あなたのとりこ 594
「ああ、成程ね」 　社長はソファーの背凭れに沈めた体をその儘に、先程の土師尾常務と同質の薄ら笑いを浮かべて、何事か納得するように首を縦に数度動かすのでありました。「まあ今の、日本全国のローカル駅案内..
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あなたのとりこ 593
「実際の営業回りしてみての実感も、まあ確かに前に比べて良くはないですね」 「それは僕も最近頓に感じている」 　ここで待っていましたとばかりに、土師尾常務が日比課長の言に乗っかってしゃしゃり出てくる..
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あなたのとりこ 592
　今迄見縊っていた袁満さんのこのただならぬ剣幕に、土師尾常務は思わず怯んで仕舞うのでありました。この辺りは、体裁は大いに気にしていながら結局のところ全く腹の座ったところのない小心の輩は、こうしてすぐに..
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あなたのとりこ 591
「それもありますけど、他にもあれこれと･･･」 「ほう、何も報告は受けていないけど、他にもあるのかい？」 　土師尾常務は端から信用なんぞしていないと云った風に、眼鏡の奥の目に侮りの笑いを浮かべて口..
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あなたのとりこ 590
「こんな紙一枚を急に出してきて、それであたし達を丸め込もうとしても、それは余りに虫の好い算段と云うものじゃないかしら」 　那間裕子女史は土師尾常務を睨み付けるのでありました。土師尾常務は苦手意識から..
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あなたのとりこ 589
　社長はそう云って袁満さんをじっと見つめるのでありました。袁満さんが手に取った紙の上辺の一角が細かく震えているのは、自分を見る社長の視線に袁満さんが緊張を覚えたからでありましょう。成程社長の眼光には、..
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あなたのとりこ 588
「均目君はどうしてそう、僕を小馬鹿にするような云い草をするんだ？」 　土師尾常務は例によって今度は、均目さんの自分に対する不謹慎な態度にイチャモンを付け始めるのでありました。 「強いご要望であるな..
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あなたのとりこ 587
「では要するに、常務としては那間さんに何を要求したいのですか？」 　ここで均目さんが口を挟むのでありました。土師尾常務はすぐに袁満さんから喧嘩腰の目を均目さんの顔の方に移すのでありました。 「この..
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あなたのとりこ 586
「この前問題になった那間君の件だけど、今日は本人も居る事だし、云うべき事をちゃんと僕の方から云わせて貰おうと思う」 　土師尾常務は如何にも深刻ぶって重々しく口を開くのでありました。「那間君はどうして..
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あなたのとりこ 585
　頑治さんは那間裕子女史を背負った均目さんと一緒に通りに出るのでありました。が、那間裕子女史の介抱は均目さんに任せて頑治さんは全く手を出さないのでありました。 　夜中の街はすっかり人気が失せていて、..
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あなたのとりこ 584
　それは一体どんな那間裕子女史の思いから来た行動なのでありましょうか。まあ、様々な詮索やら手前味噌な想像は働くのではありますが、しかしそれは取り敢えず面倒を回避するために知らん振りを決め込んで、さらっ..
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あなたのとりこ 583
「知ったこっちゃないと不貞腐れないだけ、未だ俺にも救いがあると云う訳か」 　均目さんはそう云って自嘲的になのか、或いはひょっとして頑治さんの、殊勝ではあるか、と云う評価を冷笑する心算でか、歪んだ笑い..
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