SSブログ

オフィチウム [音楽]

ジャズサックス奏者のヤン・ガルバレクと
グレゴリオ聖歌から現代音楽までを幅広く歌う
四人編成の古楽合唱団、ヒリヤード・アンサンブル
この何の関係もない両者が共演した
全15曲からなるアルバム
それが「オフィチウム」というアルバムです。

ECMから発売されたこのアルバムを企画したのは
あのキース・ジャレットのケルン・コンサートを含む
いくつもの名盤をプロデュースしたマンフレート・アイヒャー。
因みに「オフィチウム(officium)」とは
キリスト教の聖職者による日々の聖なる務め(聖務日課)のことで
なんでもオフィスの語源となる言葉とのことです。

このアルバムが録音されたのは1993年で翌年の秋に発売されたのですが
その第一音を聴いたとき
シンプルな、ただし今まで聴いたことがあるようでじつはない
あまりにも美しく、清澄な響きに一瞬にして耳も心ももっていかれてしまったものでした。

その単旋律中心(実際にはかならずしもそうではないけれど)の歌と響きに
即興的かつ詩的なサックスが無言歌的に語りかける
それはあるときには応答のように
あるときはお互いに支えあうように
そして時には片方の音楽背景となるかのように
どこまでも美しく大気の中に溶け合っていく。

たしかにそれは癒しの音楽かもしれないのですが
その透明度の高さは
聴く者の心の底から映し出してくるような鏡のようであり
そのためかこのアルバムを聴くたびに自分というものに対して
言葉にはならない静かな問いかけをされているような
そんな趣もこのアルバムはもっています。

人はなぜ音楽を聴くのか
そこに何を感じ何をもとめているのか
そしてそのとき自分がそこにどううつしだされているのか

このアルバムはおそらく悠久にそのことを
あるときは問いそしてあるときは問わずに
聴き手の中にさりげなく通り過ぎていくことでしょうし
聴き手はその後姿をつねにいつまでも見送りつづけることになるのでしょう

このアルバムは自分がもっているアルバムの中で
極めて異彩を放ちながら最もシンプルかつかけがえのないものとなっています。

CD番号:POCC-1022

(曲目)
1. わたしを見逃してください,主よ(モラーレス)
2. はじめは(作者不詳/十四世紀チェコ)
3. サンクトゥス(作者不詳/十四世紀チェコ)
4. とこしえに統べる方を(作者不詳/グレゴリオ聖歌)
5. 救いなるいけにえよ(リュー)
6. 寝屋から出て来た花婿を(作者不詳/十五世紀ハンガリー)
7. この上なく美しいばらが(作者不詳/十五世紀チェコ)
8. わたしを見逃してください,主よ(モラーレス)
9. 祝せられた胎よ(ペロティヌス)
10. いばらの茂みから生じたばらよ(作者不詳/十四世紀イギリス)
11. クレード(作者不詳/十四世紀チェコ)
12. 幸あれ,海の星よ(デュファイ)
13. かの処女はむちで打たれ(作者不詳/ソールズベリー聖歌)
14. 預言者エレミアの祈り(作者不詳/グレゴリオ聖歌)
15. わたしを見逃してください,主よ(モラーレス)

それにしてもサックスと古楽合唱
この何百年もの時を越えた音楽とスタイルの信じ難いほどのシンプルな融合
ほんとうに音楽というものは面白いし奥が深いものだとおもいます。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽