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三響會特別公演−伝説と伝承− [観劇(伝統芸能)]

三響會特別公演−伝説と伝承−(夜の部)
新橋演舞場
2006年10月27日(金)18時開演
2階5列10番

平日の昼夜各1回ずつの公演をチラシか松竹のサイトで見て、正直なところどのような会だか詳しく知らず、大河ドラマで舞台を離れている亀治郎が観られるし、七之助、野村萬斎、林英哲なども含めて8400円なら高くない、といった意識でチケットを入手した。

金曜日の夕方だったが、幸い上司も午後からおらず緊急性のある仕事も飛び込んで来なかったので、定時より15分だけのフレックスで早めに会社を出て、東銀座駅から昼の部を見終わった観客の流れに逆らって演舞場へ。

田中傳左衛門、傳次郎の名は歌舞伎の囃子方でも見知ってはいたが、父が能楽太鼓方・亀井忠雄、母が歌舞伎長唄囃子方・田中佐太郎という両親の元に生まれ、能楽太鼓方になった長男の亀井広忠を含めた三兄弟であるということは、今回劇場に来てパンフレットを買ってみて初めて知った。
年齢も30才前後とまだ若い気鋭の三人で、会の通常公演が平成9年以来5回、特別講演も平成14年の紀尾井ホールに続いて2回目だが、パンフレットや看板にある「三響會」という題字が坂東玉三郎の筆というのも、交流範囲の広さを示しているように感じられる。


1.囃子競演
 「一番太鼓」田中傳左衛門
 「宴」    林英哲
 「めじは」 林英哲、一噌幸弘、田中傳次郎
 「魔界転生」囃子:田中傳次郎、尺八:藤原道山、箏:市川慎、笛:福原友裕
       三味線:今藤長龍郎、今藤政十郎、今藤龍市郎、杵屋勝国毅、豊沢長一郎
 「獅子」  亀井広忠、田中傳左衛門、田中傳次郎、一噌幸弘、林英哲
緞帳が上がると照明を落とした舞台の中央にスポットライトに照らされた大太鼓があり、袴姿の傳左衛門が細撥2本で一番太鼓を打つ。続いて盆が回るともう一つの大太鼓が現れて林英哲が力強い演奏を披露する。その後、次第に編成が大きくなっていくが、傳次郎が音楽を担当した「魔界転生」の部分は旋律が少々西洋風であることもあり、多少中だるみ感もあった。ただ、三兄弟と林英哲が揃った最後の「獅子」は、囃子ならではの緊張感と勢いを感じることができた。

2.藤娘 長唄囃子連中
 藤の精:中村七之助
 三味線:今藤政十郎、杵屋勝国毅、今藤龍市郎、杵屋勝正雄、今藤長龍郎
 唄:杵屋利光、杵屋巳津也、杵屋巳之助、今藤龍之右、松永忠次郎
 笛:福原寛、小鼓:田中傳九郎、小鼓:田中傳左衛門、大鼓:田中傳八郎、太鼓:田中傳次郎
 陰囃子:田中長十郎、田中佐英
粒立ちの良い三味線の音が響いて暫くすると一気に照明が上がり、舞台中央の藤を背景に藤の精が立っているといういつもの舞台だが、気合いの感じられる囃子方の演奏が心地よい。ただ、七之助の藤の精はすっきりとしているものの、どうしても動きが固い。藤の枝や笠を持っての動きも、手が長いためもあってか突っ張ってぎこちなくなってしまう。持ち直してくれるかと期待したが、中盤のくどきから終盤の手踊りになっても結局柔らかさはあまり見られなかったのは少々残念。

3.歌舞伎 安達原 長唄囃子連中
 老女岩手実は安達原の鬼女:市川亀治郎
 東光坊祐慶:中村梅枝
 強力太郎吾:市川段四郎
 三味線:今藤政十郎、杵屋勝国毅、今藤龍市郎、杵屋勝正雄、今藤長龍郎
 唄:杵屋利光、杵屋巳津也、杵屋巳之助、今藤龍之右、松永忠次郎
 笛:福原寛、小鼓:田中傳九郎、小鼓:田中傳左衛門、大鼓:田中傳八郎、太鼓:田中傳次郎
 陰囃子:田中長十郎、田中佐英
今回の「安達原」は、澤瀉屋「猿翁十種」の一つとして度々演じられる「黒塚」とは異なり、昭和七年の六代目梅幸所演の台本と明治三年の二世杵屋勝三郎作曲の長唄を基本にしつつ、詞章は能から取り長唄と囃子を巧みに組み合わせているとのこと。
幕が開くと背景に大きな三日月が浮かび、その前に薄が広がっている舞台。まずは梅枝の祐慶が凛とした品の良さを感じさせて良い感じ。段四郎の強力も、終盤まで味わいのある動きを見せる。そして亀治郎は、前半の老女での無気味さは猿之助の「黒塚」の方が一枚上手のようにも思うが、後半では終始切れの良い動きを見せてくれると同時に鬼女の切なさも漂わせて、レベルの高い一幕だった。途中の三味線が、普段あまり聴けないような複雑な手を見せてくれたのも嬉しかった。

4. 安達原
 シテ:片山清司
 ワキ:殿田謙吉、ワキツレ:御厨誠吾
 アイ:野村萬斎
 大鼓:亀井広忠、小鼓:成田達志、太鼓:大川典良、笛:一噌幸弘
 陰囃子:田中長十郎、田中佐英
これまで能を観たことはそれほど多くないが、今回のように歌舞伎と対比させてくれるというのも、分かり易い試みで有り難い。なお、能でも観世流だけが「安達原」という曲名で他の流派では「黒塚」と呼ばれているとのこと。
片山清司は九世片山九郎右衛門を父に、五世井上八千代を姉に持つ42才の観世流シテ方だが、声にも動きにも適度な落ち着きを感じる。歌舞伎では閨を覗く役割は強力で、後半でも祐慶とともに鬼女と対峙するが、能ではアイが押さえきれない好奇心の結果として覗いてしまうまでの経過が描かれ、後場では引っ込んでしまう。萬斎は個性を前に出して軽妙ながら芯のある演技を見せてくれた。歌舞伎と同じ約55分の上演だが、象徴性の強弱ということだけでなく、場面場面でのテーマの浮かび上がらせ方も異なるところなど、興味深く最後まで観ることができた。


終演は21時30分を回ったので遅くまでやっている店を探し、観劇仲間2人と銀座8丁目の「酒席いさみ」へ向かう。料理のラストオーダーが22時、飲み物が23時、閉店が23時30分とのことで、既に生牡蠣が売り切れだったのは残念だったが、冷や奴、まぐろぶつ、カワハギの肝合え、穴子の白焼き、自家製薩摩揚げ、サラダなどなど一気に頼み、生ビールと冷やおろしの日本酒(鳳凰美田など)を飲みながら、それなりにゆっくりとすることができた。


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