SSブログ

小児地雷:心筋炎の2例 [救急医療]

↓ポチッとランキングにご協力を m(_ _)m

本日は、児心筋炎という病気について述べてみたいと思います。頻度こそそう多くないものの、ありふれた主訴の中から、突然命を脅かす病気として、本人、ご家族そして医療者の前に突然現れるので、小児地雷としては、代表格ではないかと思っています。


第34回日本救急医学会総会
小児救急疾患のピットフォール
北九州市立八幡病院 小児救急センター 市川光太郎先生
の講演スライドより引用

小児救急疾患の特徴
A:軽症者が多いものの、その中に、非典型的症状を呈する重症者が紛れ込んでいる。
B:自己表現が乏しく、主訴が不明確で、診断プロセスが困難なことも少なくない。
C:病勢の進行が早く、重症化の予知が困難である。
D:先天性疾患の存在や養育環境の影響が傷病の発生に影響していることも少なくない。


小児心筋炎の症例を2つほど

市川先生の講演の中で提示された症例

5歳 男児
夜に腹痛、訴えるも特に重症感はなく観察。翌朝も少しグズグズ言ったが、幼稚園に登園。登園後、嘔吐あったため、早退。午後、近医受診。嘔吐ひどいため早めの診察。点滴開始時、痙攣そのまま心肺停止となる。救急隊による除細動が一度施され、心拍再開後、当センターへ。人工心肺装置(PCPS)を挿入直前に再度心停止。心拍再開せず、死亡される。

自分のかつて勤務していた病院での症例。

9歳 男児
発熱があったため、近医受診。感冒との診断で投薬加療中であった。発熱してから3日目の夜、熱はなかなか引かなかったため、父親が添い寝をして一晩様子をみていた。翌早朝、こどもが息をしていないことに父親が気がつき、救急要請。当院搬入時、心肺停止状態。心拍再開せず死亡される。病理診断による確診はないが、臨床的に心筋炎と判断した。


どちらも、急に大切な子供さんを失われた親御さんのことを考えると胸が痛みます。では、この子供たちを救うきっかけはどこかにあったでしょうか? まさに市川先生が講演の中でのべられた特徴A,B,Cが、不幸にもすべて揃ってしまった症例であったと考えます。残念ながら、心筋炎という病気を今の医療が克服しきっているとはいえないと思います。まさに、医療の限界を、医療者のみならず多くの人に知っていただかざるを得ないと思います。

これらの症例を皆さんはどうお感じなりますか? 初めの診療の段階で、心筋炎と診断できなかったことが、はたして誤診でしょうか?

これらを誤診だと断罪される方が世に多ければ多いほど、安全な医療を行える力をもつ医師たちがこれからもどんどん少なくなっていくと私は思います。自分たちの力では、世の期待に答えることができないと思うからだと思います。少なくとも私自身はそう感じています。

マスコミ報道を見る限り、私たちの不可避な医療判断を、ミスという心無い言葉で断罪していることが多いように感じます。マスコミ報道には、常にバイアスがかかりますから、一般的な世の方々がそうでないことを心から願っています。

コメント一覧
先生のおっしゃることよく判ります。

ウイルス性の心筋炎は私は当たったことがありませんが、
あたりたくない疾患のひとつです。
まず的確に診断できる自信がありませんし、タイミング遅れで診断がついても市川先生の例のように的確に治療できる施設まで持たないことが多いです。成人ですが、寝たきりになる後遺症を残した患者さんを見ました。

もし、これを医療ミスと言われると、救急医療はやってられないと思います。(先生の意見に激しく同意)
written by ichiyama / 2007.03.28 05:11
ichiyama様

同意のコメントをありがとうございます。救命のための努力を続けることと、限界性を訴えること、この相反する2つの事柄を世に訴え続けていく必要があるのではないかと考えています。

written by なんちゃって救急医 / 2007.03.28 06:50
心筋炎は2例みたことがあります。
1例は10歳の男の子で、劇症肝炎のふれこみで転送されてきました。肝酵素がべらぼうにあがっているわりには黄疸がひどくなく、ほんとに肝炎か?ということになって、CPK をみたら跳ね上がっていました。
心臓もなけなしに動いているだけで、CCUでPCPS をまわしましたが、亡くなられました。当時ICUのベテランの先生から、PCPSをまわした心筋炎は助かったためしがないといわれました。
発見されても、急激な経過をたどる症例は、助からないほうが多いような気がします。

もう一例は、なんと助かった症例を経験しました。
4歳の女の子。
なんとなく元気がないと言う事で、近医受診。徐脈ということで紹介受診。なんと脈拍30でした。
あわててエコーすると、軽度心のう液貯留、心筋の動きが一部悪いところがあり、伝導障害型の心筋炎ということで、CCUに入院しました。
この子は主な症状が伝導障害で、心拍出はカテコールアミンの併用でなんとか保てたので、ひたすら炎症がおさまるのをまって、回復期にはよくわからない不整脈が連発しましたが、これも血圧が保てていたのでひたすら経過観察でのりきりました。
このような症例は、助かる運命だったんだ、としかいいようがありません。医者はただ指をくわえて嵐が過ぎるのをみていただけですので。

心筋炎はほんとうに難しい病気だと思いますし、
医者はこれに対しては、ほんとに無力だなあと思います。
それをせめられても、いかんともしようがないです。
written by pyonkichi / 2007.03.29 12:27
pyonkichi 様

貴重なご経験をありがとうございました。
自分が受け持ちで、救命できなかった患者さんのことを思い出しました。劇症型心筋炎で40代の女性でした。ようやくようやく授かったたった一人のお子さんはまだ5歳くらいでした。PCPSを装着しましたが、乗り切れませんでした。
患者さんの実母に泣いて頼まれました。「助けてやってくれ。私が変わってやりたい」と。その患者さんも週末の入院時は、肝炎のアセスメントでした。

written by なんちゃって救急医 / 2007.03.29 14:27
産後一ヶ月の特発性心筋症を経験したことがあります(って実際主治医だったのは内科ですが)。他院で正常分娩後、一ヶ月ほどして呼吸困難感を主訴に当院救急外来受診。そこでいきなり心肺停止!当直医が一生懸命蘇生してその場はしのぎましたが、心筋の動きがほとんど停止(30%弱しか動いてないくらいだった)していたので、その後ずっと入院して3ヶ月くらいしか保ちませんでした。
これって今でも原因不明なんでしょうか。経験した当時は原因不明と言うことでしたが。(自分でPubMedとか探す根性がない)
written by 山口(産婦人科) / 2007.03.31 15:09
山口(産婦人科様)

貴重なご経験をありがとうございました。たしかに、産褥後心筋症という病態カテゴリーは存在しているようです。当方も、かつて、そういう方の受け持ちをした経験があります。残念ながらその方も亡くなりました。
written by なんちゃって救急医 / 2007.03.31 17:42


コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

コメント 0

コメントの受付は締め切りました

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。