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#7:20070314 [セミナー]

「報告書を使うことを考える」と題する発表をしていただいた。
考古誌批評(報告書論)は、第2考古学を構成する重要な主題である。しかし、そこに至るには、最低限踏まえておくべき認識が要求される。「使う」すなわち「読む」ことは、「作る」すなわち「書く」ことと表裏一体となった営みである。

「<第2考古学>を主題とする研究は、考古資料が記録される過程<変換1>を明らかにすることで、考古資料の特性を明らかにする。さらに考古誌の構成を分析する過程<変換2>を通じて、考古記録が「テクスト化される過程」が明らかになる。」(五十嵐2004d「考古記録」『現代考古学事典』:125.)

私たちがある事柄を観察して得られた情報を書き記すという行為、表象の諸様式に関する記号論的分析(「遺構」とか「土蔵」とか「肥前」とか・・・)がどのような慣習に基づいて構築されているのか、「テクストとして読み解く」ことが立脚点とならなければならない。

「民族誌を書くことと読むことは、著者個人や解釈をする集団のコントロールを超えた最終的な権力によって、余りにも決定されすぎてしまっている。いまや書くという作業を行なうとき、言語、レトリック、権力、歴史といった付随事項に正面から向かいあうべきである。これらをもはや回避するわけにはいかない。しかし、これに立ち向かうとなると、検証というやっかいな問題が生じてくる。文化の説明の真偽はどのように見分けるのか? 科学を芸術から分離する権威は誰にあるのか? リアリズムをファンタジーから分離する権威はどこに? イデオロギーを知識から分離する権威は? むろん、これらの分離は今後も維持されるだろうし、書き改められ続けるだろう。しかし、私たちは常に変化するこれらの権威の詩的基盤と政治的基盤をそれほど簡単に無視できなくなってこよう。少なくとも文化の研究においては、私たちはもはや全体の真実を知ることはおろか、それに達しようと主張することすらもできなくなっている。」(ジェイムズ・クリフォード(春日直樹ほか訳)1996「序論 部分的真実」『文化を書く』紀伊国屋書店 文化人類学叢書:44.)

「民族誌学は奇妙で特異な諸事実を、これは魔術、あれは技術といったふうになじみの整合的なカテゴリーに分類する学問である、とする俗説の幻想性が暴露されてから、久しい歳月が流れている。にもかかわらず、では民族誌学あるいは人類学とは何か、と問われると、答えは依然として明らかではない。ひょっとしてそれは一種の著述法、事物を紙の上に書き記す方法かもしれないという思いが、人類学を生産する人びと、消費する人びと、あるいは両方の営みを生業としている人びとの頭をよぎることはこれまでもあった。しかし人類学そのものの正体を吟味する仕事は、これまでいずれもあまり筋の通らぬいつくかの憂慮によって拒まれてきたのである。」
(クリフォード・ギアーツ(森泉弘次訳)1996『文化の読み方/書き方』岩波書店:1)

私たちが「考古誌」について論じようとするならば、少なくともこうした両クリフォードの認識からスタートしなければ、議論が噛み合うはずもない。

「発掘調査報告書は、考古学のもっとも基礎的な情報源のひとつである。その内容を的確に理解することが、研究の第一歩となる。」(宮尾 亨2007「報告書とは」『考古学ハンドブック』新書館:62)

「その内容」とは、どのようにして得られた内容なのか? 
それは、どのような認識のもとで、どのような書法に従って書かれた内容なのか? 
そして、それを「的確に理解する」とは、いったいどのような事柄を意味しているのか?

「1980年代以降、人類学は大きく変化した。その最大の原動力はポストコロニアリズムが人類学に浸透する過程でおこなわれた人類学者による人類学批判であった。この批判は近代人類学をなりたたせてきた一連の基本的な枠組に焦点をあてたものであり、その是非をめぐって多くの議論がなされた。その帰趨をみると、批判をのがれ、無傷でありつづけた枠組はたとえあったとしても、そう多くはないと思われる。これらの批判や議論の背景には世界規模の政治的、社会的、経済的な状況の大きな変化がある。近代人類学をなりたたせてきた多くの枠組はこの変化についていけなかったのである。」(杉島 敬志2001「序論 ポストコロニアル転回後の人類学的実践」『人類学的実践の再構築 -ポストコロニアル転回以後-』世界思想社:1)

果たして、考古学者による日本考古学批判はおこなわれただろうか?
「無傷である」と思っているのは、内部にいる者だけである、ということはないだろうか?


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