みと不正出血まで起こし、しまいには腸が動かなくなってガスがたまるのに悩まされ、一体どうなってるんだと疲弊しきって10日目、「原因がわからないので大腸内視鏡入れようと思います、でもその前にCT撮ります」となり、撮ったら大きなダグラス窩膿瘍ができてました。即手術で、開けたら右卵巣炎と結構な大腸炎だったそうです。虫垂は卵巣にはり付いてたとか何とか。
入院翌日にやった検査は血液検査と胃カメラとエコーとX線撮影。主治医は最初に受診した内科医だったんですが、不正出血が起こった時点で「婦人科要因の可能性は?」と聞いたら、「うち婦人科無いからわかりません」と言いやがりました。最初が外科医ならもっとましな展開になったと思うんですけど、どう思われますか? 
この経験以来、医療に興味が湧いたため、先生のところも興味深く拝見しております。
written by ねこ / 2007.05.19 00:57
元患者様

>最初が外科医ならもっとましな展開になったと思うんですけど

これは、なんともいえないと思いました。

大変だったと思います。きっと難しいケースだったんだろうと思います。

16歳の女性で、外科部長がみても放射線科部長がみても婦人科部長がみても救急部長がみても虫垂炎と画像診断して開腹したら卵巣出血で正常虫垂だったっても経験があります。
虫垂炎は、医師にとって、簡単なものから診断困難なものまで様々です。
written by なんちゃって救急医 / 2007.05.19 21:30


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