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バーンスタインのマーラーとベルリオーズ(1975) [クラシック百銘盤]

「涼宮ハルヒの憂鬱」というTVアニメの影響もあって
バーンスタインの指揮するウィーンのマーラー交響曲第8番を聴きました。
このウィーンのマーラーの8番は
70年代頃のバーンスタインの特長がよく出た演奏だと思います。

これ以前のバーンスタインの60年代というと
凄まじいくらいの抑えがたい情熱で音楽を歌い上げたものが多く
自分などはこの時期のコープランドの作品集などが好きでしたし
またこれ以降の80年代以降は
巨大かつ濃い内容と次第に清澄さを増していく傾向があり
ヒンデミット「画家マティス」やマーラーの交響曲第3番
それにコープランドの交響曲第3番が特に気に入っていました。

で、70年代のバーンスタインはというと
とてつもない究極の感情爆発を起こすことにより
音楽そのもののバランスなどお構いなしにどこまでもそのエネルギーで膨張させ
気持ちひとつで圧倒的な歌い上げを展開するという
怪物的エネルギーを無尽蔵に発散しまくっていた時期という気がします。

その代表例が先の「千人の交響曲」であり
自分の超お気に入りでもある
1973年にロンドン交響楽団と録音されたマーラーの交響曲第2番
そして1975年にフランス国立管弦楽団と録音された、ベルリオーズのレクイエム
というところかもしれない。

どれもがとんでもないくらいの大編成の曲であるが
考えてみると1975年という年は
バーンスタインがマーラーとベルリオーズにとって最大編成の曲
しかもともに場合によっては演奏者が千人にも達するという超大曲を立て続けに録音するという
とんでもない年だった。

こんな正直ふつうなら気力がくじけそうになるような膨大な曲を
マーラーは8月、ベルリオーズは9月、と立て続けに指揮をする
しかもそのどちらも圧倒的な演奏を展開しているのだから
もうこれは異常というか怪物的としかいいようがない。

マーラーはときおり聴かせる気の遠くなるような大リタルダント
そして殺気だつほどの凄まじいテンポなど
この大曲をまるで今生まれたかのような感覚で
感情の赴くままに緩急自在にこの大曲を描きつくし歌い上げていく。
そこには他人事的な雰囲気は一瞬たりとも存在せず
もうこの曲と今死んでもいいというくらいののめり込みをみせている。
これを聴いていると
ひょっとしてマーラーがこの瞬間バーンスタインに憑依し
久しぶりに自らの曲を指揮できる歓びに無我夢中になっているのではないかと
そんな感じすらするほどで
正直途中から多少怖い感覚もそこに感じてしまうものがある。

これはこの二年前に録音した「ロンドンの復活」にもいえることで
まさにここではバーンスタインが「捨て身」で音楽に没入した
究極的的な感情爆発による空前の「歌い上げ」の音楽となっている。

そしてこの翌月にはベルリオーズの大作で
これまた凄まじいドラマを展開している。
「怒りの日」や「涙の日」で大地鳴動ともいえる
ティンパニー群の轟々たる地鳴りのような響きにのせて
炸裂する金管と咆哮する合唱のそれは
とてもこれが宗教音楽とは思えないほどあまりにも劇的で
しかも巨大すぎるくらい巨大な響きとなっていた。
その響きは録音会場のオテル・デ・ザンヴァリッドの中でついには飽和状態となってしまい
録音で聴いているとちょっと窮屈な響きに感じてしまうほどだった。
だが凄いのはこの響きがなり終わった瞬間
その会場に余韻として響いたその響きがものすごい。
「ぐわーん」とした響きが余韻として鳴り渡るのが聴きとれるのですが
その響きのスケールの大きさと迫力と凄みが半端ではない。
まるで巨峰のみが映し出す巨大な山影に匹敵するといっていいのかもしれないし
となるとこのとき会場でなっていた音楽本体はいったいどんなものだったのかと
正直想像するだけで鳥肌がたつし身震いしてしまいそうだ。

このようにバーンスタインはこの年とんでもない二つの録音を残しているのだが
この二つはただ巨大かつとてつもない迫力をともなうというだけでなく
随所に聴かれる美しい歌いまわしや
清澄な祈りを思わせる弱音の響きなど
じつに神経が行きととどいた部分ももちあわせている。
そしてその両極の差がまたとてつもなく巨大であるということが
さらにこの二つの演奏をより鮮烈に感じさせているのかもしれない。

バーンスタインこの時57歳。
なんとがむしゃらかつ無心に音楽に対峙していることか。
音楽というものと人間というものの関係の
その究極ともいえる姿をここにみるような気がするのは
はたして自分だけでしょうか。

ほんとうに言葉では推し量れない領域というものを
この二つの演奏からは常にあまりにも強烈に感じさせられてしまいます。


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