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虚業成れり-「呼び屋」神彰の生涯(大島幹雄) [いろいろ]

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  この本に書かれているのは、かつてAFAを興し、時代に突撃をかけていった神彰氏のこ
と。それにしてもこれほどテンションの高い人とは思わなかった。筆者はそれを「幻」を追うと
いう表現をしていた。たしかにそうなのだが、この本を読んでいると、そのテンションの高さを
強引に持続しようとしているというか、テンションが落ちた時の自分にものすごい未知の不安
のようなものを抱えていた、そのためそれを恐れわき目もふらず突っ走っていたような気がし
た。そしてそれが再婚後その呪縛から解き放たれたときには、自分の身体に問題がおきて
いたという、なんともいえない辛い気がしたものだけど、よくよく考えてみると、この人一度きり
の人生で、ひとつのことを二人分の人生を使ってやってしまったことを思うと、贅沢すぎるくら
い我侭な人生をこの人は謳歌したような気もした。

 あと一見滅茶苦茶をやっているような神氏だが、本を読んでいるとそのやっていることはけ
っこう直球勝負のような気がするし、神氏の哲学の中では首尾一貫していたような気もする。
何をやるにもアクセルを床が抜けるほどおもいっきり踏み込む。たしかに相手が逃げも隠れ
もしなければこのやり方は無敵だが、相手がかわす術をもっていた場合、あっさりとその土
俵を自ら退場してしまうことになってしまう。アメリカにやられたのもそのせいかもしれないし、
時代がそれだけでは動かなくなったというか、多彩多様化したことも神氏の招聘師としての寿
命を縮めたような気がしたし、そのことは筆者も指摘していた。

 それにしてもかつての西鉄ライオンズのような野武士の集団AFA。当時ある意味村におけ
る、年に一度の神社のお祭りのような雰囲気すらあった、外国のオーケストラやバレエ、さら
にはサーカスを呼ぶといった行為を、これらの公演に赴いたお客様以上に自分達がたのし
んでいたような気がする。(本文中の「ワルプルギスの夜」と称した宴会のことなどは特にそう
した感じがした。)それだけに本の後半の祭りの後の寂しさのようなものがまた印象に残り、
その祭りを終わらせたくなかった神氏の行動も強く印象に残った。神氏はそういう意味では
徹頭徹尾お祭り好きの子供のような人だったのかもしれない。

 その後神氏は復活したものの、平成に入ってから体調を崩し、そして21世紀をみずして退
場していってしまった。昭和の後ろ半分に巨大な足跡を遺して…。それは神氏らしいこれまた
首尾一貫した退場の仕方だったような気がする。

 ですがこの本によって神彰氏は21世紀に復活したような気がしたものでした。それは筆者
の大島さんのこの本にもりこまれた、神彰氏に対するおもいのたけがそうさせたのでしょう。
あれだけの途方もない人生を歩んだ神彰氏を描くために、大島さんはその経験、取材努力
のすべてを、それこそ自分自身による「ひとりの人間による総力戦」のような形で行っていっ
たような気がします。だからこそ多くの方の協力を得られそしてこの本が完成したような気が
します。これは多くの方々によって支えられた、「ひとりの人間による総力戦」を行った筆者に
よる、巨大なひとりの人間を通して描かれた、昭和の時代のひとつの断片を描ききった作品
という気がします。

 私事で恐縮ですが自分は十年程前利き目を患い、そのためその後読書等を控えてきまし
たが、今回はその事を忘れて一気に400頁あるこの本を読破してしまいました。それほどこの
本は人を惹きこむ力がありますし、ある意味昭和版の大河ドラマといったかんじがしたもので
した。とにかくものすごく心に余韻が残る本でした。これぞまさしく

「読まずに死ねるか!」

 という本でありましたし、これほどの内容の本をこの価格で読んでいいのかとさえ思ったほ
どでした。それにしても神氏にとって人生とは道なき道を行く冒険のようなものだったのでしょ
うか。この本は何度も読むと、また違った答えを与えてくれるような気がしますし、一度や二
度読んだだけではほんとうの面白さはわからないかもしれません。とにかくこの本は、鉄板の
お薦め本であるということをここに宣言させていただきます。

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 と、一年ほど前にサイト本体ににこの本の感想を書いたのですが、このまえ久しぶりに読んでみてやはり面白かったし、なんか妙に元気になったような気がしました。

 たしかにかなり荒っぽいし多少手順を省いた人生を、この本の主人公である神彰氏は走りきっていったものの、なにか今の日本に欠けているものをたらふく持ち合わせていたようにも感じられます。こういう「走りきれる」人生をおくれる人ってこれからの日本にどれだけでてくるのでしょうか。

著者、大島さんのサイト
http://homepage2.nifty.com/deracine/


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