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カポーティ [外国映画]

監督:ベネット・ミラー    出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、 キャサリン・キーナー、
クリス・クーパー、 クリフトン・コリンズJr.

「作家の業」という言葉が、この映画を見終わって浮かんできた。「業」というのは一体どういう意味なのか、漠然とは理解しているつもりだった。俳優や芸術家がよくこの言葉を使う。辞典(新明解)を引いてみると、「仏教で、現在の環境を決定し未来の運命を定めるものとしての善悪の行為。狭義では、悪い行為を指す。」とあった。
 カポーティが、「冷血」という小説を書くために行ったことは、果たして良かったのだろうか、それとも悪い行為だったのか。

 トルーマン・カポーティ(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、1959年11月、カンザス州ホルカムで農業を営むクラター家の一家4人が惨殺された事件を新聞で読む。彼は、この事件を取材したノンフィクションノベルを書きたいと強く望む。そして幼馴染の女流作家ハーパー・リー(キャサリン・キーナー)を誘って、カンザス州へ向かう。
 この時代、小説はフィクションと決まっていた。しかし、カポーティはノンフィクションノベルも同じように、読者の心をつかむことが出来るはずだと考えていた。

 カポーティは、この事件の犯人で死刑囚のペリー・スミス(クリフトン・コリンズJr.)とディック・ヒコック(マーク・ペレグリノ)に面会を申し込み、5年余の歳月を費やして取材をし、死刑の現場にまでも立ちあって、「冷血」というノンフィクションノベルを完成させたのだ。

 フィリップ・シーモア・ホフマンは、実際のカポーティの写真とほとんど変わらないくらいの外観をつくりあげていた。カポーティはゲイだったせいか、ちょっとトーンの高いしゃべり方をする人だったようだ。社交界ではジェット・セット(ジェット機で世界中を飛び回るセレブリティー)として、有名な俳優達と交流があり、華やかな人生を歩んでいた。
 しかし、この「冷血」を書き上げるために、殺人犯のペリー・スミスと親しくなり、心を通わせあう友人といってもよいような関係にまでなったことにより、地獄のような苦しみを味わうことになる。この
カポーティの栄光と苦悩を、フィリップ・シーモア・ホフマンは見事に演じていた。
 人間として、犯人の孤独を深く理解し心を通わせあう一方で、作家として作品を完成させるために、犯人の死刑を望むという矛盾した状況。
 最後にペリー・スミスに望まれて、絞首刑の現場に立ちあったのは、人間的な感情からだったのか、それとも作家の業がそうさせたのだろうか。
 
 「冷血」はカポーティに富と名声をもたらし、ノンフィクションノベルという新しいジャンルを確立させるが、この作品以降、彼は一冊も本を完成させることがなかったのだそうだ。

 作家とは、最高傑作を書きたいという欲望に突き動かされ、行動してしまうものなのだろうか。それは「常識」では縛ることのできない、自分で制御できない大きな力なのだろうか。
 
 フィリップ・シーモア・ホフマンの名演技によって、人間そして芸術というものの怖さをスクリーンから感じることができた。私の趣味とはちょっと違う作品だったが、ホフマンの演技は一見の価値があると思う。
 


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ken

最初の一行だけ読ませて頂きました。まだ観ていないので。
でも最初の一行でnice!です。
とても観たくなる一文でした。
by ken (2006-10-14 13:43) 

coco030705

kenさんへ
nice&コメントありがとうございます♪♪
嬉しいお言葉、光栄です。
kenさんの映画評を心待ちにしております。
by coco030705 (2006-10-14 16:21) 

monad

とても興味深い話です。
ぼくは「冷血」もカポーティも知りませんが、ノンフィクションの場合だと、自己満足だけでは飽き足らず、世間からの評価が原動力になるのかな、と感じました。
既にある現実を、ひとつの物語とするために、何かが犠牲になる必要があるのだろうか、と考えさせられます。
by monad (2006-10-14 22:07) 

non_0101

こんばんは。
フィリップ・シーモア・ホフマンの演技はすごかったですね!
後からカポーティ本人の写真を見て、本当に似ているのでビックリしました。
それにしても芸術家とか作家とか、何かを作り上げる人は
その作品に自分を捧げてしまうものなのですね。「業」ってちょっと怖い言葉です…
TBさせていただきますね。
by non_0101 (2006-10-14 22:55) 

coco030705

モナドさんへ
コメントありがとうございます♪
そうですね。「現実」を新聞記事ではなく、「小説」にしなきゃならないんですから、何かを犠牲にすることになるのでしょうか。怖いことです。
by coco030705 (2006-10-14 23:04) 

coco030705

nonさんへ
nice&TB&コメントありがとうございます♪
「自分をささげる」という点では、ちょっと恋愛と似ているような気もします。
恋愛だって、場合によっては自分を殺してしまうことだったあるんですものね。
いずれにしろ、すごいことですね。
by coco030705 (2006-10-14 23:08) 

鯉三

この映画は前評判も高いし、おまけにわたしにとっては「趣味にあう」作品だと思うので機会があればぜひ観てみたいと思います。実際は台湾にいるので、字幕の問題もあって、なかなか劇場へ足をのばせない状況です。

「作家の業」。
フィクション、ノンフィクションに関わらず、芸術に身をささげるということはそういうギリギリのところで対象と対峙することなのでしょうか。生の自分が試される瞬間を幾度となく経験するわけですね。果たしてその中で書き続けていけるのかどうか。まさに作家の苦悩であり、作家の業なのだと思います。
by 鯉三 (2006-10-15 01:56) 

coco030705

鯉三さんへ
nice&コメントありがとうございます♪
台湾では、字幕が台湾語なんでしょうね。
でもフィリップ・シーモア・ホフマンのアカデミー賞の演技は、一見の価値があると思います。ぜひご覧になってくださいね。


DSilberlingさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2006-10-15 09:06) 

Naka

こんにちは。
私も見て来ましたが、
作品を生み出す時の作家の苦しみが丁寧に描かれていて、
感銘を受けました。
フィリップ・シーモア・ホフマンの演技、素晴らしかったですね。
by Naka (2006-10-15 13:52) 

TaekoLovesParis

カポーティは「冷血」「遠い声遠い部屋」の他に短編集を大学のテキストで原文で読んだので、作家の中では身近に感じる人。ティファニーで朝食をもそうですよね。予告編でいきなりカポーティ役のフィリップ・・ホフマンが出てきたとき、
びっくりしてしまいました。あまりにも本人に似ていたから。
作家が作品にのめりこんでいくこと、、いいとも悪いともいえませんが、多分、
そういう状態に持って行く方が分身としての作品がつくりやすいんでしょうね。
まだ見てないから、これ以上なんとも言えないので、見てから、またね。
by TaekoLovesParis (2006-10-15 16:43) 

Sho

はじめまして。Sho といいます。
coco030705 さんの記事を読んで、どうしてもこの小説が読みたくなりました。
又、記事を読みながら加賀乙彦の「宣告」を思い出していました。
これは死刑囚と対話を続けた精神科医が、後に彼のことを小説にしたててたものですが、後にその死刑囚のノートを読んだとき、まさに彼が作家に「のりうつっていた」としかいえないように思いました。
「業」というのは深い言葉ですね。私のような凡人は、どこか憧れすらもってしまいます(笑)
by Sho (2006-10-15 19:53) 

Sho

coco030705 さ―――ん ! ごめんなさい ! ! ! <(_ _)>
はじめましてじゃないです。以前、「雨あがる」の私の記事にきていただいてました。おじゃまするのがはじめてでした。
うっかりしてて・・・ これに懲りずに、どうぞ又おこしくださいね。
by Sho (2006-10-15 20:00) 

coco030705

Nakaさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
作家や芸術家の苦しみというのは、凡人には想像しかできませんが、
このフィリップ・シーモア・ホフマンの演技によって、少しは理解できたような気になりました。それくらい、素晴らしい演技でしたね。


Taekoさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
大学で「冷血」と「遠い声遠い部屋」etc.を読まれたんですか。
いいチャンスがあってよかったですね。しかも学生時代に読んだものは
記憶にはっきりと残っているのでは。
この間、紀ノ国屋(大阪)で「冷血」の訳本がずらりと並んでいました。
かなり分厚かったので、買うのをためらってしまったんです。でも、映画を
見たからには、この本も読んでみなくてはと思っています。


Shoさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
ご丁寧に2回も来ていただき、嬉しく思います。
私もShoさんのお名前は、覚えていたのですが、いつお邪魔したのかは、
すっかり忘れていました。こちらこそ、失礼しました。
加賀乙彦の「宣告」も怖そうだけど、おもしろそうですね。機会があったら
読みたいと思います。
「冷血」はかなり分厚かったんですが、チャレンジしなくちゃと思っています。
今後とも宜しくお願いいたします。
by coco030705 (2006-10-15 21:44) 

TaekoLovesParis

Cocoさんへ
あ、書き方がわるくてすみません。原書で読んだ(読まされた)のは、短編だけ。「冷血」も、「遠い声部屋」も訳本です。あのぶ厚さを原書で、、とうてい無理ですもの。「冷血」は内容が内容だから厚いわりにはさらっと読めたけど、後味が悪くて。。。ヘミングウェイも作品に同化するタイプですね。銃が暴発して
亡くなったけど、歳とってもう自分が冒険できなくなったから、自殺したのでは、と言われましたね。真偽のほどはわかりませんが。。。
by TaekoLovesParis (2006-10-15 23:14) 

coco030705

Taekoさんへ
「冷血」の後味が悪かったというのは、よくわかります。
だから、私もこの映画は「趣味とはちがう」のです。
けれども、フィリップ・シーモア・ホフマンの演技はやっぱり
アカデミー賞に値すると思いますね。でも、無理にご覧になることは
ないですよ。趣味に合うかどうかも大事なことですよね。
by coco030705 (2006-10-15 23:28) 

kenskish

Cocoさん、こんにちは。
「カポーティ」ご覧になったのですね。
僕は未見なので今記事は読んでません。観たらその後じっくりと拝見します。
では~♪
by kenskish (2006-10-16 01:43) 

coco030705

kenskishさんへ
コメントありがとうございます♪
kenskishさんの記事を楽しみにまってますよ~☆
by coco030705 (2006-10-16 08:55) 

chiba-mani

ココさんコメントどうも有難うございました
作家、しかも後世に残る作家と言うものは常人では計り知れない狂気のようなモノを持ち合わせてるような気がした作品でしたね 私はトルーマンのような友人は欲しくないですけど(笑)
しかし、死刑執行場の倉庫の様な雰囲気には驚きましたねぇ
極悪非道の殺人犯とはいえその場で殺すわけだからもう少し何とかしろよ、、とグッタリしました
by chiba-mani (2006-10-19 04:25) 

しまうま

 ココさん はじめまして。

 私はこれ見て、ど~~んと落ち込みましたねえ。ところで、スミスを演じた俳優さんもすごかったと思います。カポーティの葛藤というか裏切りを咎めるような、その一方で、子犬のようにすがりつくような目。最後の方はまるで本当にこれから殺されに行く人を見ているようで、非常に気分がしんどかったです。

 どうして一家を皆殺しにしたのか、という動機について、最後の方で一気に語るじゃないですか。普通に言葉尻だけ聞けば「?」な動機だけど、スミスの生い立ちやこれまでの人生を踏まえて考えると何となく分かる気がする。そういう意味ではひどい犯罪だけど、理解できる分だけ「救い」があったと思うのです。

 逆に、最近の世の中ってまったく理解不能な凄惨な事件が結構起きますよね。そんな事件にもスミスのような理解できる背景や理由はあるんだろうか、あるとしたら、誰もそれを聞かないままに「ひどい事件だったよね」で過去のことにしていいものなのかな、などとも思いました。ちょっと映画とずれましたが。
by しまうま (2006-10-19 12:48) 

coco030705

千葉のマニーさんへ
コメントありがとうございます。
これは本当に怖い映画でしたね。後味の悪い映画というのか・・・。
フィリップ・シーモア・ホフマンの熱演がなかったら、ただの暗くて気持ち悪い映画、で終わってたかもしれませんね。主演俳優のキャスティングは大事だと思いました。


しまうまさんへ
コメントありがとうございます。
確かに、カポーティと同じように、観客も犯人に同情する余地が残されていましたね。おっしゃるとおり、今の世の中ほんとうにおかしくなってますね。理由もなく殺人を犯す人間が増えてると思います。これはやはり家庭教育が崩壊しているからなのでは、と個人的には思っています。
by coco030705 (2006-10-19 15:36) 

tzneyan

 はじめまして。ここにおじゃましてcoco030705さんの趣味の映画とはちょっと違うというのが良くわかりました。僕の趣味でも決してないのですが。映画ってタイミングですよね。油断してた時にパンチが飛んできた...そんな感じだったのでしょうか。主演男優賞の演技ってどんなもの?....そんな気分で見に行ったので, やられてしまいました。家に帰ってアラバマ物語を勢いで観てしまいましたが, 久しぶりに観たこの作品にまたまたやられてしまいました。機会があれば是非。http://www.geocities.co.jp/Hollywood/5710/kill-mockingbird.html
by tzneyan (2006-10-21 10:33) 

coco030705

tzneyanさんへ
nice&TB&コメントありがとうございます♪
おっしゃるとおり、映画を見るのってある程度タイミングが大事ですよね。
後で見ようと思って、DVDで見てもそんなに感動しない映画もたくさんあると思います。やはりスクリーンで見るということと、旬というものが映画にはあると思います。「アラバマ物語」は題名だけ聞いたことがあります。またいつか見てみたいと思います。
by coco030705 (2006-10-21 17:17) 

coco030705

キキさんへ
こちらにもnice! ありがとうございます♪♪
by coco030705 (2006-10-22 15:42) 

クリス

おはようございまーす。
絞首刑に立ち会った時、彼は友達としての自分だったような気がします。実際、ペリーからの電報を読む迄は会いに行くのもためらっていたし、死刑が決定した時点で、彼の小説は完成していたのかなぁと。
それにしても。文字にしてこの映画を描くのを難しく感じています。
by クリス (2006-11-01 08:40) 

coco030705

蟻銀さんへ
nice&コメントありがとうございます♪
友達としての心情と、作家としての書きたいという欲望、その狭間で
苦しんだカポーティが大変よく表現されていたと思います。
蟻銀さんがおっしゃるように、死刑のときは、苦しみの中で友情のために
立ち会ったカポーティの、人間的な一面が描かれていたのだと思いました。
by coco030705 (2006-11-01 09:56) 

ELEY

ココさん、コメントありがとうございます〜。
ココさんがご覧になってる作品を見ますと、同じような作品を良かったと思ってそうですね。
しっかりした感想を書かれていて読み応えがあります。
またよらせてもらいます。
by ELEY (2006-11-12 17:43) 

coco030705

ELEYさんへ
コメントありがとうございます♪
好みが似ているところがありますよね。私はELEYさんほどたくさん
映画をみてないので、いいかげんです。私も時々よらせてもらいますね☆
by coco030705 (2006-11-12 17:54) 

クリス

こんにちは~♪
私もようやくカポーティについて書いてみたんで、トラバさせて頂きますね。こうやって彼の善悪についてetc観た後に議論ができる映画というのは、良いですよね。ブログを通して、そういう機会が飛躍的に増えたことを、嬉しく思います☆
と思ったら、うまくトラバできてないようなので、またきまーす。
by クリス (2006-11-15 11:29) 

coco030705

蟻銀さんへ
トラバありがとうございます♪
さっそく覗かせていただきます。
by coco030705 (2006-11-15 20:57) 

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