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ミュンヘンフィルのブルックナー三題 [クラシック百銘盤]

たてつづけにブルックナーのCDを聴いた。
オーケストラはすべてドイツの名門ミュンヘン・フィルハーモニー、
ハウゼッガー、カバスタ、クナッパーツブッシュ、ケンペ、チェリビダッケ、ヴァント等々
ブルックナーの演奏にひとつの伝統をもったオーケストラ。

そのオーケストラによる演奏のブルックナー。
録音の古いものから順にあげていくことといたします。

まず最初はジークムント・フォン・ハウゼッガーの指揮による戦前の録音。
曲目はブルックナーの交響曲第9番(オーレル版)。

ジークムント・フォン・ハウゼッガー(1872-1948)の名前を聞いたのはかなり早い。
戦前、オーケストラによるクラシック音楽を
はじめて(もしくはそれに近い時期)ラジオで放送したとき
その使用音楽について「指揮者がプフイッツナーとハウゼッガーなら問題なし」
という意味の発言があったことを本で目にしたときからだった。

だがプフイッツナーはともかくハウゼッガーはなかなか耳にする機会がなかった。
で、ようやくハウゼッガーを聴くことができた。
1938年の4月(一説には3月末)にミュンヘンで録音されたこのブルックナーの交響曲第9番。

ブルックナーの交響曲第9番の原典版(オーレル版)をはじめて指揮したのは
他ならぬこのハウゼッガーとミュンヘンフィル。(1932年4月2日)
そういう意味では初演者によるこれは録音ということになる。
(またこれはミュンヘンフィルにとって初の商業録音だったとのこと)

それだけでもこれは興味津々というものなのですが
じつはこの録音時期もまた興味深かいものがありました。
1938年4月はハウゼッガーにとって1920年から続いたミュンヘンフィルとの最後のシーズンで、
この後はカバスタが継ぐことになる時期でもありました。

その最後の時期に自分達がちょうど6年前の同じ時期に初演した
ブルックナー最後の交響曲、第9番を録音するというのも
なにかそういう意味も込められてのものだったのかもしれません。
※またこの時期はドイツはオーストリア併合を発表した激動の時代でもありました。

そんな時期のこれは録音ですが当時66歳だったハウゼッガーの指揮がほんとうに素晴らしい。
その音の密度の濃さと緊張感、それに量感が申し分なく
しかも音楽が骨太でありながら意外なほどの鮮烈な激しさも持ち合わせている。
当時としては全体的にはオーソドックスな音の作り方なのかもしれないが
決してそれだけにとどまってはいないし、むしろもの凄いほどの集中力と没我、
そして気迫すら感じさせられるものがある。これはたいへんな演奏だ。

しかしこれほどの演奏、なぜもっと騒がれないのだろう?
たしかにオケのアンサンブルが多少崩れる瞬間があるものの
ここまでの音作りをされたら正直それは些細なものという気がしますし
録音だってSP最盛期といっていいほどの良好な音質を誇っている。
オケだってこういうとオケには失礼な物言いではありますが
ミュンヘンフィルがこの当時これほどいいオケとはおもわなかった、
というくらいの出来を存分にみせているし
指揮者に対し全幅の信頼を置いたと思われるほどの集中力をみせている。
かなり辛口で随所にちょっとワーグナー的な雰囲気を想起させる瞬間もあるが
正直言うことなしのこれは名演だ。

演奏もかなり早めで
①23:39、②9:02、③22:36
というものになっているが、
聴いていてある演奏と妙に重なって聴こえくるのに気がついた。
その緩急自在な表情と劇的な切り込み
そして第一楽章の第二主題の表情のつけ方に特にそれが重なって聴こえてくるのですが、
それはアーベントロートがライプツィッヒ放送を指揮して1951年に録音したもの。

たしかにアーベントロートの方が幽谷感があり、より疾走するような流動感や緩急が大きいものの、
その狙っているものがじつによく似ているような気がするし
特に弦の苛立つような激しい感情の投影は
どちらにも強くあらわれている大きな特長といえると思います。
(そういえばハウゼッガーを尊敬している指揮者にヴァントがいたが
 ヴァントはアーベントロートも高く評価していた。)

因みにアーベントロートの同曲の演奏時間は
①23:27、②8:57、③21:35
とハウゼッガーとかなり近しいタイムとなっています。

考えてみるとアーベントロー、ヴァント、ハウゼッガーと
みなミュンヘンで学びそして活動していたことを思うと
どこかでブルックナーに関してひとつの共通した考えを学びそして育んでいたのかもしれません。

比較話はこれくらいにしてとにかくこのハウゼッガーのブルックナーの9番
この曲が初めて原典で演奏されたときの演奏はどのようなものであったのかを知る
そういう資料的な価値ももちろんあるでしょうし

(じっさい同じオーレル版といわれているアーベントロートと聴いていても
 少なからず違う部分があります。  
 この間にオーレル版に改正の手が入ったのか
 それとも指揮者の解釈による変更なのかは
 自分はスコアに疎いのでそのへんわかりません。
 が、それでもこれはかなり興味深いものがありました。)

戦前のこの曲のミュンヘンでのひとつのスタイルを知る上で、じつに貴重なものという気がします。

ですがそれ以上にこの指揮者がじつに巨大な風格をもち
そして圧倒的なほどに見事なブルックナーを指揮していたという
このことがとにもかくにも素晴らしいことでして
そういう意味でも初めて原典版でブルックナーを指揮することを広めた指揮者でもある
このハウゼッガーのブルックナーの9番。
ぜひひとりでも多くの方に聴いていただきたいものがあります。

それにしてもこの終楽章。
なんといろいろな音が聴こえてくることか。
ブルックナーにとってまもなく訪れるであろう20世紀とは
彼岸の世界にも感じられていたのでしょうか。
そんな感慨さえおもいおこさせるこれは演奏です。

(PREISER 90148)

続いて聴いたのがハンス・クナッパーツブッシュ(1888-1965)が1963年の1月24日に
ブルックナーの8番を指揮した演奏会における実況録音。

クナッパーツブッシュとミュンヘンフィルの同曲というと
この演奏会の大成功を受けて急遽スタジオで録音された
ウェストミンスターのステレオ盤がこの曲の決定盤といわれて久しいですが
このCDはその録音のきっかけとなった伝説的演奏会の録音。

この演奏はとにかく凄い。
スタジオ録音もたしかに立派な風格豊かな名演ではあるものの
ここでは指揮者もオケも一線を越えたような
強烈にして底鳴りのするような雄大かつ力感のこもりきった
とにもかくにも圧倒的な演奏を展開しています。

しかも音質がオリジナルマスターを使用しているといだけあって、
モノラル録音ではあるものの以前発売されていたものより格段に抜けがよくなったせいか、
音楽のもつ本来のニュアンスや音の実在感がじつに明瞭に伝わってきた。
そのおかけで第三楽章の終わりなどは無類の感銘を聴いていて与えられたものだった。

ただ正直いいことだけとは限らなかった。
きわめて贅沢な発言だがこのCD
拡がりとと奥行きがややおとなしめのため
音質が不安定でしかも不明瞭であった既発盤にあった凄みと迫力が
ここではいまいちになってしまったり、
録音がきわめて明晰になったため
今までマスクされていたオケの粗い部分が多少表にでてきてしまうマイナスがでてしまった

このため最初聴いていてちょっと欲求不満になったものですが
二度目三度目と聴いていて音に耳が慣れてくると
今まで聴き取れなかったニュアンスや響きが明瞭に聴き取れることもあり
今ではかなりの満足感にひたっています。

この演奏、かつては音質劣悪な二枚組みのLPで初めて耳にし
その後キングがそのLPに比べはるかに良好な音質でCD化し
そして今回のオリジナルマスターのCDが登場するまで
ほんとうにずいぶんすぎるほどのかなりの年月がたちましたが
待てば海路の日和の言葉どおり
ようやく念願かなったという気がしたものでした。

これは伝説的演奏会の奇跡の記録といっていいと思います。

(ドリームライフ DLCA-7011)

続いてすでにかなりの話題をよんでいる
Altusから発売されたもので
セルジュ・チェリビダッケ(1912-1996)が1986年の10月22日に
サントリーホールで演奏したブルックナーの交響曲第5番。
指揮者にとってもオーケストラにとっても
日本で初めて演奏するブルックナーとなった記念すべき公演のライブ

このCDを聴いていろいろとあのときのことを思い出したり
あと思い違いが判明したりといろいろありましたが
とにかく第二楽章の強大なエネルギーを内包したとてつもなく雄大な音楽
そして1990年以降は影を薄めてしまった
極めて動的な音楽の跳躍力と緩急の多彩さが
比較的オーソドックスな演奏時間だった他の三つの楽章においても
じつに深く息づいていることが確認できたことに
とてつもなく大きな喜びを感じています。

それにしても雄大な歩みですすめられたこのときの第二楽章
まさか第一楽章よりも演奏時間が長かったとは!
しかもあの場にいたときはあの演奏をまったく遅いと感じなかったどころか
このテンポこそ本来あるべき妥当なものと感じられたことを
そしてそのため後にどの演奏でこの楽章を聴いても
しばらくは物足りなさをかんじていたことも
いろいろとこのCDを聴きながら思い出されたものでした。

まるで黄金のオーラを放ちながら
まるで神が舞い降りてきたかのような感すらしたこの第二楽章
そして天から音楽が降ってきたとも
無数の天使が空から現れたとも形容されるような終楽章のコーダの響き。
また随所でみせた絶妙なニュアンスにみちた詩的な響き。
そしてひとつの音が次々と別の音とつながりながら
それらすべてが相互作用したようにどんどん音楽の密度を高めながら巨大化し
そしてついにはホール全体を寸分の隙もなく
音楽とその響きできわめて濃密な空間で埋め尽くした奇跡のような時間。

ほんとうに言葉ではとうてい言い尽くせない
指揮者とオーケストラが全霊をもって音楽を天に向かって捧げ
そして祈り尽くしたような稀有な時間でした。

その記録を今こうして聴いている自分がかつてあの場にほんとうにいたのかと
正直自分かえって信じられないものがCDを聴くたびにおきてくるのは
なんとも不思議なことではありますが
とにかくこのCDは自分にとって生涯繰り返し聴き続ける最愛聴盤のひとつになりました。

因みに自分はかつてこの演奏を次のように回顧しています。

----------(以下引用開始)

 最初は開館した間もないこのホールの響きを聴くために、開場まもないまだまだ空席だらけ
のホールのあちこちで、何人も方が手をパチンパチンと叩いて、その響きを確かめていたりと、
微笑ましい後継が繰り広げられていたのですが、演奏開始後は一瞬たりとも音楽以外を考
えさせない、日本音楽史上空前ともおもえるブルックナーの5番が演奏されていきました。

 ホールをでるとき「こんな神かがったブルックナーは聴いたことがない」という声が聴こえました。
たしかにこれほどまばゆいばかりの崇高な輝きに満ちたブルックナーというのは私も聴い
たことがありませんでした。特に、第2楽章と終楽章の最後の金管のコラールは、天上の高い
ところから響く福音のようにさえ聴こえたほどでした。

 とにかくこのときの演奏は、ほとんど音楽の概念を超えたところに音楽が構築されているよう
な気さえしたものでしたが、ただ「これは本来こういう曲なのだ」という強い意志も同時に感じさ
せられる演奏でもありました。

 それにしてもこのときのブルックナー。もし許していただけるなら、自分には次のような表現を
するしかありません。

    「そのとき神は舞い降りた」と…。

 ものすごいほどの神がかった音楽を天に捧げつくした指揮者とオーケストラ。
そして一瞬の沈黙の後におきた大波のような拍手。
指揮者とオーケストラに対しての聴衆の深い敬意の表れがそこにはありました。

----------(以上引用終わり)

その演奏を今こうして聴いている。
まだ正直実感がわかないという部分もありますが
ほんとうにAltusにはお礼の言葉すらないほど深謝しています。

(Altus ALT-138/139)
演奏時間①23:21、②24:37、③14:23、④26:43

このように立て続けにミュンヘンフィルが演奏した、
三っつのブルックナーの交響曲演奏を聴くことになりましたが
ひとついえることは指揮者も時代もまったく違うものの
どちらもオーケストラがじつに確信をもって音楽をしているということで
もちろん指揮者の存在が巨大ということもあるかもしれませんが
このオーケストラにとってのブルックナーというものが
想像以上に大きくそして根深いものであるということが
この半世紀という時を隔てた三っつのCDからあらためて再確認させられたものでしたし
そういうものをもっているこのオーケストラに
自分は強い羨望の念を同時に覚えたものでした。

日本のオーケストラが今後こういうものをもてるようになるのかどうか
じつにこのあたりむつかしい部分ではありますが
まったく同じようにではないにせよ
ぜひひとつの自負をもった伝統を将来的に築いていってほしいと
これらのブルックナーを聴いていてそう願わずにはいられないものがあります。

上記したミュンヘンフィルの三っつのブルックナー。
そしてそれ以外のミュンヘンフィルの演奏によるブルックナーの数々。
ほんとうに聴くにつれいろいろなことを示唆してくれる、
音楽遺産的ともいえる貴重な録音群だと自分は思います。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

尚、参考資料としてチェリビダッケの日本公演の記録を以下にリンクしておきます。
http://www003.upp.so-net.ne.jp/orch/page027.html
またミュンヘンフィルの初来日の公演曲目も以下にあわせてリンクしておきます。
http://www003.upp.so-net.ne.jp/orch/page159.html

(以下2007年3月7日追加)

最近、やはりミュンヘンフィルのブルックナーで
ギュンター・ヴァントが指揮したブルックナーを聴きました。
この感想につきましては
http://blog.so-net.ne.jp/ORCH/2007-03-07
にあります。


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