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警告出血 [救急医療]

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くも膜下出血(SAH)という病気がある。私は、この病気を、勝手に「地雷疾患の横綱」と呼んでいる。それは、なぜか? 来院時は、元気であったにもかかわらず、帰宅後に帰らぬ人となってしまう危険を大いに秘めた病気だからだ。警告出血というごく小さな出血の後、再出血を起こし、その再出血によって命を落とすというパターンが存在するからだ。通常、警告出血時にも頭痛はある。その頭痛の直後に病院を受診した場合、たとえCTをとっても、非常に微妙で専門医でないと識別不可能なわずかな異常しか認めない場合や本当に全くCT画像に異常がない場合さえある。だからこそ、警告出血の段階で、的確にくも膜下出血を診断するのは、非常に難しいのだ。

 

というわけで、不幸にして悪い結果になった場合、当然訴訟も多い


ホットラインが鳴った。32歳男性。意識障害です。現在、レベルはJCSでⅢ群です。奥さんが同乗してしています。意識がなくなる直前に激しい頭痛があったようです。


「SAHだな・・・・」と思った。

 

患者が到着した。複数の医師と看護師で処置が進む。
血糖、酸素、点滴、血圧など・・・・・・。そして、いよいよ頭部CTへ。

予想通り、SAHだった。

「きびしいな・・・」と思わざるを得なかった。

 

患者のカルテに目を通した。

なんと、3日前に当院を紹介されていた。紹介目的は、CT撮影の依頼であった。

会社診療所からの紹介状があった。
「上司と口論になったとき、突然激しい頭痛を感じたため、当社診療所を受診。念のため貴院にて頭部CTのチェックをお願いします。」

患者はその翌日に当院を受診してCTを撮っていたのだ。

放射線部長が書いたレポートもすでに出来上がっていた。
異常なし

 

「再出血か・・・」と私は呟いた。

 

集中治療室に入院となったが、数日後に亡くなった。

 

医療には、常に不確実性がある。タラ・レバであれこれ言うのは禁物だ。それでも、最初の来院が悔やまれる・・・・

 SAH、本当に怖い病気である。ご冥福をお祈りします。

 

この症例の教訓
SAHの警告出血に敏感になろう


専門用語
くも膜下出血 subarachnoid hemorrhage 略称でSAH 
JCS  Japan Coma Scale の略 

JCSⅢ群 痛み刺激でも開眼しない程度の昏睡状態

コメント一覧
こんにちは
はじめまして いなか小児科医と申します。

厳しい症例ですね。この初診の時のCTでは恐らくほとんどの医師はSAHなしとみるでしょうね。教訓にしたいと思います。
written by いなか小児科医 / 2007.03.24 14:33
いなか小児科医様

コメントいただきありがとうございます。

Sudden and worst headache with CT negative

の場合、次の一手をどう脳外科医と協力して進めるかが、こういうケースを予防しうる鍵なのかなあと思っています。
written by なんちゃって救急医 / 2007.03.24 15:11
とまぴょん先生
どの症例も大変勉強になります。
SAHは自分も見落とした経験があるので大変こわいです。その経験依頼、頭痛の患者さんが来ると身構えてしまいます。
地雷をいつ踏んでしまうかと、救急でない普通の外来でもビクビクしています。
地雷症例のご紹介、今後もよろしくお願いします。


written by 春野ことり / 2007.03.24 23:31
ことり先生

コメント、トラックバックありがとうございます。

私も似たような経験あります。
夕方内科外来診療の最後の一人が、SAHでした。
病歴からはノーマークでした。単に同じ主訴で2回目だから1回目+αと対応するのがセーフティという原則でCTを行っただけでした。微細な出血でしたが、緊急手術となりました。脳外科の先生いわく、動脈瘤に血のりがぺたっとついたよだって・・・。こわ、その血のりが患者自身と私の命を救ってくれたのでした。

多くの人が地雷を踏まないように、つたない経験ですが少しずつ情報をだしていこう思います。

written by なんちゃって救急医 / 2007.03.24 23:40
実はお袋がSAHで死にました。
本当にひどい病気です。
written by Atsullow-s caffee / 2007.04.07 21:10
Atsullow-s caffee様

コメントありがとうございます。
先生のブログも拝見させていただきました。
心中お察しいたします。

私事になりますが、私の叔父は41歳で他界しました。SAHでした。頭痛を訴え、ある病院を受診。では、予約でCTをとりましょうとのことでその日は帰宅。数日後、検査予定日の朝、自宅のトイレで意識消失。救急車でその病院へ。SAHグレードⅤでした。時すでにおそしです。
これは、まだ私が医学部に入る前の出来事でしたので、当時は、なんとも思いませんでしたが、今にして思えば、最初の頭痛は、警告頭痛だったんだろうなあと思っています。
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.07 21:22

トラックバック一覧

実は、SAHを見落としました (天国へのビザ)
http://blog.m3.com/Visa/20070130/2

死に際 (さあ 立ち上がろうー「美しい日本」にふさわしい外科医とは)
http://blog.m3.com/Fight/20070316/3

 


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