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やさしく厳しいミステリー?「ななつのこ」加納朋子 [ミステリーを楽しみたいときに]


「ななつのこ」 加納朋子 1992年9月初版 東京創元社

加納朋子氏はやさしい人なのか、厳しい人なのか少し悩む。
7対3でやさしい人なのだろう、と想像する。
その3の厳しさも、現実や事実という冷たい壁や過去を抱きながら、
何故かやさしさが知らず知らずににじみ出てきてしまうような種の厳しさだ。

この「ななつのこ」は著者のデビュー作であり、しかも第3回鮎川哲也賞という
多くのミステリー作家を生み育ててきた賞のまさに受賞作でもある。
非常にバランスがよく、すーっと内容に引き込まれるような自然な筆致だ。
これは彼女の持ち味であり、その後の作品にも引き継がれていく。

本作は、劇中劇ならぬ本中本(これを表す言葉があるのかもしれないが)の仕掛けである。
つまり、「ななつのこ」という7章から成る短編集にたまたま引き込まれた女子短大生が、
日常で起こったささやかな、しかし不可思議な出来事に遭遇する。
その謎を、ファンレターとして本の著者に書き送り、その返事が来て謎が解かれていく、
という形式をとっている。「ななつのこ」という本中本にも謎解きがあり、それが短大生の
謎解きと微妙にからみあってくるのだ。
物語はその本中本の著者が謎解きをする、という多少の起伏がありながら、
7章構成で比較的平穏に、淡々とした日常生活のように流れていく。

こう来ると、ミステリーファンなら北村薫の「私」シリーズ(空飛ぶ馬~)みたいだ、と思うだろう。
(今後別記事でぜひ紹介したいシリーズだ。詳細はその時に)
私も、ややその感を免れないなあと思う。
それでも、この「ななつのこ」を紹介するのは、その最終章である第7章で、すべての複線が
一つになる爽快感、感激をどうしても諦めきれないからだ。
それまでの淡々としていた6本の流れが、一気に1つの本流に流れ込む。
やや無理があるにしても、その「落としどころ」の深さにはやや驚く。

そして冒頭で書いた、根底に流れているやさしさと共に、厳しい現実、悲しい過去を受け止め、
それらすべてを引き受けた上でこの作品を読んでよかった、と最後のページを閉じるのである。

・・・というわけで加納氏の作品を何作か読んでいる。
氏の作品の多くは、普通の一市民が主人公であり、やさしいトーンと視点でつづられながらも、
時には残酷ともいえる現実の厳しさ・寂しさを内包している。
しかし、主人公は傷つきながらもそれをひらりと飛び越えていく。
それは著者そのものの持っているキャラクターなのかもしれないし、目指すものなのかもしれない。

ちなみに、加納氏は「7」という数字が好きなのだろうか?

私が氏の作品でやはり印象的な1冊として再読している「月曜日の水玉模様」

(1998年初版、2001年文庫化 集英社)も月曜日から日曜日までの7日間に起こった謎を、
強気のOLとややぼんやりした調査会社の社員という妙な組み合わせの二人が
謎解きしていく作品だ。

曜日ごとに1章、全7章で一つの作品を構成している。
毎日その曜日に1章ずつ読んだりしても楽しい。
もし、読まれる機会のある方は、本のタイトルと章の小見出しにも注目してみてほしい。
著者のいたずらに、にやっとするに違いない。
なお、集英社文庫の西澤保彦氏の解説も出色だ。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

ななつのこ

ななつのこ

  • 作者: 加納 朋子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1999/08
  • メディア: 文庫


ななつのこ

ななつのこ

  • 作者: 加納 朋子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1992/09
  • メディア: 単行本


月曜日の水玉模様

月曜日の水玉模様

  • 作者: 加納 朋子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2001/10
  • メディア: 文庫


nice!(1)  コメント(4) 
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コメント 4

こんにちわ。
「月曜日の水玉模様」読んだ事がないですが、とても面白そうですね♪
近いうちに是非読んで見たいと思います。

北村薫さんの方も是非!読んで見たいと思います。
by (2006-01-16 22:15) 

ニライカナイ店主

norizo!さんへ>
「月曜日~」は面白い謎解きがある一方、結構きつーいのもあります。
でも、ちょうど毎日少しずつ読むのにはちょうどよい構成です。
北村薫さんはぜひ読んでくださいね。きっとやさしい気持ちになると
思います。あとは落語!落語に興味がわきますよ。
またあそびに来てくださいね。
by ニライカナイ店主 (2006-01-17 00:46) 

こんにちわ。
オススメ頂いた「月曜日~」読みました♪
「ななつのこ」よりも登場人物の年齢が高い分
また違った日常の謎部分があって面白かったです。
確かにこの「月曜日~」も”7”に関係がありますね(笑)
by (2006-01-29 09:54) 

ニライカナイ店主

norizo!さんへ>
そうなんです。主人公の女性は自分にも他人にも厳しいタイプ。
まだ、それでも若いのかな?と思える部分もあります。
その強さが、最後のあたり(自分の家族との関連)でなぜ強くいなければ
ならなかったか、実は弱い部分ももっているのかな?と思わせるところが
この本の醍醐味だったかな?と考えます。
さて、タイトルと章の見出しの関係はわかりましたか?
by ニライカナイ店主 (2006-01-29 12:31) 

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