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「『ニート』って言うな!」 ・・・ ニート問題をスッキリ整理 [仕事]


「ニート」って言うな! / 本田 由紀内藤 朝雄後藤 和智
1.My Review Rank : ★★★★★ + ステレオ・タイプでない視点
2.Published Data : ¥840, 310Page,光文社,’06/01
3.Review Point : 本書はニート(NEET:Not in Education,Employment or Training)問題に関わるマス・メディア, 政治, 世論 等の本質を鋭く分析し、本当の問題点とその対策案を真摯に検証した良書. 絶対にお薦め. 本書を読むと一般的に言われているニートに関する言説の底の浅さを感じます.
 本書は、本田由紀(教育社会学者:東京大学大学院情報学環助教授), 内藤朝雄(社会学者:明治大学専任講師), 後藤和智(東北大学工学部建築学科(在学中))の3名の共著.
1)ニートの定義・イメージの誤り
 本田由紀は、ニートの定義と労働需要側の問題を指摘している.
 (1)ニートの構図
 ニートの内部と外部の構図を以下の様に整理している.
 A層 : 失業者でない層(自分の居場所の有る層) ・・・ 正社員, 学生, 主婦.
 B層 : 職が無い或いは、不安定な層 ・・・ フリータ, 失業者(求職の意思有り).
 C層 : 働く意思は有るが、職を探していない層 ・・・ NEET非求職型(実質的にはBと一体)
 D層 : 今は働く必要・予定が無い層 ・・・ NEET非希望型.(家事手伝い,教育機関入学準備 等)
 E層 : 働く意欲が無い層 ・・・ NEETのメインイメージ層.
 F層 : 問題層(ひきこもり,犯罪親和層) ・・・ NEETのネガティブ・イメージ層(マスメディアが飛び付く話題).
 (2)誤った解釈・イメージ
 現在、ニートと呼ばれているのは上記のC層~F層(B層とC層との間に強い線が引かれている). 例えば、ニートは48万7千人の巨大な規模で(2002年)、全員に働く意思がなく、だらしなく生きているとのイメージが出来上がっている点が問題. 具体的には以下.
 問題点① : B層とC層とは、 「安定した就業機会の不足」 との同じ原因から生まれた連続した層で、フリータとニートとの間の線引きは、現実を誤認識してしまう(対策を誤る) . 実際には、フリータ⇔失業者⇔ニートで、ぐるぐると行ったり来たりしている層も多いと考えられる.
 問題点② : 現在の議論は、 「働く意思が有るか、無いか」が人間に対する絶対的な評価 になっている. 特にD層には、多様な生き方を選択している若者が含まれるが、その生き方に対する思考停止が起きている.
 問題点③ : F層の「ひきこもり」や「犯罪親和層」がイメージ的にニート全体に拡大適用され、ネガティブな印象がニート全体の若者に当てはめられている.
 (3)労働需要側(企業)の問題点
 上記の①~③の様に、問題の本質を見誤り、ニートに対する 「働こうとしていないんだから、本人が悪いんだろう」 とする事によって、労働需要側の問題ではなく労働供給側の問題とされ、若者の自己責任に全てが還元されている.

2)ニートを自分の都合で利用する魑魅魍魎(ちみもうりょう)
 内藤朝雄は、P125で、「殺人検挙者数」、P127で、「強姦検挙者数」の推移を1950年代から示し、過去と比較し、1980年代以降の両検挙者数は、各々四分の一, 十分の一に激減しているデータから、ニートを自分の都合の良い様に利用するマス・メディア, 政治等を厳しく批判している.
 (1)マス・メディア  : 所詮、マス・メディアは視聴率優先の世界. 視聴者が喜ぶ話題で有ればOK. ニートもマス・メディアが視聴率を稼ぐための「商品」に過ぎない.
 神戸の酒鬼薔薇聖斗の大ヒットで味を占めたマス・メディアは、幼女誘拐・殺害事件等でも、パラサイトシングル, 引きこもり 等の若者ネガティブ・キーワードで商品作りをしている. 「青少年の凶悪化」, 「社会性を失った若者」, 「キレる若者」 等社会の不安を煽る話題作りに邁進した.
 (2)世論社会の構造が大きく変わる際には、あるグループがターゲットとされ、集中的に非難・攻撃される. そのグループは、人生の経験が浅い人, 老いた人, 所属しない人, 交わらない人, 理解や共感が出来ずに不安感を与える人 等で、ニート問題については、人生経験の浅い若者(更に、茶髪やピアス等で見た目も異った)が、終身雇用,年功序列の崩れ 等で不安の蔓延する社会から総攻撃された. 人生経験の浅い若者は、攻撃されたとしても、「自分が悪いのかな」としか思えない.
 (3)政治 : 若者の20%にも迫る失業率が最も問題で有るにも関わらず、若者の自己責任に問題をすり替え、政治責任を回避している. 更に、この様な若者を作ってしまった問題は「教育」に有り、教育を通じて、管理強化に繋げようとしている.
 (4)団体関係 : ニート問題が祭りの様になり、利権が発生している. 若者の就職支援になると予算が付くため、ニート問題を大きく宣伝して予算獲得しようという団体が出てくる.
4.Summary : ニートとの言葉の歴史を以下の様に説明している.
 2003年3月に当時の日本労働研究機構(現在の労働政策研究・研修機構(以下、JIL))は、報告書の中で、英国での労働問題のNEETが、日本にも有ると初めて紹介した. その後、JILは2003年10月に独立行政法人化され、組織の存在意義のため、世論の注目を集める様な研究成果として、ニートをしばしば取り上げる様になった.
 2004年7月に、玄田有史の「ニート-フリータでもなく、失業者でもなく」(幻冬舎) がベストセラーとなり、カタカナのニートが認知される様になった.
 その後は、上記の様に、定義が曖昧化する中、ネガティブ・イメージのニートに対して、様々な人が群がり、自分の都合の良い様に利用し、その結果、若者だけが損をした. 


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